こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。
NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。
「うちはがん家系だから心配……」
「BRCA遺伝子って、乳がんだけの話じゃないの?」
そんな不安や疑問を抱えてはいませんか?
特に女性特有のがんの中でも、「卵巣がん」は発見が難しく、恐れられている病気の一つです。しかし、闇雲に怖がる必要はありません。敵を知り、自分のリスクを知ることで、対策を立てることができるからです。
今日は、YouTube動画でも反響の大きかった「卵巣がんとBRCA遺伝子の関係」について、動画では語りきれなかった詳細なデータも含めて、じっくりと掘り下げていきます。
あなたの体と、未来の健康を守るための「正しい知識」を、一緒に学んでいきましょう。
まず、卵巣がんという病気の正体について正しく理解しましょう。
卵巣は、親指大ほどの小さな臓器ですが、非常に多種多様な腫瘍ができることで知られています。
卵巣にできる腫瘍は、その性質によって大きく3つに分類されます。
さらに、卵巣がんは細胞の顔つき(組織型)によって、なんと20〜30種類にも細かく分類されます。これほど種類が多いがんは珍しく、それゆえに診断や治療も専門的な知識が必要とされます。
日本において、卵巣がんは女性のがん全体の約2〜3%を占めています。「たった数%なら珍しい病気?」と思うかもしれません。しかし、ここで注目すべきは発生率ではなく「死亡率」です。
卵巣がんの死亡率は、同じ婦人科がんである子宮頸がんや子宮体がんよりも高く、**約49%**とされています。
なぜ、これほどまでに死亡率が高いのでしょうか?
最大の理由は、**「症状が出にくく、発見が遅れやすいから」**です。
卵巣はお腹の奥深くにある臓器で、多少腫れても痛みや出血などのサインが出にくいのです。そのため、自覚症状が出て病院に駆け込んだ時には、すでに病気が進行しているケースが非常に多い。これが、卵巣がんが「サイレントキラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれる所以です。
卵巣がんは、誰にでも起こりうる病気ですが、発症しやすい「リスク因子」がいくつか分かっています。ご自身のライフスタイルや体質と照らし合わせてみてください。
これは現代女性にとって非常に重要なポイントです。
卵巣は排卵のたびに表面の壁が破れ、修復するというプロセスを繰り返しています。この「傷ついては治す」という繰り返しが、細胞の遺伝子ミス(がん化)を招く原因の一つと考えられています。
子宮内膜症の中でも、卵巣に古い血液が溜まってしまう「チョコレート嚢胞」を持っている方は要注意です。
これは本来子宮の内側にあるべき組織が卵巣に発生してしまう病気ですが、長期間放置すると、その嚢胞からがんが発生するリスクが高まることが分かっています。
年齢別に見ると、40代以降からリスクが上がり始め、50〜60代でピークを迎えます。
また、肥満、喫煙習慣、動物性脂肪の多い食生活などもリスク因子として挙げられます。
そして、今回最も詳しくお話ししたいのが「遺伝」です。
BRCA1やBRCA2という遺伝子に変異がある場合、乳がんだけでなく、卵巣がんのリスクも劇的に高まることが医学的に証明されています。
「BRCA(ブラカ)」という言葉、聞いたことがある方も多いと思います。改めて、この遺伝子が体の中で何をしているのかを解説します。
BRCA1とBRCA2は、本来は**「がん抑制遺伝子」**と呼ばれる、私たちの体を守るヒーローのような存在です。
私たちの体の設計図であるDNAは、紫外線やストレス、代謝活動などで日常的に傷ついています。BRCA遺伝子は、この傷ついたDNAを見つけ出し、元通りに修復する役割(相同組換え修復)を担っています。
しかし、生まれつきこのBRCA遺伝子に変異(傷)があるとどうなるでしょうか?
DNAの修復機能がうまく働かなくなってしまいます。すると、細胞内の遺伝子ミスが蓄積されやすくなり、結果として細胞ががん化しやすくなるのです。これが、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)のメカニズムです。
では、具体的にどのくらいリスクが上がるのでしょうか?
一般的な日本人女性と、BRCA変異を持つ女性の生涯発症リスクを比較してみましょう。
この遺伝子の存在を世界に知らしめたのが、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんです。
彼女はがんを発症していませんでしたが、検査の結果、BRCA1遺伝子に変異があることが分かりました。母や祖母をがんで亡くしていた彼女は、将来の発症を防ぐために、健康な乳房と卵巣・卵管を予防的に切除するという大きな決断を下しました。
これは「究極の予防医療」として世界中で議論を呼びましたが、遺伝的リスクが高い方にとっては、命を守るための現実的な選択肢の一つとなっているのです。
「サイレントキラー」とはいえ、完全に無症状というわけではありません。体が出す小さなSOSを見逃さないことが大切です。
卵巣がんの症状は、胃腸の不調や中年太りと勘違いされやすいのが特徴です。
「最近、お腹が出たな」「便秘かな」と軽く考えて放置してしまうことが、発見の遅れにつながります。
がんと診断された場合、どこまで広がっているかを示す「ステージ」が重要になります。
ステージⅠとⅣの生存率の差を見てください。89%と30%以下。
いかに「早期発見」が命を守る鍵であるかが、数字からも明らかです。
では、私たちはどうすれば良いのでしょうか?
診断の流れと、最新の治療、そして予防策について解説します。
病院では以下のような手順で診断を進めます。
基本の治療は「手術」+「抗がん剤(化学療法)」です。
できる限り手術でがんを取り除き、残ったがん細胞を薬で叩きます。
そして近年、大きな希望となっているのが**「PARP阻害薬」**という新しい分子標的薬です。
これは、先ほど説明したBRCA遺伝子変異のメカニズムを逆手に取った薬です。がん細胞のDNA修復機能を完全にブロックすることで、がん細胞だけを死滅させる画期的な薬で、特にBRCA変異陽性の卵巣がん患者さんに対して高い効果が認められています。
「一般的な検診では早期発見が難しい」とされる卵巣がんですが、手をこまねいているわけではありません。リスクを下げる方法は存在します。
① 低用量ピル(経口避妊薬)の活用
これは非常にエビデンスレベルの高い予防法です。ピルを服用して排卵を止めることで、卵巣の「傷と修復」の回数を減らせます。
データでは、少なくとも5年以上ピルを使用すると、卵巣がんのリスクを30〜50%減らせると報告されています。避妊や生理痛緩和だけでなく、「がん予防」としてもピルは有効なのです。
② 生活習慣の改善
肥満を防ぎ、禁煙し、バランスの良い食事を心がけること。当たり前のようですが、基礎的なリスク管理です。
③ 遺伝子検査と予防的介入
もしご家族に乳がんや卵巣がんの方がいる場合、BRCA遺伝子の検査を検討するのも一つの選択肢です。
変異が見つかった場合は、より頻繁な検診(経膣超音波や腫瘍マーカー)を受ける、あるいはアンジェリーナ・ジョリーさんのように、がんになる前に卵巣・卵管を摘出する「リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)」を検討することも可能です。
今日は「卵巣がんとBRCA遺伝子の関係」について、少し専門的なデータも交えてお話ししました。
最後に、今日絶対に持ち帰っていただきたいポイントをまとめます。
「がん」という言葉は怖いですが、医学は日々進歩しています。
感情で恐れるのではなく、データに基づいた正しい知識を持つこと。それが、あなた自身の命と、あなたを大切に想う家族の笑顔を守る一番の近道です。
もし「遺伝子検査についてもっと知りたい」「自分はリスクが高いのか確認したい」と思われたら、専門の医療機関にご相談ください。
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