レオパード症候群1型(LEOPARD syndrome 1)

赤ちゃん

レオパード症候群1型という、おそらく初めて耳にするような診断名を聞き、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による生まれつきの体質です」と説明を受け、さらに「全身に黒い点ができることがあります」や「心臓の定期検査が必要です」といった話をされて、戸惑いや不安を感じていらっしゃるかもしれません。特に、「レオパード(ヒョウ)」という動物の名前がついた病名に、見た目がどうなってしまうのか、恐ろしい病気なのではないかと心配されている方も少なくありません。

まず安心してください。この病名は、患者さんがヒョウのような性格になるという意味ではありません。皮膚に現れる特徴的な色素斑、いわゆる黒子がヒョウの模様に似ていることからつけられた医学的な名称です。

現在では、この病気の本質がより深く理解されるようになり、多発黒子を伴うヌーナン症候群という、より医学的に正確な名前で呼ばれることも増えてきています。

レオパード症候群は、全身の様々な場所に特徴が現れる先天性の疾患です。

原因となる遺伝子の違いによって1型から3型に分類されています。

その中で最も頻度が高く、全体の約8割から9割を占めるのが、今回解説する1型です。

1型は、PTPN11(ピーティーピーエヌイレブン)という遺伝子に変化があるタイプです。

非常に希少な疾患であり、日本語での詳しい情報はまだ多くありません。そのため、診断を受けても具体的な生活のイメージが湧きにくく、孤独を感じてしまうご家族もいらっしゃいます。

しかし、この病気は「ヌーナン症候群類縁疾患(RASパチー)」という大きなグループの一つであり、世界中で研究が進んでいる分野です。

心臓や皮膚、耳などの症状に対して、それぞれ専門的な管理を行うことで、健康を維持し、その人らしい豊かな人生を送ることができます。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を限定するものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

病名の由来とLEOPARD

この病気は、主な7つの症状の英語の頭文字をとってLEOPARD(レオパード)症候群と名付けられました。

L:Lentigines(多発性黒子)

皮膚にできる数ミリの平らな黒や茶色の斑点です。

E:ECG conduction abnormalities(心電図伝導異常)

心臓の中を流れる電気信号の伝わり方に変化が見られます。

O:Ocular hypertelorism(眼間開離)

両目の間隔が離れているお顔立ちの特徴です。

P:Pulmonic stenosis(肺動脈弁狭窄)

心臓から肺へ血液を送る血管の出口が狭くなる状態です。

A:Abnormal genitalia(性器の異常)

男の子の停留精巣などが見られます。

R:Retardation of growth(成長の遅れ)

身長の伸びがゆっくりで、低身長になることがあります。

D:Deafness(難聴)

音を感じる神経の働きが弱い感音性難聴が見られます。

これらすべての症状が必ず全員に現れるわけではありません。人によって出る症状や程度は様々です。

現在の呼び方:多発黒子を伴うヌーナン症候群

近年、医学界では「レオパード症候群」という名前よりも、多発黒子を伴うヌーナン症候群、英語ではNoonan syndrome with multiple lentigines、略してNSMLという名称への移行が進んでいます。

これは、この病気が「ヌーナン症候群」という別の病気と、原因遺伝子や症状が非常に共通しているためです。

ヌーナン症候群に、たくさんのホクロ(黒子)の特徴が加わったタイプ、と理解していただくとイメージしやすいかもしれません。

1型の特徴(PTPN11遺伝子)

レオパード症候群の患者さんの大多数は、この1型(PTPN11遺伝子変異)です。

1型の特徴として、特に心臓の合併症である肥大型心筋症の頻度が高いことが知られています。

ヌーナン症候群では肺動脈弁狭窄が多いのに対し、レオパード症候群1型では肥大型心筋症が多いという傾向がありますが、両方を合併することもあります。

発生頻度

レオパード症候群全体でも非常に稀な疾患ですが、その中で1型は最も多く見られます。

世界的に見ても報告例は限られていますが、遺伝子検査の普及に伴い、診断されるケースは増えてきています。

主な症状

レオパード症候群1型の症状は、皮膚、心臓、顔立ち、聴覚など、全身の様々な場所に現れます。

症状の程度には個人差が大きく、日常生活にほとんど支障がない方もいれば、医療的なケアが必要な方もいます。

1. 皮膚の症状(多発性黒子)

この病気の最大の特徴であり、診断のきっかけとなることが多い症状です。

黒子の出現時期

生まれた時から黒子があるわけではありません。

多くの場合、4歳から5歳頃、あるいは学童期に入ってから、濃い茶色や黒色の小さな点々が皮膚に現れ始めます。

最初は数個でも、年齢とともに数が増え、数千個に及ぶこともあります。

黒子の特徴

顔、首、体幹すなわち胸や背中に多く見られます。

大きさは1ミリから5ミリ程度で、日焼けによるそばかすとは異なり、日光に当たらない場所にもできます。

この黒子は良性であり、がん化することは極めて稀ですので、過度な心配は不要ですが、見た目の変化としてご本人が気にされることはあります。

カフェオレ斑

黒子が出る前に、カフェオレのような色をした平らなアザが見られることがあります。これは生まれた時からあることが多いです。

2. 心臓の症状(最も重要)

ご家族と医療チームが最も注意深く管理しなければならないのが、心臓の問題です。

自覚症状がなくても、定期的な検査が欠かせません。

肥大型心筋症(ひだいがたしんきんしょう)

レオパード症候群1型で最も多く見られる心臓の合併症であり、約8割の患者さんに見られるという報告もあります。

心臓の筋肉、特に左心室の壁が通常よりも分厚くなってしまう状態です。

筋肉が厚くなると、心臓の中が狭くなり、血液を溜めたり送り出したりする働きに負担がかかります。

重症化すると、息切れや動悸、不整脈などの症状が出ることがあります。

ヌーナン症候群との大きな違いの一つが、この肥大型心筋症の頻度の高さです。

肺動脈弁狭窄症(はいどうみゃくべんきょうさくしょう)

右心室から肺へ血液を送る弁が狭くなる病気です。

レオパード症候群でも約1割から2割程度に見られますが、ヌーナン症候群ほど多くはありません。

心電図異常

心臓の電気の流れに変化が生じることがあります。健康診断の心電図検査で指摘されることが多いです。

3. 顔貌の特徴

レオパード症候群には、ヌーナン症候群と共通するお顔立ちの特徴があります。

これらは成長とともに変化し、大人になると目立たなくなることもあります。

眼間開離

両目の間隔が少し離れている状態です。

眼瞼下垂(がんけんかすい)

まぶたが下がって、黒目の一部が隠れることがあります。

耳の位置と形

耳の位置が少し低かったり、耳たぶが後ろに回転していたりすることがあります。

顔の形

逆三角形のような顔立ちや、顎が小さいといった特徴が見られることがあります。

4. 聴覚の症状

感音性難聴

約2割程度の患者さんに、難聴が見られます。

音を感じる内耳や神経の働きが弱いために起こります。

生まれた時には聞こえていても、成長してから難聴が判明することもあるため、定期的な聴力検査が推奨されます。

5. 成長と発達

低身長

身長の伸びが緩やかで、同年代の平均よりも低くなることがあります。

生まれた時の身長や体重は正常範囲内であることが多いですが、幼児期以降に成長率が低下する傾向があります。

成人の最終身長も、平均より低くなることが多いです。

知的発達

知的な発達に関しては個人差が非常に大きいです。

全く遅れがなく通常の学級で学ぶお子さんもいれば、軽度の学習障害知的障害を持つお子さんもいます。

一般的に、ヌーナン症候群に比べると知的障害の頻度は低い、あるいは軽度である傾向があると言われています。

6. その他の症状

停留精巣

男の子の場合、精巣が陰嚢の中に降りてこないことがあります。手術で固定が必要になることがあります。

骨格の特徴

胸の形が変形する漏斗胸すなわち胸がへこむ状態や、鳩胸すなわち胸が出る状態、背骨が曲がる側弯症が見られることがあります。

肩甲骨が浮き出ている翼状肩甲が見られることもあります。

原因

なぜ、黒子ができたり、心臓の壁が厚くなったりするのでしょうか。その原因は、細胞の増殖や成長をコントロールする信号伝達システムの混線にあります。

PTPN11遺伝子の役割

レオパード症候群1型の原因は、第12番染色体にあるPTPN11という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、SHP-2(シップツー)というタンパク質を作る設計図です。

RAS/MAPK経路とは

このタンパク質は、細胞の中で情報を伝えるためのRAS/MAPK(ラス・マップケー)経路という重要なシステムの一部を担っています。

この経路は、細胞の外からの「成長しなさい」「分裂しなさい」「分化しなさい」という命令を、細胞の核にあるDNAに伝えるための、リレー走者のような役割をしています。

正常な状態では、必要な時だけスイッチがオンになり、命令が伝えられます。

何が起きているのか(ヌーナン症候群との違い)

実は、一般的なヌーナン症候群も、同じPTPN11遺伝子の変異が原因であることが多いです。

では、なぜ病名が違うのでしょうか。

それは、変異によってSHP-2タンパク質の機能がどう変わるかが正反対だからです。

ヌーナン症候群の場合:変異によってSHP-2の働きが強くなりすぎます(機能亢進)。スイッチが入りっぱなしの状態です。

レオパード症候群の場合:変異によってSHP-2の酵素としての働きが弱くなってしまいます(機能低下)。

しかし、不思議なことに、SHP-2の働きが弱まっているにもかかわらず、結果としてRAS/MAPK経路全体の信号の伝わり方には独特の影響を与え、ヌーナン症候群と似たような症状(低身長や顔貌)を引き起こします。

一方で、この「機能低下」という特殊な状態が、黒子や肥大型心筋症といったレオパード症候群特有の症状の原因になっていると考えられています。

専門的には、触媒活性は低下しているが、シグナル伝達における何らかの役割は残っている、あるいは変化しているという複雑なメカニズムが研究されています。

遺伝について

この病気は常染色体顕性遺伝、以前は優性遺伝と呼ばれていた形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のPTPN11遺伝子に変異があれば発症します。

親から子への遺伝

ご両親のどちらかがレオパード症候群1型である場合、お子さんに遺伝する確率は50パーセントです。

突然変異

患者さんの多くは、ご両親はこの病気ではなく、ご本人の代で初めて遺伝子の変化が起こる突然変異によるものです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

医者

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察、心臓の検査、そして遺伝学的検査を組み合わせて行われます。

1. 臨床診断(ヴォロンの基準)

医師は、LEOPARDの頭文字で示されるような特徴的な症状がいくつ当てはまるかを確認します。

特に、多発性の黒子があり、かつ心電図異常や肥大型心筋症などの症状がある場合、この病気が強く疑われます。

黒子がない場合でも、家族歴やその他の症状が3つ以上あれば診断されることがあります。

ただし、幼少期は黒子がまだ出ていないこともあるため、顔立ちの特徴や心臓の病気、家族歴などから総合的に判断されます。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も確実な検査です。

血液を採取し、DNAを解析してPTPN11遺伝子(およびRAF1やBRAFなどの関連遺伝子)に変異があるかを調べます。

PTPN11遺伝子に変異が見つかれば、レオパード症候群1型と確定します。

これにより、肥大型心筋症のリスクが高いことなどが予測でき、今後の管理計画が立てやすくなります。

3. 心臓の検査

心エコー検査(超音波検査)

心臓の壁の厚さや、弁の動き、血液の流れなどを詳しく調べます。痛みを伴わない検査で、定期的なチェックに欠かせません。

特に肥大型心筋症は進行することがあるため、継続的な観察が必要です。

心電図検査

不整脈や伝導異常がないかを確認します。

4. その他の検査

聴力検査

難聴の有無を確認します。

眼科検査

視力や眼の位置、まぶたの状態などを確認します。

成長ホルモンの検査

低身長が著しい場合、成長ホルモンがきちんと出ているかを調べる負荷試験を行うことがあります。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して病気を根本から治す治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や管理を行うことで、健康を維持し、生活の質を高めることは十分に可能です。

治療は、小児科(循環器、内分泌、神経など)、皮膚科、耳鼻科などが連携して行います。

1. 心臓の管理(最優先)

肥大型心筋症の治療

症状が軽い場合は、激しい運動を控えるなどの生活管理と、定期的な検査で経過を見ます。

心臓の壁が厚くなりすぎて血液の流れが悪くなっている場合や、不整脈がある場合は、心臓の負担を減らす薬(ベータ遮断薬やカルシウム拮抗薬など)を服用します。

重症の場合は、カテーテル治療や手術(心筋切除術など)が必要になることもあります。

生活上の注意

心臓に負担をかけるような激しいスポーツ(競技スポーツなど)は制限が必要な場合があります。

どの程度の運動なら大丈夫かは、心臓の状態によって異なるため、主治医とよく相談して決める必要があります。

2. 皮膚のケア

多発性黒子への対応

黒子自体は良性であり、健康上の問題はないため、基本的に治療の必要はありません。

見た目が気になる場合は、メイクアップやカバーファンデーションなどで目立たなくすることができます。

レーザー治療などは、かえって色素沈着を招くこともあるため、皮膚科医と慎重に相談する必要があります。

日焼けをすると黒子が増えたり濃くなったりする可能性があるため、日焼け止めなどの紫外線対策が推奨されます。

3. 聴覚のサポート

難聴がある場合は、その程度に応じて補聴器を使用します。

言葉の発達を促すために、言語聴覚士による療育を受けることも有効です。

4. 成長と発達のサポート

低身長の治療

成長ホルモンの分泌が不足している場合や、ヌーナン症候群の適応基準を満たす場合は、成長ホルモン治療を行うことがあります。

ただし、肥大型心筋症がある場合は、成長ホルモンが心筋をさらに厚くしてしまうリスクが理論的に懸念されることがあります。

そのため、心臓の状態を慎重にモニタリングしながら、治療のメリットとデメリットを検討して判断されます。

発達支援(療育)

運動や言葉の発達に遅れがある場合は、理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)などの療育を行います。

まとめ

レオパード症候群1型についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: PTPN11遺伝子の変異により、細胞内の信号伝達に変化が生じる先天性の疾患であり、ヌーナン症候群の類縁疾患です。
  • 主な特徴: 幼児期以降に増える全身の黒子、肥大型心筋症、特徴的な顔立ち、難聴などが挙げられます。
  • 1型の特徴: レオパード症候群の中で最も頻度が高く、特に肥大型心筋症の合併リスクが高いタイプです。
  • 管理の要点: 特に心臓の定期的なチェックが生命予後に関わるため重要です。
  • 予後: 適切な医学的管理とサポートがあれば、多くの患者さんが社会生活を送り、充実した人生を歩んでいます。

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