マラン症候群(Malan Syndrome)

赤ちゃん

マラン症候群という、おそらく初めて耳にする診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による稀な病気です」と説明を受け、さらに「背が伸びすぎる過成長という特徴があります」や「発達に遅れが出る可能性があります」といった話をされて、計り知れない不安の中にいらっしゃることと思います。特に、この病気は2010年に発見されたばかりの比較的新しい疾患であるため、インターネットで検索しても日本語の詳しい情報が少なく、将来の見通しが立ちにくいことに戸惑いを感じていらっしゃるかもしれません。

マラン症候群は、生まれつきの遺伝子の変化によって、体の成長が早くなったり、知的な発達がゆっくりになったりする先天性の疾患です。

イタリアの医師であるマラン博士によって報告されました。

以前は、症状が非常によく似ているソトス症候群の亜型として、ソトス症候群2型と呼ばれていたこともあります。しかし、原因となる遺伝子が全く異なることがわかり、現在では独立した別の病気として扱われています。

この病気の大きな特徴は、同年代の子に比べて背が高く、頭のサイズが大きめであること、そして面長で特徴的なお顔立ちをしていることです。また、側弯症などの骨格の問題や、不安を感じやすいといった特性も見られます。

非常に希少な疾患ですが、遺伝子検査の技術が進歩したことで、診断される患者さんが世界中で増えてきています。

生命に関わるような重篤な内臓の病気を合併することは比較的少ないと言われており、適切なケアと療育を受けることで、お子さんはその子らしく元気に成長していきます。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの全てを決めるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と可能性があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

病気の定義と歴史

マラン症候群は、過成長症候群と呼ばれるグループに分類される先天異常症候群です。

過成長とは、身長や頭囲などが同年代の平均よりも著しく大きくなる状態を指します。

2010年に、それまでソトス症候群と考えられていた患者さんの中に、ソトス症候群の原因遺伝子であるNSD1に変異がなく、代わりにNFIXという別の遺伝子に変異があるグループがいることが発見されました。

これにより、ソトス症候群とは異なる新しい疾患として、マラン症候群という名前がつけられました。

ソトス症候群との関係

この病気を理解する上で、ソトス症候群との関係を知っておくことは大切です。

両者は、高身長、大頭症、発達遅滞、特徴的な顔貌という共通点があり、専門医でも見た目だけで区別するのは難しいほどよく似ています。

しかし、マラン症候群では、ソトス症候群に比べて骨年齢の促進(骨が実年齢より早く成熟すること)が目立たない傾向があったり、てんかんや心疾患の合併率が少し異なったりするなど、いくつかの違いも報告されています。

かつてソトス症候群疑いとされながら遺伝子検査で陰性だった方の中に、マラン症候群の方が含まれている可能性があります。

発生頻度

非常に稀な疾患であり、正確な患者数はわかっていませんが、世界で数百人程度が報告されている段階です。

しかし、診断技術の普及に伴い、報告数は年々増えています。

性別による差はなく、男の子も女の子も同じように発症します。

主な症状

マラン症候群の症状は、身体的な特徴、発達の特徴、そして合併症の3つに大きく分けられます。

すべての症状が全員に現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。

1. 身体的な特徴(過成長と顔貌)

出生時や幼少期から気づかれることが多い特徴です。

過成長(高身長・大頭症)

生まれた時の身長や体重は平均的か、少し大きめであることが多いですが、生後数ヶ月から幼児期にかけて身長がぐんぐん伸び、同年代の子よりも背が高くなる傾向があります。

また、頭囲すなわち頭の周りの長さも大きめになる大頭症が見られます。

体つきは細身で、手足が長いマルファン様体型と呼ばれる特徴を示すこともあります。

特徴的なお顔立ち

成長とともに、マラン症候群に特有のお顔立ちがはっきりしてくることがあります。

顔全体が縦に長い面長な印象。

おでこが広く、少し前に出ている。

目尻が下がっている眼瞼裂斜下。

鼻筋が高く、鼻の穴が少し上を向いている。

顎が小さく、少し後ろに下がっている。

耳の位置が低い。

これらのお顔立ちは、ソトス症候群と非常によく似ていますが、マラン症候群の方が顎が小さい傾向があるとも言われています。

2. 骨格と筋肉の特徴

成長に伴って注意が必要な症状です。

脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)

背骨が左右に曲がってしまう状態です。

マラン症候群の患者さんでは比較的高い頻度で見られ、成長期に進行することがあります。

定期的なチェックが必要です。

胸郭の変形

胸の真ん中が凹んでいる漏斗胸や、逆に出っ張っている鳩胸が見られることがあります。

筋緊張低下

赤ちゃんの頃は体が柔らかく、抱っこしにくい感じがすることがあります。

筋肉の張りが弱いため、運動発達がゆっくりになる一因となります。

3. 神経発達と知的な特徴

ご家族が最も心配される点の一つかと思います。

精神運動発達遅滞

首すわり、お座り、歩行などの運動機能の発達が、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。

筋緊張低下や、体のバランス感覚の問題が影響していると考えられます。

知的発達の遅れ

中等度から重度の知的障害が見られることが多いです。

言葉が出るのが遅かったり、言葉数は少なかったりしますが、こちらの言っていることはある程度理解しており、身振りや表情でコミュニケーションをとることができます。

個人差があり、お話が上手な方もいれば、言葉以外のコミュニケーション手段を主に使う方もいます。

行動面の特徴

不安を感じやすかったり、特定の音に過敏に反応したりすることがあります。

新しい場所や環境の変化に緊張しやすい傾向があるため、事前の説明や安心できる環境づくりが大切です。

4. その他の合併症

てんかん

患者さんの約2割から3割程度に、てんかん発作が見られます。

発作が始まる時期やタイプは様々ですが、多くはお薬でコントロール可能です。

視覚の問題

斜視、近視、遠視などの屈折異常や、視神経の形成が不完全な視神経低形成が見られることがあります。

弱視を防ぐために、早期の眼科受診が推奨されます。

心疾患

ソトス症候群に比べると頻度は低いとされていますが、動脈管開存症などの先天性心疾患を合併することがあります。

医者

原因

なぜ、背が伸びすぎたり、発達がゆっくりになったりするのでしょうか。その原因は、体の設計図の調整役に生じた変化にあります。

NFIX遺伝子の変異

マラン症候群の原因は、第19番染色体にあるNFIX(エヌフィックス)という遺伝子の変異、または欠失です。

この遺伝子は、核内因子I-X型というタンパク質を作る設計図です。

転写因子の役割

NFIXタンパク質は、転写因子と呼ばれるグループに属しています。

転写因子とは、他のたくさんの遺伝子のスイッチを入れたり切ったりする「司令塔」のような役割をしているタンパク質です。

NFIXは、特に脳の発達や、骨格の形成、筋肉の成熟などに関わる重要な遺伝子たちに指令を出しています。

何が起きているのか(ハプロ不全)

マラン症候群では、2つあるNFIX遺伝子のうちの片方に変異が起きたり、遺伝子ごとなくなってしまったりすることで、正常なNFIXタンパク質の量が半分になってしまいます。これをハプロ不全と呼びます。

司令塔の数が足りなくなるため、脳や骨の成長をコントロールする指令がうまく伝わらなくなり、過成長や発達の遅れといった症状が現れると考えられています。

マーシャル・スミス症候群との違い

実は、NFIX遺伝子の変異によって起きる病気はマラン症候群だけではありません。

マーシャル・スミス症候群という、別の病気も同じNFIX遺伝子の変異が原因です。

しかし、マーシャル・スミス症候群は、呼吸障害や骨年齢の著しい促進など、マラン症候群よりも重い症状を示します。

これは、変異が起きる「場所」や「変異の種類」が違うためです。

マラン症候群は、遺伝子の機能が「足りなくなる」ことで起きますが、マーシャル・スミス症候群は、変異したタンパク質が体に悪さをする特殊な作用によって起きると考えられています。

同じ遺伝子でも、変異の仕方によって全く違う病気になるのです。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のNFIX遺伝子に変異があれば発症します。

しかし、マラン症候群の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察と、遺伝学的検査によって確定されます。

1. 臨床診断

医師は診察で以下の特徴的な所見の組み合わせを確認します。

  • 高身長や大頭症といった過成長の特徴。
  • 面長でおでこが広いなどの特徴的な顔立ち。
  • 知的発達の遅れ。
  • ソトス症候群の遺伝子検査が陰性であること。

これらが揃っている場合、マラン症候群が疑われます。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も確実な検査です。

血液を採取し、DNAを解析してNFIX遺伝子に変異や欠失があるかを調べます。

最近では、全エクソーム解析などの網羅的な遺伝子検査で偶然見つかることも増えています。

NFIX遺伝子の変異が見つかれば診断が確定し、将来の見通しや治療方針を立てるのに役立ちます。

3. 画像検査

脳のMRI検査

脳の構造を確認します。脳室が少し拡大していたり、脳梁という部分が薄かったりする所見が見られることがありますが、特定の決まった異常があるわけではありません。

骨のレントゲン検査

背骨の曲がり(側弯症)がないかを確認します。

また、手の骨のレントゲンを撮って骨年齢を調べることもありますが、マラン症候群ではソトス症候群ほど骨年齢が進んでいないことも多いです。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。

治療は、小児科を中心に、整形外科、眼科、リハビリテーション科などがチームを組んで行います。

1. リハビリテーション(療育)

お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。

理学療法(PT)

体のバランス感覚を養い、お座りや歩行などの運動機能を高める訓練を行います。

低緊張がある場合は、姿勢を保つための練習や、筋肉の発達を促す遊びを取り入れます。

体が大きくなるスピードに筋力が追いつかないこともあるため、無理のない範囲で体を動かすことが大切です。

作業療法(OT)

手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。

日常生活動作(着替えや食事)の自立を目指します。

言語聴覚療法(ST)

コミュニケーション能力の向上を目指します。

言葉が出にくい場合でも、ジェスチャー、絵カード、タブレット端末など、その子に合ったコミュニケーション手段(AAC)を見つけることが大切です。

「伝えたい」という気持ちを引き出し、周りがそれを受け止めることで、コミュニケーションの輪が広がります。

2. 整形外科的ケア

脊柱側弯症は進行することがあるため、定期的にレントゲンを撮って経過を見ます。

軽度であれば経過観察ですが、進行する場合はコルセット(装具)を使ったり、重度の場合は手術を検討したりすることもあります。Getty Images

3. 眼科的ケア

視力の発達にとって重要な時期に、斜視や屈折異常を放置すると弱視になる可能性があります。

眼鏡による矯正や、アイパッチによる訓練など、早期の対応が必要です。

4. てんかんの管理

てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。

脳波検査の結果や発作のタイプに合わせてお薬を選び、発作をコントロールします。

5. 心のケアと環境調整

不安を感じやすいお子さんには、安心できる環境づくりが大切です。

予定の変更があるときは早めに伝えたり、絵カードで見通しを持たせたりする工夫が役立ちます。

また、学校生活では、体の大きさと発達のバランスについて先生や周りの友達に理解してもらうことも重要です。体が大きいと、どうしても年上に見られがちで、過度な期待をされてしまうことがあるためです。

まとめ

マラン症候群についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: NFIX遺伝子の変異により、成長をコントロールする司令塔が不足し、過成長や発達の遅れが起こる先天性の疾患です。
  • 主な特徴: 高身長、大頭症、面長な顔立ち、知的発達の遅れ、側弯症などが特徴です。ソトス症候群と非常によく似ています。
  • 予後: 生命に関わる重篤な合併症は比較的少なく、適切なサポートがあれば元気に生活できます。
  • 原因: ほとんどが突然変異によるものであり、親のせいではありません。
  • 管理の要点: 定期的な骨格(側弯)のチェック、眼科検診、そして個性に合わせた療育が中心となります。

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