プリムローズ症候群(Primrose Syndrome)

医者

プリムローズ症候群という診断名を聞き、あるいは医師からその疑いがあると言われ、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

聞き慣れない病名に、戸惑いや不安を感じていらっしゃるかもしれません。この病気は世界的に見ても報告数が少ない「希少疾患(きしょうしっかん)」の一つであり、日本語での詳しい情報はまだ非常に限られているのが現状です。

インターネットで検索しても、専門的な英語の論文ばかりが出てきて、具体的な生活のイメージが湧きにくいことも、不安を大きくさせている要因かもしれません。

まず最初にお伝えしたいのは、診断がついたからといって、お子さんの未来がすべて決まってしまうわけではないということです。

希少な病気であっても、適切なサポートと理解があれば、その子らしい穏やかな時間を積み重ねていくことができます。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

プリムローズ症候群(Primrose Syndrome)は、1982年にスコットランドの医師、D.A. Primrose(プリムローズ)博士によって初めて報告された先天性の疾患です。

発見者の名前にちなんでこの名がつけられました。

どのような病気か一言で言うと

「知的発達の遅れに加え、成長とともに耳の軟骨が骨のように硬くなる(石灰化・骨化)、筋肉が痩せてくる、といった特徴的な身体の変化が現れる遺伝性の病気」です。

発生頻度

非常に稀な病気であり、世界での報告数も数十例から百例程度(正確な統計は難しいため推定)と言われています。

しかし、近年の遺伝子解析技術(次世代シーケンサーなど)の進歩により、診断されるケースが少しずつ増えてきています。これまでは診断がつかずに「未診断疾患」とされていた方の中に、プリムローズ症候群の方が含まれていたことがわかってきたためです。

進行性の変化

この症候群の大きな特徴は、生まれた時には目立たなかった症状が、年齢を重ねるとともに現れてくる点にあります。特に、筋肉の状態や行動面での変化は、成人期にかけてゆっくりと進行することが知られています。

主な症状

プリムローズ症候群の症状は、全身のさまざまな場所に現れます。

個人差はありますが、代表的な症状を体の部位や機能ごとに詳しく見ていきましょう。

1. 頭と顔の特徴(顔貌)

お顔立ちには、いくつかの共通する特徴が見られることがあります。

耳介の石灰化・骨化(最も特徴的なサイン)

この病気の最大の特徴です。耳のふち(耳輪)などの軟骨が、カルシウムが沈着することで石灰化し、最終的には骨のように硬くなります(骨化)。

生まれた時から硬いわけではなく、多くは小児期後半から成人期にかけて徐々に硬くなっていきます。触るとゴツゴツとした硬さを感じることがあります。Shutterstock

巨頭症(頭が大きい)

生まれた時から、あるいは成長の過程で、頭囲(頭の大きさ)が平均よりも大きくなる傾向があります。

顔立ちの特徴

おでこが広い、目が離れている(眼間開離)、まぶたが下がっている(眼瞼下垂)、下あごが出ている、といった特徴が見られることがあります。これらは成長とともに変化することもあります。

2. 知的発達と行動面

知的発達症(知的障害

多くの場合、中等度から重度の知的障害を伴います。言葉の発達がゆっくりであったり、身の回りのことを自分でするのにサポートが必要だったりします。

自閉スペクトラム症(ASD)の特性

人とのコミュニケーションが苦手、こだわりが強い、変化を嫌うといった、自閉スペクトラム症に似た特性を持つことが多いです。

行動の問題

年齢が上がるとともに、不安を感じやすくなったり、興奮しやすかったり(易刺激性)、同じ動作を繰り返す常同行動が見られることがあります。また、睡眠障害(夜なかなか寝ない、途中で起きる)を伴うこともあります。

3. 筋肉と運動機能

筋萎縮(筋肉が痩せる)

これも重要な特徴の一つです。若い頃はふっくらしていても、年齢とともに筋肉が落ちて痩せてくる傾向があります。特に手足の先(遠位筋)の筋肉が落ちやすいとされています。

拘縮(こうしゅく)

筋肉が痩せたり、関節を動かす機会が減ったりすることで、関節が硬くなり、伸びにくくなることがあります。

運動発達の遅れ

首すわり、お座り、歩行などの運動発達は、一般的なお子さんよりもゆっくり進みます。筋肉の低緊張(体が柔らかい)が見られることもあります。

4. 目の症状

白内障

通常は高齢の方に多い白内障ですが、プリムローズ症候群では、小児期や若年期に白内障を発症することがあります。視力の発達に影響するため、定期的な眼科チェックが欠かせません。

その他

斜視(視線がずれる)や眼振(目が小刻みに揺れる)が見られることもあります。

5. 代謝・内分泌の症状

糖代謝異常

インスリンの働きが悪くなり、糖尿病のような状態(耐糖能異常)になりやすい傾向があります。インスリンを使っても血糖値が下がりにくい「インスリン抵抗性」が見られることがあります。

皮膚の特徴

皮膚が薄かったり、乾燥しやすかったりすることがあります。また、体毛が少ない(乏毛)傾向も見られます。

6. 脳の画像所見

CT検査などを行うと、脳の一部(大脳基底核など)に石灰化(カルシウムの沈着)が見られることがあります。これは耳の硬化と同じように、カルシウムの代謝に関わる変化と考えられていますが、これ自体がすぐに何か悪い症状を起こすわけではありません。

また、脳梁(右脳と左脳をつなぐ橋)が薄い、あるいは欠損しているといった特徴が見られることもあります。

原因

なぜ、このような多様な症状が現れるのでしょうか。その原因は、近年の研究で特定の遺伝子の変化にあることがわかってきました。

ZBTB20遺伝子の変異

プリムローズ症候群の原因は、第3番染色体にある「ZBTB20(ズィービーティービートゥエンティ)」という遺伝子の変異です。

ZBTB20遺伝子の役割

この遺伝子は、体の中で「転写因子(てんしゃいんし)」と呼ばれるタンパク質を作ります。

転写因子とは、他のたくさんの遺伝子のスイッチを「オン」にしたり「オフ」にしたりする、いわば「オーケストラの指揮者」のような役割を持つ重要な物質です。

ZBTB20は、特に体の成長、エネルギーの代謝、脳の発達に関わる多くの遺伝子をコントロールしています。

この指揮者であるZBTB20に変異が起きると、本来働くべきタイミングで遺伝子が働かなかったり、逆に働きすぎてしまったりして、全身の代謝や発達に影響が出ると考えられています。

遺伝の仕組み

プリムローズ症候群は「常染色体顕性遺伝(優性遺伝)」という形式をとります。

ほとんどが「突然変異」

「遺伝」という言葉がつきますが、プリムローズ症候群の患者さんのほとんど(ほぼ全員)は、ご両親から遺伝したのではなく、受精卵ができる過程で偶然起こった「突然変異(de novo変異)」によるものです。

ご両親の遺伝子に異常があるわけではありません。したがって、「親のせいで病気になった」とご自身を責める必要は全くありません。

また、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のご家庭とほとんど変わりません(1%以下)。

医者

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝学的検査を組み合わせて行われます。

希少疾患であるため、診断がつくまでに長い時間がかかる(診断の旅:Diagnostic Odyssey)ことも少なくありません。

1. 臨床診断

医師が診察を行い、以下のような特徴が揃っているかを確認します。

耳介の石灰化(年齢が高い場合)

知的障害

特徴的な顔貌

筋肉の萎縮

若年性白内障

ただし、幼少期には耳の石灰化や筋肉の萎縮がまだ目立たないことも多いため、症状だけで診断するのは難しい場合があります。

2. 画像検査

頭部CT検査

脳の中の石灰化を確認します。

耳のCT検査

耳介軟骨の石灰化を確認します。触診ではわからなくても、画像で白く映ることがあります。

頭部MRI検査

脳梁の形成不全など、脳の構造的な特徴を確認します。

3. 遺伝学的検査

確定診断のために最も重要な検査です。

血液を採取し、DNAを解析します。

ZBTB20遺伝子に変異があるかを調べます。

最近では、特定の遺伝子だけでなく、すべての遺伝子の重要部分を一度に調べる「全エクソーム解析(WES)」や「全ゲノム解析(WGS)」という網羅的な検査が行われることが増えており、これによりプリムローズ症候群が見つかるケースが多くなっています。

治療と管理

現在の医学では、ZBTB20遺伝子の変異そのものを修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対応する「対症療法」と、生活を支える「療育・支援」を行うことで、健康を維持し、生活の質(QOL)を高めることができます。

1. 医療的なケア(対症療法)

目のケア

白内障が見つかった場合は、進行度合いに応じて手術を検討します。視力の発達を守るために、早期発見が重要です。

耳のケア

耳が硬くなると、外耳道(耳の穴)が狭くなり、耳垢がたまりやすくなったり、中耳炎になりやすかったりすることがあります。定期的に耳鼻科で掃除やチェックをしてもらいましょう。また、難聴がある場合は補聴器の使用を検討しますが、耳の形に合わせて調整する必要があります。

代謝の管理

血糖値が高くなる傾向があるため、定期的な血液検査でチェックします。糖尿病と診断された場合は、食事療法やインスリン注射などで血糖コントロールを行います。

整形外科・リハビリテーション

筋肉の萎縮や関節の拘縮に対して、理学療法(PT)を行います。ストレッチや適度な運動で、関節の動きを維持し、筋力の低下を緩やかにすることを目指します。

足の変形などにより歩きにくさがある場合は、足底板(インソール)や整形靴、装具などを作成します。

2. 発達と行動の支援(療育)

早期療育

発達の遅れに対しては、早期からの療育(理学療法、作業療法、言語聴覚療法)が有効です。お子さんの「できること」を少しずつ増やし、コミュニケーションの手段を育てます。

行動面への対応

こだわりや興奮しやすさといった行動の問題に対しては、環境調整(落ち着ける場所を作る、予定をわかりやすく伝えるなど)や、応用行動分析(ABA)などのアプローチが役立ちます。

睡眠障害や激しい興奮がある場合は、医師と相談して、お薬による調整を行うこともあります。

3. 定期的な健康管理(サーベイランス)

プリムローズ症候群は、年齢とともに変化する病気です。今は症状がなくても、以下の項目について定期的なチェックを受けることが推奨されます。

眼科検診(白内障)

聴力検査

血液検査(血糖値、甲状腺機能など)

整形外科チェック(側弯、関節拘縮)

歯科検診(歯並びや虫歯の管理)

まとめ

プリムローズ症候群についての解説をまとめます。

病気の本質

ZBTB20遺伝子の変異により、転写調節(遺伝子のスイッチ切り替え)がうまくいかなくなる先天性の疾患です。

主な特徴

知的障害、耳介の石灰化・骨化、筋萎縮、白内障、糖代謝異常などが、年齢とともに進行・出現するのが特徴です。

原因

多くは突然変異であり、親のせいではありません。

診断

臨床症状と、遺伝子検査(ZBTB20変異の確認)によって行われます。

治療方針

根本治療はありませんが、白内障手術、血糖管理、リハビリテーションなどの対症療法と、療育による発達支援が生活を支えます。

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