常染色体顕性知的発達障害35型(MRD35/ジョーダン症候群)

親子

遺伝子検査の結果報告書に記された「Intellectual developmental disorder, autosomal dominant 35(MRD35)」という長い英語の診断名、あるいは「PPP2R5D遺伝子の変異」という結果を見て、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による生まれつきの体質です」と説明を受け、さらに「頭が大きくなりやすい傾向があります」や「筋肉の張りが弱いです」といった話をされて、聞き慣れない病名に戸惑い、将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。

特に、「35型」という番号がついた診断名は、医学的な分類のための名称であり、一般的な病名として耳にすることはまずありません。インターネットで検索しても、日本語の詳しい情報はほとんど見つからず、海外の専門的な論文ばかりが出てきて、途方に暮れている方もいらっしゃるでしょう。

まず最初に、言葉の整理をさせてください。

この「常染色体顕性知的発達障害35型」は、近年では原因となる遺伝子の名前をとってPPP2R5D関連神経発達障害、あるいはジョーダン症候群(Jordan’s Syndrome)という名前で呼ばれることが一般的になってきています。

これは、第6番染色体にあるPPP2R5Dという遺伝子の変化によって引き起こされる先天性の疾患です。

全体的な発達の遅れや、大頭症すなわち頭のサイズが大きいこと、筋緊張の低下、そして一部の患者さんに見られるてんかん発作などを主な特徴とします。

ジョーダン症候群という名前は、アメリカで最初に診断されたジョーダン・ラングさんという女性の名前に由来しています。彼女の家族が立ち上げた財団の活動により、世界中で研究が急速に進んでいる、今とても注目されている疾患の一つです。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を全て決定づけるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

病名の意味と「優生(優性)」について

検索されたキーワードに「優生遺伝」とありましたが、これは医学用語の「優性遺伝」のことだと思われます。

現在、日本医学会では差別的な意味合いや、「優れている」という誤解を避けるため、「優性遺伝」を顕性遺伝(けんせいいでん)、「劣性遺伝」を潜性遺伝(せんせいいでん)と言い換えるようになっています。

したがって、この病気の正式名称は「常染色体顕性知的発達障害35型」となります。

ここでの「顕性」とは、「優れている」という意味ではなく、「両親から受け継ぐ2つの遺伝子のうち、片方に変化があれば症状として現れる(隠れずに表に出る)」という遺伝の形式を表しているに過ぎません。

つまり、「知的発達障害を引き起こす遺伝子変異の中で、35番目に登録された顕性遺伝のタイプ」という意味です。

全体的な特徴

MRD35の原因遺伝子はPPP2R5Dです。

この遺伝子は、脳の神経細胞の働きを微調整する酵素を作る役割を持っています。

この調整機能がうまくいかないことで、神経の発達や信号の伝達に影響が出ます。

主な特徴は、全体的な発達の遅れ、特に言葉の遅れや運動発達の遅れです。

また、多くの患者さんで頭囲が大きくなる大頭症が見られます。

さらに、赤ちゃんの頃から筋肉の張りが弱い筋緊張低下が見られることが多く、体が柔らかい印象を受けることがあります。

てんかん発作や自閉スペクトラム症のような行動特性を合併することもあります。

主な症状

知的発達障害35型(MRD35/ジョーダン症候群)の症状は、身体的な特徴、発達の特徴、そして神経学的な特徴の3つに大きく分けられます。

すべての症状が全員に現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。

1. 身体的な特徴

ご家族や医師が最初に気づくきっかけとなることが多いのが、頭の大きさや体の柔らかさです。

大頭症(マクロセファリー)

この疾患の最も代表的な特徴の一つです。

頭囲すなわち頭の周りの長さが、同年代の平均に比べて大きい状態を指します。

生まれた時から大きい場合もあれば、生後数ヶ月で急激に頭囲が大きくなる場合もあります。

おでこが広く、前に出ているような特徴的な頭の形(前頭部突出)が見られることもあります。

頭が大きいこと自体は、脳の容量が大きいことや、脳室が拡大していることなどが原因ですが、必ずしも水頭症のように手術が必要なほど脳圧が高くなるわけではありません。

筋緊張低下(フロッピーインファント)

赤ちゃんの頃は体が柔らかく、抱っこした時にフニャッとした感じがする筋緊張低下が非常に多く見られます。

首がすわるのが遅かったり、お座りの姿勢を保つのが難しかったりします。

成長しても、関節が柔らかい関節弛緩の傾向が続くことがあり、姿勢が悪くなりやすかったり、疲れやすかったりすることがあります。

顔貌の特徴

MRD35には、いくつか共通するお顔立ちの特徴が報告されています。

おでこが広くて高い。

目が少し離れている(眼間開離)。

まぶたが下がっている(眼瞼下垂)。

鼻の先が少し下を向いている。

あごが小さい。

これらは非常にマイルドな特徴であり、個性の範囲内であることが多いです。成長とともに目立たなくなることもあります。

その他の身体的特徴

低身長:一部の患者さんでは身長の伸びが緩やかになることがあります。

側弯症:背骨が曲がることがあり、定期的なチェックが必要です。

視覚障害:斜視や、視神経の異常が見られることがあります。

2. 神経発達と知的な特徴

ご家族が日常生活で最もサポートを必要とする部分です。

全般的な精神運動発達遅滞

首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動機能の発達が、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。

歩き始めが2歳から3歳、あるいはそれ以降になることもあります。

しかし、リハビリテーションなどを通じて、多くのお子さんが独歩(一人歩き)を獲得します。

言語発達の遅れ

言葉の発達はゆっくりで、発語(おしゃべり)が出始めるのが遅い傾向があります。

話し始めても、単語が中心だったり、発音が不明瞭だったりすることがあります。

重度の場合は、言葉によるコミュニケーションが難しいこともありますが、こちらの言っていることを理解する力(受容言語)は、話す力(表出言語)よりも比較的良好である場合が多いです。

知的障害

軽度から重度まで、幅広い程度の知的障害が見られます。

新しいことを学習するのに時間がかかったり、複雑な指示を理解するのが苦手だったりします。

しかし、時間をかけて繰り返し経験することで、できることは着実に増えていきます。

3. 神経学的・行動面の特徴

脳の機能に関連する症状です。

てんかん

患者さんの一部(報告によりますが約2割から半数程度)に、てんかん発作が見られます。

発症時期は乳幼児期から学童期まで様々です。

多くの場合、抗てんかん薬によってコントロールが可能ですが、中には薬が効きにくい難治性の方もいます。

自閉スペクトラム症(ASD)の傾向

視線が合いにくい、こだわりが強い、変化を嫌うといった自閉スペクトラム症の特徴が見られることがあります。

人との関わりに関心が薄いように見えることもありますが、慣れた人には笑顔を見せるなど、その子なりの社会性を持っています。

手をパタパタさせたりする常同行動が見られることもあります。

行動の問題

かんしゃくを起こしやすい、注意力が続かない(ADHD傾向)、不安を感じやすいといった特徴が見られることがあります。

また、睡眠障害(寝付きが悪い、夜中に起きる)を伴うこともあります。Shutterstock

赤ちゃん

原因

なぜ、頭が大きくなったり、発達がゆっくりになったりするのでしょうか。その原因は、細胞の中にある重要な「調整役」タンパク質の不具合にあります。

PPP2R5D遺伝子の役割

この病気の原因は、第6番染色体にあるPPP2R5Dという遺伝子の変異です。

この遺伝子は、プロテインフォスファターゼ2A(PP2A)という酵素の部品(サブユニット)を作る設計図です。

フォスファターゼ(脱リン酸化酵素)とは

私たちの細胞の中では、タンパク質にリン酸という物質をつけたり(リン酸化)、外したり(脱リン酸化)することで、情報のスイッチをオン・オフしています。

PP2Aは、ついたリン酸を外す「脱リン酸化」を行う酵素です。

これは、車のブレーキのような役割を果たしており、細胞の増殖や、神経信号の伝達が過剰になりすぎないように調節しています。

PPP2R5Dが作るタンパク質は、このPP2Aという酵素が「どこで」「いつ」「どのタンパク質に対して」働くかを決める、ナビゲーターのような役割をしています。

何が起きているのか

MRD35では、PPP2R5D遺伝子に変異が起きることで、PP2A酵素の形や働きが変わってしまいます。

多くの変異は、酵素としての働きを低下させたり、誤った相手に働いてしまったりする機能獲得型あるいはドミナント・ネガティブ効果を持つと考えられています。

その結果、脳の神経細胞の発達シグナルがうまく制御できなくなり、神経細胞が増えすぎたり(大頭症の原因)、神経回路のつながりが未熟になったり(知的障害の原因)すると考えられています。

遺伝について(顕性遺伝と突然変異)

この病気は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のPPP2R5D遺伝子に変異があれば発症します。

しかし、この病気の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察だけでは難しく、遺伝学的検査によって確定されます。

1. 臨床診断の難しさ

発達の遅れや大頭症は、ソトス症候群や他の染色体異常症など、多くの病気でも見られる症状です。

そのため、見た目や経過だけでPPP2R5D関連障害と診断することは不可能です。

これまでは「原因不明の発達遅滞」や「良性乳児大頭症」と診断されていることが多くありました。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も確実な検査です。

血液を採取し、DNAを解析してPPP2R5D遺伝子に変異があるかを調べます。

特定の遺伝子を狙って調べる検査もありますが、最近では次世代シーケンサーという技術を使って、発達障害に関連する多くの遺伝子を一度に網羅的に調べる全エクソーム解析や遺伝子パネル検査が行われることが増えています。

これにより、偶然PPP2R5D遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースが急増しています。

3. 画像検査

脳のMRI検査

脳の構造に大きな異常がないかを確認します。

MRD35では、大頭症に伴って脳室が拡大していることがよく見られますが、水頭症のように脳圧が高くなっていることは稀です。

また、脳梁が薄い、小脳の扁桃が下がっている(キアリ奇形様)などの所見が見られることもあります。

4. その他の検査

診断の補助や合併症のチェックのために、以下の検査が行われることがあります。

脳波検査:てんかんの疑いがある場合に行います。

眼科検査:斜視や視力の問題を確認します。

脊椎レントゲン:側弯症がないかを確認します。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復して酵素の働きを元通りにする根本的な治療法はまだ確立されていません。

しかし、世界中で活発に研究が進められており、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、生活の質を高めることができます。

1. リハビリテーション(療育)

お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。

理学療法(PT)

筋緊張低下や運動発達の遅れに対して、体の中心(体幹)を鍛え、バランス感覚を養う訓練を行います。

お座りや歩行などの基本動作の獲得をサポートします。

関節が柔らかい場合は、足に合ったインソール(中敷き)やハイカットの靴を使用することで、足首を安定させ、歩きやすくする工夫をすることもあります。

作業療法(OT)

手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。

日常生活動作として、スプーンを持って食べる、着替える、靴を履くなどの練習をします。

感覚統合療法を取り入れて、感覚の受け取り方を調整する練習を行うこともあります。

言語聴覚療法(ST)

言葉の遅れに対して、コミュニケーションの支援を行います。

言葉の理解を深める遊びを取り入れたり、発音の練習をしたりします。

言葉が出にくい場合でも、ジェスチャー、絵カード、写真、タブレット端末など、その子に合ったコミュニケーション手段(AAC)を見つけることが大切です。

「伝えたいことが伝わる」という経験を積み重ねることで、コミュニケーションへの意欲が育ちます。

また、食事の際に飲み込みや噛むことが苦手な場合(摂食嚥下障害)の指導も行います。

2. 教育と生活のサポート

環境調整

自閉的傾向や不安がある場合、落ち着いて過ごせる環境を作ることが大切です。

刺激を減らした静かなスペースを用意したり、一日のスケジュールを絵や写真で示して見通しを持たせたりする工夫(構造化)が役立ちます。

学校選び

就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。

個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。

大頭症や筋緊張低下がある場合、転倒した際に頭を守るための配慮や、姿勢を保ちやすい椅子の工夫なども必要になることがあります。

3. 合併症の管理

てんかん

てんかん発作がある場合は、抗てんかん薬による治療を行います。

脳波検査の結果や発作のタイプに合わせてお薬を選び、発作をコントロールします。

定期検診

側弯症の進行がないか、視力に問題がないかなどを定期的にチェックします。

大頭症に関しては、急激な変化(頭痛や嘔吐など)がない限り、特別な治療は必要ないことが多いですが、定期的な頭囲測定は継続します。

4. 最新の研究と希望(ジョーダンズ・ガーディアン・エンジェルズ)

この疾患に関しては、「Jordan’s Guardian Angels」というアメリカの財団を中心に、世界規模で強力な研究チームが組まれています。

彼らはPPP2R5D遺伝子の機能を詳細に解明し、薬や遺伝子治療によって症状を改善しようと研究を続けています。

すでにいくつかの薬剤の候補が見つかっており、臨床試験に向けた準備も進んでいます。

このように、世界中の研究者がお子さんの未来のために全力を尽くしているという事実は、大きな希望です。

まとめ

知的発達障害35型(MRD35/ジョーダン症候群)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: PPP2R5D遺伝子の変異により、細胞内の調整役である酵素(PP2A)の機能に影響が出て、脳の発達が変わる先天性の疾患です。
  • 主な特徴: 全般的な発達の遅れ、大頭症、筋緊張低下(体の柔らかさ)、言葉の遅れ、一部でてんかんなどが特徴です。
  • 原因: 親からの遺伝ではなく、突然変異によるものが大半です。「顕性遺伝」という形式をとります。
  • 治療: 根本治療の研究が進んでいますが、現時点では理学療法・作業療法・言語聴覚療法などの療育、てんかん管理が中心となります。
  • 予後: ゆっくりですが確実に成長します。多くの患者さんが、それぞれの方法で周囲との関わりを持っています。

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