概要
短鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(SCAD欠損症)は、体のなかで「短い脂肪酸」をエネルギーに変えるはたらきが弱くなる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ACADS 遺伝子の変化が原因となります。
新生児マススクリーニング(生まれてすぐの検査)で見つかることがありますが、見つかっても症状がまったく出ない方が多いことが分かってきました。診断されても過度に心配しすぎないことが大切です。
原因
ACADS 遺伝子は、短鎖アシルCoA脱水素酵素という酵素の設計図です。この酵素は、脂肪を分解してエネルギーを取り出す過程(脂肪酸β酸化)のうち、鎖の短い脂肪酸を処理する段階を担当しています。
この酵素のはたらきが弱いと、処理されなかった物質(ブチリルカルニチン、エチルマロン酸)が体にたまります。ただし、たまっても体に害が及ばないことが多いと考えられています。
症状
- 多くの場合、症状はありません
- 報告されている症状としては、発達の遅れ、筋緊張の低下、けいれん、低血糖、嘔吐などがありますが、この病気が原因かどうかは明らかでないことが多い
- 新生児マススクリーニングでブチリルカルニチン(C4)の高値を指摘される
検査・診断
新生児マススクリーニングで血液中のC4(ブチリルカルニチン)が高いことから疑われます。尿の有機酸分析でエチルマロン酸が増えていること、ACADS 遺伝子の解析によって確定します。
治療
- 特別な治療は必要ないことがほとんどです
- 長時間絶食を避ける(体調の悪いときはこまめに糖分をとる)
- 症状がある場合には、カルニチンの補充やリボフラビン(ビタミンB2)の投与が検討されることがあります
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ACADS 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ACADS 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
SCAD欠損症は ACADS(12q24.31)の両アレル変異により生じる、ミトコンドリア脂肪酸β酸化異常症のひとつである。生化学的にはブチリルカルニチン(C4)高値と尿中エチルマロン酸の増加を示す。
本症で特筆すべきは、生化学的表現型と臨床的表現型の乖離である。マススクリーニングの普及により多数の無症状例が同定され、また c.625G>A(p.Gly209Ser)および c.511C>T(p.Arg171Trp)は一般人口に高頻度で存在する感受性多型(susceptibility variant)として知られる。これらのホモ接合体でも臨床症状を欠くことがほとんどである。
このため、現在では SCAD欠損症を「疾患」として扱うべきかについて議論があり、米国の推奨一次スクリーニング項目(RUSP)からは外されている。日本の新生児マススクリーニングでも、C4高値例に対しては経過観察とすることが多い。
症状を有する例では、他の疾患(グルタル酸血症2型、エチルマロン酸脳症など)の合併や別の原因の検索が必要である。
よくある質問
Q. マススクリーニングで指摘されましたが、大丈夫でしょうか?
A. この病気は、見つかっても症状が出ない方が大半です。多くの場合、経過をみるだけで問題ありません。担当の先生とご相談ください。
Q. 食事に気をつけることはありますか?
A. 長い時間の絶食を避けること以外、特別な食事制限は通常必要ありません。
Q. どうして病気なのに症状が出ないのですか?
A. この酵素がはたらかなくても、体は他の経路でエネルギーを作れるためと考えられています。海外では、病気として扱わない国もあります。
Q. 兄弟にも検査は必要ですか?
A. ご希望があれば調べられますが、症状がない場合には必ずしも必要ではありません。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 将来、症状が出ることはありますか?
A. 現在のところ、無症状の方が後から発症したという明確な報告は乏しいとされています。
参考文献
- Corydon MJ, Vockley J, Rinaldo P, et al. Role of common gene variations in the molecular pathogenesis of short-chain acyl-CoA dehydrogenase deficiency. Pediatr Res. 2001;49(1):18-23.
- Gallant NM, Leydiker K, Tang H, et al. Biochemical, molecular, and clinical characteristics of children with short chain acyl-CoA dehydrogenase deficiency detected by newborn screening in California. Mol Genet Metab. 2012;106(1):55-61.
- van Maldegem BT, Duran M, Wanders RJ, et al. Clinical, biochemical, and genetic heterogeneity in short-chain acyl-coenzyme A dehydrogenase deficiency. JAMA. 2006;296(8):943-952.
- OMIM #201470 Acyl-CoA dehydrogenase, short-chain, deficiency of
