リゾメリック点状軟骨異形成タイプ3【AGPS】

やさしいまとめ

このページでは、リゾメリック軟骨異形成点状症タイプ3(Rhizomelic Chondrodysplasia Punctata type 3:RCDP3)という、たいへんまれな遺伝性の病気について、わかりやすく丁寧にご説明しています。
RCDP3は、赤ちゃんの骨や発達、目や呼吸などにさまざまな影響を与える病気です。
その原因や症状、検査・診断の方法、日々のケアや治療、そして将来について、医療の専門知識にもとづいて正確にまとめています。
ご家族やご本人が少しでも安心して向き合えるよう、専門用語にはやさしい説明もそえています。
お子さまの成長や病気のことで不安を感じておられる方、医療者の方、研究に関心のある方にも役立つ内容です。

遺伝子領域 | Implicated Genomic Region

AGPS

AGPS

関係する遺伝子名:AGPS(アルキルグリセロンリン酸合成酵素:Alkylglycerone Phosphate Synthase)
染色体上の位置:第2染色体 長腕(q)31.2領域(2q31.2)
遺伝形式:常染色体劣性遺伝(じょうせんしょたい れっせい いでん)

この病気は、AGPS遺伝子に原因となる変異(へんい)があることで発症します。AGPS遺伝子は、細胞内の「ペルオキシソーム(Peroxisome)」と呼ばれる小さな構造の中で働く酵素を作る設計図です。この酵素は「プラスマローゲン(Plasmalogen)」という特別な脂質(ししつ:あぶらの成分)を合成するのに欠かせません。プラスマローゲンは、神経、心臓、肺などの細胞膜に多く含まれ、体の機能を保つためにとても重要です。

疾患名 | Disorder

病名:リゾメリック軟骨異形成点状症タイプ3(Rhizomelic Chondrodysplasia Punctata Type 3:略称RCDP3)

別名:

  • AGPS欠損症(AGPS Deficiency)
  • アルキルグリセロンリン酸合成酵素欠損症(Alkylglycerone Phosphate Synthase Deficiency)
  • Alkyldihydroxyacetonephosphate Synthase Deficiency
  • Rhizomelic Chondrodysplasia Punctata caused by mutation in AGPS

概要 | Overview

リゾメリック軟骨異形成点状症(RCDP)は、遺伝によって起こる非常にまれな病気で、体の中の「ペルオキシソーム」という部分の働きに異常があることで発症します。RCDP3は、AGPSという1つの酵素だけがうまく働かないタイプで、ペルオキシソームの構造自体には問題がないのが特徴です。

この病気の特徴は、腕や太ももの骨が短くなること(これを「リゾメリア(Rhizomelia)」といいます)、骨の発達の異常、白内障(生まれつきの目の濁り)、重度の知的障害、筋肉のこわばりなどがあります。

RCDPには5つのタイプがありますが、RCDP3は最もまれなタイプです。

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疫学 | Epidemiology

RCDP全体としては、出生10万人あたり0.5〜0.7人程度という非常にまれな病気です。その中でもRCDP3はさらにまれで、世界でこれまでに遺伝子レベルで確認された患者数は10例未満です。

遺伝子の情報を解析する方法により、アメリカとヨーロッパの主要5カ国(イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン)を合わせて、年間1例未満しか新たな患者が生まれないと推定されています。

病因 | Etiology

RCDP3は、両親から受け継がれたAGPS遺伝子の変異により起こります。この変異によって、プラスマローゲンという重要な脂質を作る工程が止まってしまいます。

プラスマローゲンは、細胞膜の柔軟性を保つ・神経の働きを守る・活性酸素(細胞を傷つける物質)から細胞を守るといった、大切な役割を果たしています。

AGPSの働きが失われると、プラスマローゲンが作られなくなり、さまざまな身体の機能や発達に障害が生じます。

症状 | Symptoms

典型的な症状(古典的RCDP3)

  • 骨の異常:上腕骨や大腿骨の短縮(リゾメリア)、骨端部の石灰化(点状異形成)、背骨の変形
  • 顔の特徴:額が広い、目が離れている、顔の中央がへこんで見える(中顔面低形成)、鼻が小さく上向き、耳が低い位置にある
  • 眼の異常:両目に白内障(先天性もしくは乳児期早期に発症)、斜視、眼振
  • 脳神経の症状:重度の知的障害、けいれん、筋緊張の低下または亢進(仮死、痙縮)
  • 成長障害:出生時からの著しい低身長と低体重
  • 呼吸器:繰り返す肺炎や呼吸不全
  • 心臓:ファロー四徴症などの心奇形(場合により)

軽症型(非典型型・mild RCDP)

  • 自力歩行や簡単な言葉の使用が可能な例もあり
  • 関節の拘縮や脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)
  • 発達障害(ADHD自閉スペクトラム症、強迫性障害、不安症など)
  • 思春期や成人まで生存する患者も報告されています

検査・診断 | Testing & Diagnosis

生化学的検査

  • 赤血球中のプラスマローゲン量の低下:典型例ではほとんど検出されず、軽症例では一部残存あり
  • 血中フィタン酸(Phytanic acid)の上昇:脂質代謝異常の指標
  • 超長鎖脂肪酸(Very Long Chain Fatty Acids:VLCFA):通常は正常または軽度の上昇

画像検査

  • レントゲン写真:四肢近位部の短縮と骨端の点状石灰化
  • MRI(脳):白質の異常、脳萎縮
  • 超音波検査:股関節の脱臼
  • 心エコー検査:心臓の構造異常を確認

遺伝学的検査

  • AGPS遺伝子の全エクソン解析(Sanger法や全エクソーム解析):病的な変異を確定
  • ご両親の保因者(キャリア)検査も重要です

治療法と管理 | Treatment & Management

この病気には現在のところ根本的な治療法はありませんが、患者さんの生活の質を少しでも改善するための対症療法が行われます。以下のような専門的ケアが推奨されます:

  • 眼科的管理:白内障手術などの早期対応
  • 整形外科的治療:拘縮の改善や歩行能力を高める手術・リハビリ
  • 神経内科的対応:てんかんへの抗てんかん薬、運動療法
  • 呼吸管理:感染予防、必要に応じて酸素や人工呼吸
  • 栄養管理:授乳困難や成長障害に対してサポート
  • 心理・行動支援:発達障害への療育、薬物療法(例:ガバペンチン、グアンファシン)

また、ご家族への遺伝カウンセリングを通じた情報提供と、将来的な妊娠に向けた選択肢の提示も大切です。

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予後 | Prognosis

典型的(重症型)RCDP3の場合:
多くの患者さんは10歳までに亡くなることが多く、主な原因は重度の呼吸器感染症や全身の合併症です。

非典型(軽症型)RCDP3の場合:
軽度の変異がある場合や、プラスマローゲンがある程度残っている場合には、成人期までの生存が可能で、自力歩行や言葉によるやり取りができる例もあります。

ただし、血中プラスマローゲン濃度と病気の重症度は必ずしも比例しないため、他の遺伝的要因や環境要因も影響していると考えられています。

引用文献|References

キーワード|Keywords

リゾメリック軟骨異形成点状症, RCDP3, AGPS欠損症, プラスマローゲン欠損, ペルオキシソーム病, 骨形成異常, 白内障, 常染色体劣性遺伝, 脂質代謝異常, 点状骨端異形成, 知的障害, 発達遅滞, 呼吸障害, 神経発達障害, 遺伝子診断, 支援的療法

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