こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。
NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。
「うちの子、周りの子と比べて背が低い気がする……」
「このまま伸びなかったらどうしよう?」
そんな不安を抱えながら、インターネットで検索を繰り返している親御さんは少なくありません。
子どもの成長は、親にとって最大の関心事の一つです。もし、お子さんが医学的な治療が必要な「低身長症」だと分かったとき、これまでは大きな壁が立ちはだかっていました。
それは、**「毎日の注射」**という治療のハードルです。
しかし、医療は進化しています。
これまでの常識を覆す、**“週1回の注射で済む”新しい薬『ソグルタ』**が登場しました。
本日は、この画期的な新薬について、その仕組みから対象となる疾患、治療開始までの流れまで、医学的根拠に基づいて詳しく解説していきます。
成長ホルモン治療と聞いて、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?
「背が伸びる魔法の薬」のようなポジティブなイメージの一方で、実際に治療を行っている家庭の現実は、決して楽なものではありません。
従来の成長ホルモン治療は、基本的に**「毎日、自宅で、親が子どもに注射をする」必要があります。
「毎日」というのは、文字通り365日、一日も欠かさずです。
実際に治療を受けているご家庭を対象とした国内調査では、衝撃的なデータが出ています。なんと7割以上の家庭が「注射の負担が大きい」と回答**しているのです。
私たち医師の元にも、親御さんからの切実な声が届きます。
子ども本人にとって、毎日の痛みは肉体的にも精神的にも大きなストレスです。
そして、愛する我が子に毎日針を刺さなければならない親御さん(多くの場合はお母様やお父様)にとって、その心の負担は計り知れません。いわば「注射係」という役割が、親子の笑顔を奪ってしまうことさえあるのです。
「もし、この注射の回数が減ったら……」
それは、治療に関わる全ての人の切なる願いでした。
そんな中、登場したのが**「ソグルタ皮下注(一般名:ソマパシタン)」**です。
これは、成長ホルモン治療の世界における革命と言っても過言ではありません。
従来のお薬は、体に入ると比較的すぐに分解・排出されてしまうため、毎日補充し続ける必要がありました。
一方、ソグルタは**「持続型」**の成長ホルモン製剤です。
特殊な技術(アルブミンとの結合など)を用いることで、体内に入ってからゆっくりと時間をかけて放出されるように設計されています。
これにより、週にたった1回の投与で、1週間分の成長ホルモン効果を持続させることが可能になったのです。
回数の差を考えてみてください。
注射の回数が約7分の1に激減します。
これは単に回数が減るだけでなく、子どもが「痛い思いをする回数」が減り、親御さんが「心を痛める回数」が減ることを意味します。
臨床試験においても、既存の毎日注射するタイプと同等の成長促進効果が確認されています。「回数が減ったから効き目が落ちるのでは?」という心配は、データ上不要であることが証明されています。
「週1回ならうちの子にも使いたい!」
そう思われる方も多いでしょう。しかし、ソグルタは「背が低い子なら誰でも使える」わけではありません。
医学的に適応となる疾患は限られています。ここでは主な3つの対象疾患について解説します。
最も代表的な適応症です。
脳の下垂体(かすいたい)という場所から分泌されるはずの成長ホルモンが、何らかの原因で不足している状態です。
SGAとは「Small for Gestational Age」の略で、お母さんのお腹にいた期間(在胎週数)の標準に比べて、小さく生まれた赤ちゃんのことを指します。
多くのSGA児は、2〜3歳までに急激に成長して標準身長に追いつきます(キャッチアップ現象)。しかし、約1割の子どもは追いつくことができず、低身長のまま推移します。この状態をSGA性低身長症と呼びます。
胎盤の機能や遺伝的な要因が関わっているとされています。
特定の染色体異常による症候群も対象となります。
【重要】
これらの診断には、必ず小児内分泌の専門医による確定診断が必要です。単に「背が低い」という理由だけでは、保険診療での治療は受けられません。
では、実際に「ソグルタ」による治療を希望する場合、どのようなプロセスを経るのでしょうか?
いきなり病院に行って「今日から注射をください」というわけにはいきません。安全かつ効果的に治療を行うために、綿密な検査が必要です。
まずは、**「小児内分泌」**を専門とする医師が在籍している医療機関を受診します。
成長ホルモン治療は非常に専門性が高いため、一般的な小児科クリニックではなく、専門外来を持つ病院(大学病院や総合病院、専門クリニック)での診断が必須です。
「クラスで一番前だから」という主観ではなく、客観的なデータで評価します。
母子手帳や学校の身体測定の記録を持参し、「成長曲線」というグラフにプロットします。
日本小児内分泌学会の基準では、同年代の平均値よりも「マイナス2.0 SD(標準偏差)」以下の場合を低身長と定義しています。
分かりやすく言うと、「同い年の子どもが100人いたら、背の順で前から2〜3番目まで」のお子さんがこれに該当します。また、身長そのものは範囲内でも、「1年間の伸び率が極端に悪い」場合も詳しく調べることがあります。
これが診断の要(かなめ)となる検査です。
実は、成長ホルモンは一日中ダラダラと出ているわけではなく、脈打つように(パルス状に)分泌されています。そのため、普通に1回採血しただけでは、たまたま低い時間帯だったのか、本当に不足しているのか分かりません。
そこで、**「分泌刺激試験」**を行います。
この検査で、基準値(ピーク値)を超えない場合、初めて「成長ホルモン分泌不全」という診断が下されます。何度も採血が必要なためお子さんには負担がかかりますが、避けては通れない重要な検査です。
最後に、手のレントゲンを撮って**「骨年齢」**を調べます。
骨の端にある「骨端線(こったんせん)」が閉じてしまうと、もう背は伸びません。
「あとどれくらい伸びる余地(成長ポテンシャル)が残っているか」を確認し、他の検査結果と合わせて、治療の適応があるかを総合的に判断します。
「夢のような薬」に見えるソグルタですが、薬である以上、副作用やリスクも存在します。
医師として、メリットだけでなくデメリットも公平にお伝えしなければなりません。
特に注意が必要なのは、**「骨年齢の進みすぎ」**です。
成長ホルモンが効きすぎると、骨の成熟が早まり、逆に最終的な身長が伸び止まってしまう可能性があります。
また、過去に腫瘍(がんなど)の治療歴があるお子さんの場合、腫瘍の再発リスクがないか慎重に検討する必要があります。
だからこそ、「薬をもらって終わり」ではありません。
定期的に通院し、血液検査で副作用のチェックや、レントゲンで骨の進み具合を確認しながら、慎重に投与量を調整していく必要があります。
**「安全に使い続けるための管理」**こそが、治療の成功の鍵なのです。
今日は、週1回の新しい成長ホルモン製剤「ソグルタ」について詳しくお話ししました。
最後に、この薬がもたらす本当の価値についてまとめたいと思います。
1. 苦痛からの解放
毎日365回の注射が、年間52回になる。この数字の変化は、お子さんの「痛い」を減らし、親御さんの「辛い」を減らします。家族の笑顔の時間が増えること、それが最大のメリットです。
2. 治療継続率の向上
どんなに良い薬でも、続けられなければ意味がありません。
「痛いから嫌だ」「毎日なんて無理」とドロップアウトしてしまう家庭も少なくない中、週1回という手軽さは、治療を長く続けるための強力な武器になります。しっかり続けることが、結果としてお子さんの身長を伸ばすことにつながります。
3. 専門医との二人三脚
対象となる疾患(成長ホルモン分泌不全、SGA、遺伝性疾患など)は限られています。また、副作用管理も必須です。必ず専門医の診断を受け、適切な管理下で使用してください。
身長の悩みは、お子さんの自己肯定感や将来の夢にも関わるデリケートな問題です。
「かわいそうだから注射はさせたくない」と諦めていた方も、週1回なら頑張れるかもしれません。
もし、お子さんの身長でお悩みであれば、まずはお近くの小児内分泌専門医に相談してみてください。
医学の進歩は、あなたとお子さんの未来を明るく照らすためにあります。
このコラムが、一歩を踏み出す勇気になれば幸いです。
これからも、未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にするために、正しい医療情報をお届けしていきます。
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