クラリノ症候群 (Currarino syndrome)

Currarino症候群(クラリノ症候群)は、仙骨形成不全・肛門直腸奇形・仙骨前面腫瘤の3つ(クラリノ三徴)を伴う稀な先天性疾患です。原因はMNX1遺伝子の変化で、常染色体顕性遺伝(顕性遺伝)の形式をとります。ただし実際には、症状の程度に大きな個人差があります。

妊娠中の超音波検査で「仙骨の形が気になる」「お尻のあたりに影がある」と指摘され、このページに辿り着いた方もいらっしゃるかもしれません。私たちはNIPT(新型出生前診断)のご相談を日々受けています。その中で、胎児の仙骨や肛門の形態異常を指摘された後にCurrarino症候群という病名を知り、NIPTで分かるのかを問い合わせてくださる方がいらっしゃいます。

結論からお伝えします。標準的なNIPTでCurrarino症候群を確実に見つけることはできません。原因の多くはMNX1遺伝子内の小さな変異です。染色体の数や大きな構造異常を調べるNIPTの対象外だからです。一方、原因が7q36.3領域の微細欠失である一部の例では、全染色体領域を調べるタイプのNIPTで異常が示唆される可能性があります。この記事では病気の基礎知識とあわせて、NIPTとの関係を正確に整理してお伝えします。

この記事でわかること

  • Currarino症候群(クラリノ症候群)とはどのような病気で、クラリノ三徴とは何か
  • 発生頻度・原因(MNX1遺伝子・7q36.3微細欠失)・遺伝形式
  • 治療と長期的な管理、合併症で気をつけたいポイント
  • NIPTでCurrarino症候群がわかるのか、確定診断に必要な検査は何か

Currarino症候群の医学的な要点(GARD・Orphanetより)

  • ORPHA:1552に登録された希少疾患で、有病率は10万人あたり1〜9人と推定されています。
  • 三徴(仙骨形成不全・肛門直腸奇形・仙骨前面腫瘤)がすべて揃うのは全体の2割程度で、残りは部分的な症状にとどまります。
  • 患者さんの3割前後は無症状または軽症で経過し、成人になってから偶然の画像検査で見つかることもあります。
  • 原因の中心はMNX1遺伝子(7q36.3)の変異または微細欠失で、常染色体顕性遺伝の形式をとります。

出典: GARD(米国国立衛生研究所 希少疾患情報センター)「Currarino triad」Orphanet「Currarino syndrome」(ORPHA:1552)

Currarino症候群(クラリノ症候群)とは

Currarino症候群は、脊椎(仙骨)の形成不全・直腸の奇形・仙骨前面の腫瘤という3つの特徴を併せ持つ先天性疾患です。この3つは医学文献上「クラリノ三徴」と呼ばれています。

日本語表記は文献によって「クラリノ症候群」「クラリーノ症候群」とゆれがあります。いずれも英語名Currarino syndromeの片仮名表記です。1981年に医師Currarino氏らが症例をまとめ、病名の由来となりました。

この病気は7番染色体にあるMNX1遺伝子(旧称HLXB9)の変異が原因の一つです。7番染色体長腕末端(7q36.3)の微細欠失も原因になります。胎児期に体の後方(尾側)を形作る遺伝子の働きが乱れ、仙骨・直腸・脊髄まわりの形成に影響が及びます。

どのくらい稀な病気か。発生頻度と特徴

Currarino症候群は10万人に1〜9人程度と推定される非常に稀な疾患で、無症状のまま気づかれていない例も少なくないとされています。

正確な有病率は分かっていません。Orphanetのデータベースでは10万人あたり1〜9人という数値が示されています。文献レビューでは、MNX1遺伝子の変異が確認された症例だけでも300例を超える報告が集積されています。家族内に同じ症状を持つ人が複数見つかることも珍しくありません。

症状の出方には幅があります。三徴がすべて揃うのは全体の2割程度にとどまります。残りは一部の特徴のみが見られる「部分型」です。患者さんの3割前後は便秘などの軽い症状しかなく、無自覚のまま成人期の画像検査で偶然発見されることもあります。ある文献レビューでは、臨床的な診断の8割が16歳になるまでに行われていると報告されています。一方で成人になってから見つかる例も珍しくありません。

3つの代表的な症状(クラリノ三徴)

クラリノ三徴とは、仙骨形成不全・肛門直腸奇形・仙骨前面腫瘤の3つを指し、組み合わせや程度は患者さんごとに異なります。

仙骨の形成不全(半仙骨)

仙骨(腰の下にある骨)が左右非対称であったり、一部が欠けていたりします。レントゲン検査では、鎌(かま)のような形に見える「鎌状仙骨(scimitar sacrum)」が特徴的な所見です。

肛門直腸奇形

肛門が狭い(肛門狭窄)、あるいは肛門が開いていない(鎖肛)などの状態です。新生児期からのひどい便秘が初期症状となることが多く、便秘の程度も軽度から手術が必要なものまでさまざまです。

仙骨前面の腫瘤(presacral mass)

仙骨と直腸の間の隙間にできる、腫瘍や嚢胞(のうほう)。最も多いのは「奇形腫(テラトーマ)」や、脊髄の膜が飛び出す「前方髄膜瘤(ぜんぽうずいまくりゅう)」です。

ある45例の症例集積では、8割以上の患者さんに三徴以外の合併異常を伴っていました。神経管の異常や泌尿生殖器の異常などです。とくに脊髄が周囲の組織に癒着する「係留脊髄(けいりゅうせきずい)」は、三徴に次ぐ重要な所見として扱われることがあります。子宮や腎臓の形態異常も1割台の頻度で見つかるとの報告があります。国内の症例報告(小児外科領域の学会誌)でも、奇形の内訳は症例ごとに大きく異なりました。直腸狭窄・中間位鎖肛・総排泄腔症などさまざまです。仙骨前面腫瘤も奇形腫・脂肪腫・脊髄嚢瘤など多様なタイプが確認されています。

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原因となるMNX1遺伝子と7q36.3微細欠失

Currarino症候群の主な原因は、7番染色体長腕末端(7q36.3)にあるMNX1遺伝子の変化で、変異と微細欠失の2つのパターンがあります。

遺伝子変異と微細欠失の違い

1つ目は「遺伝子変異」です。MNX1遺伝子の配列の一部が書き換わっている状態を指します。2つ目は「微細欠失」です。MNX1遺伝子を含む7q36.3領域がごく僅かに欠けている状態を指します。

MNX1遺伝子は、胎児期における身体の後方の形成(尾側の発達)を調節する重要な役割を担っています。この遺伝子が正しく働かないと、仙骨や直腸、脊髄周辺の形成に影響が及ぶと考えられています。

遺伝子検査での検出率

MNX1遺伝子の変異が実際に見つかる割合には差があります。家族内に複数の患者さんがいる「家族性」では9割超と高い割合です。一方、家族に患者さんがいない「孤発例」では3割程度にとどまります。7割近くは原因となる変異が特定できないとする文献レビューがあります。

この報告では、MNX1単独の遺伝子検査だけでは不十分な場合があると指摘されています。全エクソーム解析や染色体マイクロアレイ(CMA)を組み合わせることで、原因不明とされてきた孤発例から新たな候補遺伝子が見つかる可能性があるためです。原因が特定できない場合でも、画像所見と症状からCurrarino症候群と診断されることは珍しくありません。

妊婦健診での採血・NIPTをイメージした写真

遺伝形式。常染色体顕性遺伝と浸透率の個人差

Currarino症候群は常染色体顕性遺伝(顕性遺伝)の形式をとりますが、遺伝子を受け継いでも症状の重さは人によって大きく異なります。

  • 常染色体顕性(顕性)遺伝: 親の一方が原因遺伝子を持っている場合、50%の確率で子供に受け継がれます。
  • 浸透率の低さと表現度の多様性: 遺伝子を受け継いでも、非常に軽症(便秘のみなど)で気づかない人もいれば、重症の奇形を持つ人もいます。
  • 孤発例(新生突然変異): 家族に誰も症状がなく、子供で初めて発生することもあります。

実際に経過を伺うと、同じMNX1遺伝子の変化を受け継いでいても症状の幅は大きいと実感します。便秘の管理だけで済む方から、複数回の手術が必要な方までさまざまです。遺伝の仕方が分かっているからこそ、次のお子さんを考える際には遺伝カウンセリングでリスクを具体的に確認できます。

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治療と長期的な管理

Currarino症候群の治療は、奇形の種類や程度に応じた外科的治療と、その後の長期的な合併症管理が中心になります。

外科的治療

肛門直腸奇形に対する形成術や、仙骨前面の腫瘤(奇形腫など)の摘出手術が行われます。手術のタイミングや方法は、腫瘤の種類や周囲の神経・臓器との位置関係によって個別に判断されます。

便秘の管理

術後も続きやすい、慢性的な便秘。食事療法や緩下剤による長期的なケアが必要です。排便コントロールは生活の質(QOL)に直結します。消化器を専門とする医師と根気強く方法を調整していきましょう。

合併症の監視

腫瘤が前方髄膜瘤である場合、脳脊髄液の漏れなどをきっかけに髄膜炎を起こすリスクがあります。早期の診断と経過観察が欠かせません。係留脊髄がある場合は、成長に伴う神経症状の出現にも注意してください。

一方で気になるデータもあります。Currarino症候群に伴う仙骨前面の奇形腫は、症候群を伴わない一般的な仙尾部奇形腫より悪性化のリスクが低い可能性を示す文献レビューがあるのです。2年間の経過観察で悪性化が確認されなかった割合は、症候群に伴う奇形腫の方が高かったと報告されています。ただし症例数は限られます。油断せず定期的な画像検査を続けてください。

NIPT(新型出生前診断)でCurrarino症候群(クラリノ症候群)はわかるのか

結論から述べると、標準的なNIPTだけでCurrarino症候群を確実に見つけることはできません。理由と選択肢を順番に見ていきましょう。

標準的なNIPTのスクリーニング対象

一般的なNIPTは、13番・18番・21番染色体のトリソミーを中心にスクリーニングする検査です。Currarino症候群の原因の多くを占めるのはMNX1遺伝子内の小さな変異(点変異)です。これは染色体の数を調べる標準的なNIPTのスクリーニング対象には含まれません。

7q36.3微細欠失であれば示唆される可能性

一方、原因が「7q36.3領域の微細欠失」である場合は話が変わります。全染色体領域の欠失・重複を広く調べるタイプのNIPTで、異常が示唆される可能性があるからです。ただしこれは非確定的なスクリーニングにすぎません。微細欠失の大きさによっては検出感度が十分でないこともあります。当院の単一遺伝子疾患スクリーニングプラン(NIPTy-MONO、200種類以上に対応)についても、本記事執筆時点でMNX1は対象に含まれていません。単一遺伝子疾患まで幅広く確認したい方向けの選択肢として案内はできます。ただしCurrarino症候群そのものを狙い撃ちで調べられるわけではない点にご注意ください。

確定診断に必要な検査

NIPTはあくまで非確定的なスクリーニング検査です。Currarino症候群の確定診断には羊水検査が必要です。CMA(染色体マイクロアレイ)検査や、MNX1遺伝子を対象とした遺伝子検査を行います。NIPTの結果が陰性であっても、この病気の可能性が否定されるわけではありません。この点は必ず押さえておいてください。

妊娠中に指摘された場合の流れ

妊娠中の胎児超音波検査で仙骨や仙骨前面の腫瘤、直腸の異常が指摘された場合は、まず専門施設での精密な画像評価に進むのが一般的な流れです。

胎児超音波やMRIで所見が確認されると、小児外科や周産期センターと連携しながら出生後の治療方針を検討します。染色体や遺伝子の原因を確認したい場合は、羊水検査によるCMA検査や遺伝子解析が選択肢になります。ただし検査には流産などのリスクも伴います。受けるかどうかは、ご夫婦で十分に話し合って決めてください。

検査の意味や結果の解釈で迷う場合は、自己判断せず産婦人科医による遺伝カウンセリングを受けてください。NIPTで分かる範囲と分からない範囲については、NIPTの確率・的中率・限界を解説したページもあわせてご確認ください。検査全体の位置づけが把握しやすくなります。微細欠失症候群全般については、早期NIPTで発見できる微小欠失症候群のページで種類ごとに解説しています。

NIPTと羊水検査それぞれの特徴や違いは、NIPTと羊水検査の違いを解説したページで詳しく取り上げています。確定検査に進むかどうかの判断材料にしてください。

まとめ

Currarino症候群(クラリノ症候群)は、仙骨形成不全・肛門直腸奇形・仙骨前面腫瘤の三徴を特徴とする先天性疾患です。原因はMNX1遺伝子(7q36.3)の変化で、非常に稀な病気です。

常染色体顕性遺伝の形式をとりますが浸透率は低く、症状の重さには個人差が大きいのが実際のところです。治療は外科的手術と、長期的な便秘・合併症管理が中心となります。

NIPTとの関係で押さえておきたい点は明確です。原因の多くを占める点変異は、標準NIPTでもNIPTy-MONOでも対象外です。7q36.3の微細欠失であれば、全染色体領域を調べるタイプのNIPTで示唆される可能性はあります。ただし非確定的な範囲にとどまります。確定診断には羊水検査によるCMA検査・遺伝子検査が必須です。疑いがある場合は自己判断せず遺伝カウンセリングを受けてください。

よくある質問

Currarino症候群とNIPTについて、よく寄せられる質問にお答えします。

Q1. NIPTでCurrarino症候群(クラリノ症候群)はわかりますか?

いいえ、標準的なNIPTでは通常わかりません。原因の多くを占めるMNX1遺伝子の点変異は、染色体の数を調べる標準NIPTの対象外だからです。7q36.3領域の微細欠失が原因の場合に限り、全染色体領域を調べるタイプのNIPTで異常が示唆される可能性があります。

Q2. Currarino症候群は遺伝しますか?

常染色体顕性遺伝の形式をとります。親の一方が原因遺伝子を持つ場合、50%の確率で子供に受け継がれます。ただし浸透率が低く、遺伝子を受け継いでも軽症・無症状で気づかれない場合があります。家族に前例がない孤発例として発生する場合もあります。

Q3. 確定診断にはどんな検査が必要ですか?

妊娠中に疑いがある場合は、羊水検査によるCMA(染色体マイクロアレイ)検査やMNX1遺伝子検査が確定診断の手段となります。出生後は画像検査(レントゲン・MRI)と症状を組み合わせて診断されることも多くあります。

Q4. 三徴がすべて揃わないと診断されませんか?

三徴がすべて揃うのは全体の2割程度とされ、多くは一部の特徴のみを示す部分型です。画像所見や遺伝子検査の結果を踏まえて総合的に診断します。そのため三徴の一部だけでも診断される場合があります。

Q5. どんな合併症に注意が必要ですか?

慢性的な便秘、前方髄膜瘤に伴う髄膜炎のリスク、係留脊髄による神経症状、腎臓や女性生殖器の形態異常などが挙げられます。定期的な画像検査と専門診療科での経過観察を続けてください。

Q6. 妊娠中に指摘されて不安な場合、誰に相談すればよいですか?

まずは産婦人科医による遺伝カウンセリングを受けてください。プラン診断のページで検査プランを確認することもできます。お電話でのご相談は0120-169-629まで承っています。

Currarino症候群について、より詳しい医学情報も確認できます。Orphanet Journal of Rare Diseases掲載の総説論文(PMC)が参考になります。国内の症例報告である日本小児外科学会雑誌「Currarino症候群の4例」(J-STAGE)や、学術文献データベースCiNii Researchもあわせてご覧ください。

監修: 岡博史(おか ひろし) / 医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director

医師監修 監修日:2026年3月23日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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