概要
極長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(VLCAD欠損症)は、体のなかで「長い脂肪酸」をエネルギーに変えるはたらきが弱くなる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ACADVL 遺伝子の変化が原因となります。
食事がとれないときや、熱が出たとき、運動を長く続けたときなど、体がエネルギーを必要とする場面で症状が現れます。日本では新生児マススクリーニングの対象で、早く見つけて備えることができます。
原因
ACADVL 遺伝子は、極長鎖アシルCoA脱水素酵素という酵素の設計図です。この酵素は、ミトコンドリアのなかで、鎖の長い脂肪酸を分解してエネルギーに変える最初の段階を担当しています。
この酵素がはたらかないと、絶食時などに脂肪をエネルギーとして使えず、低血糖におちいります。同時に、分解されなかった脂肪酸が心臓や筋肉、肝臓にたまって障害を起こします。
症状
- 新生児・乳児期発症型(重症):心筋症、不整脈、肝臓の腫大、低血糖、突然死
- 小児期発症型(中間型):発熱や絶食をきっかけとした低ケトン性低血糖、肝臓の腫大
- 成人期発症型(軽症):運動後の筋肉痛、筋力低下、横紋筋融解症(ミオグロビン尿・茶色い尿)
- かぜをひいたときや、長時間食事をとらなかったときに悪化しやすい
検査・診断
新生児マススクリーニングで、血液中のC14:1(テトラデセノイルカルニチン)が高いことから疑われます。確定には ACADVL 遺伝子の解析や、培養した皮膚の細胞での酵素活性の測定を行います。
治療
- 絶食を避ける(年齢に応じた間隔で必ず食事をとる)
- 長鎖脂肪を控え、中鎖脂肪酸(MCT)を用いた食事療法
- 体調が悪いときは早めに医療機関を受診し、ブドウ糖の点滴を行う(シックデイ対応)
- カルニチンの補充が検討されることがあります
- 激しい運動や長時間の運動を避ける
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ACADVL 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ACADVL 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
VLCAD欠損症は ACADVL(17p13.1)の両アレル変異により生じる、長鎖脂肪酸β酸化異常症である。VLCADはミトコンドリア内膜に局在し、炭素数14〜20のアシルCoAの初発脱水素反応を触媒する。
臨床型は残存酵素活性と相関し、(1) 新生児期発症の重症型(心筋症・不整脈・突然死)、(2) 乳幼児期発症の肝型(低ケトン性低血糖)、(3) 遅発性のミオパチー型(運動誘発性横紋筋融解症)に大別される。
アシルカルニチン分析でC14:1の上昇が特徴的で、C14:1/C12:1比が診断に有用である。日本では2014年より新生児マススクリーニングの一次対象疾患に含まれる。
治療の柱は異化亢進の回避であり、シックデイには早期のブドウ糖輸液(GIR 6〜8 mg/kg/分)を行う。中鎖脂肪酸(MCT)はVLCADを介さず代謝されるためエネルギー源として有用である。近年、トリヘプタノイン(奇数鎖脂肪酸)が長鎖脂肪酸酸化異常症に対して承認されている。
よくある質問
Q. どんなときに症状が出やすいですか?
A. 食事をとれないとき、熱が出たとき、下痢や嘔吐が続くとき、長い時間の運動をしたときです。こうしたときは早めに受診してください。
Q. 食事はどうすればよいですか?
A. 長時間の絶食を避け、長鎖の脂肪を控えます。中鎖脂肪酸(MCT)を用いた食事が使われます。管理栄養士と一緒に計画を立てます。
Q. 運動はしてもよいですか?
A. 軽い運動は可能ですが、長時間の激しい運動は筋肉が壊れる原因になります。担当の先生とご相談ください。
Q. 新生児マススクリーニングで見つかりました。すぐ症状が出ますか?
A. 症状が出るかどうか、いつ出るかには幅があります。早く見つかったことで、発作を防ぐ備えができます。
Q. 茶色い尿が出ました。
A. 筋肉が壊れているサイン(横紋筋融解症)の可能性があります。すぐに受診してください。
参考文献
- Aoyama T, Souri M, Ushikubo S, et al. Purification of human very-long-chain acyl-coenzyme A dehydrogenase and characterization of its deficiency in seven patients. J Clin Invest. 1995;95(6):2465-2473.
- Leslie ND, Saenz-Ayala S. Very Long-Chain Acyl-Coenzyme A Dehydrogenase Deficiency. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle.
- Arnold GL, Van Hove J, Freedenberg D, et al. A Delphi clinical practice protocol for the management of very long chain acyl-CoA dehydrogenase deficiency. Mol Genet Metab. 2009;96(3):85-90.
- Vockley J, Burton B, Berry GT, et al. Results from a 78-week, single-arm, open-label phase 2 study to evaluate UX007 in pediatric and adult patients with severe long-chain fatty acid oxidation disorders. J Inherit Metab Dis. 2019;42(1):169-177.
- OMIM #201475 VLCAD deficiency
