概要
ムコ多糖症I型 ハーラー型(Hurler syndrome)は、体のなかで不要になった糖の鎖(ムコ多糖)を分解できず、全身の臓器にたまっていく病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、IDUA 遺伝子の変化が原因となります。
ムコ多糖症I型のなかでもっとも症状が重い型で、乳児期から症状が現れ、知的な発達にも影響します。造血幹細胞移植や酵素補充療法があり、早く治療を始めることがきわめて重要です。
原因
IDUA 遺伝子は、α-L-イズロニダーゼという酵素の設計図です。この酵素は、細胞のなかのライソゾームで、デルマタン硫酸とヘパラン硫酸というムコ多糖を分解しています。
酵素のはたらきが弱いとムコ多糖が分解されず、全身のさまざまな臓器にたまっていきます。どれくらい酵素が残っているかによって症状の重さが変わり、重い順にハーラー型・ハーラー/シャイエ型・シャイエ型と呼び分けられています。
症状
- 生後1年ごろから目立ってくる特徴的な顔つき(額の突出、鼻が低い、唇が厚い)
- 低身長、背骨の変形(胸腰椎後弯)、関節が硬くなる
- 肝臓・脾臓が大きくなる、へその出っぱり(臍ヘルニア)
- 角膜が濁って視力が下がる
- 知的な発達の遅れ(1〜2歳ごろから明らかになる)
- 心臓の弁の異常、くり返す気道感染、難聴
- 治療をしない場合、10歳前後までに命にかかわることが多い
検査・診断
尿中のムコ多糖(デルマタン硫酸・ヘパラン硫酸)の増加を調べ、白血球や培養した皮膚の細胞でα-L-イズロニダーゼの酵素活性を測定して診断します。IDUA 遺伝子の解析によって確定します。
治療
- 造血幹細胞移植:2歳半までに行うことで、知的発達への影響を抑えられると報告されています(ハーラー型の第一選択)
- 酵素補充療法(ラロニダーゼ/アウドラザイム®の点滴)。ただし脳への到達は限られます
- 心臓の弁、角膜、脊髄の圧迫、手根管症候群などに対する手術
- 理学療法、呼吸のサポート、定期的な心エコー・聴力検査
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる IDUA 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、IDUA 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
ムコ多糖症I型は IDUA(4p16.3)の両アレル変異による。臨床型は残存酵素活性に応じてハーラー型(重症)、ハーラー/シャイエ型(中間)、シャイエ型(軽症)に連続的に分布する。
ハーラー型では中枢神経障害を伴う点が最大の特徴であり、酵素補充療法は血液脳関門を越えないため、神経学的転帰の改善には造血幹細胞移植が必要である。生着したドナー由来細胞が酵素を供給し、cross-correction により中枢神経系にも効果が及ぶ。
移植の時期が予後を規定し、2歳半までに実施した症例では認知機能の温存が良好であるとの多施設報告がある。移植前後の橋渡しとして酵素補充療法が併用される。
骨・軟骨病変(dysostosis multiplex)は移植後も残存しやすく、整形外科的管理が長期的な課題となる。
よくある質問
Q. 移植と酵素補充療法、どちらを行いますか?
A. ハーラー型では、知的発達を守るために造血幹細胞移植が第一に検討されます。酵素補充療法は移植の前後に併用されることが多い治療です。
Q. 治療はいつまでに始めるべきですか?
A. 2歳半までの移植で認知機能が良好に保たれたという報告があります。診断がついたら、できるだけ早く専門施設にご相談ください。
Q. 酵素補充療法だけでは不十分なのですか?
A. 点滴した酵素は脳へ届きにくいため、知的な発達への効果は限られます。体の症状には効果が期待できます。
Q. 知的な発達には必ず影響しますか?
A. ハーラー型では影響することが多いとされますが、早期の移植によって守れる可能性があります。
Q. 手術のときに注意することはありますか?
A. 気道が狭くなっていることがあり、麻酔の管理に特別な注意が必要です。必ず病名をお伝えください。
参考文献
- Scott HS, Bunge S, Gal A, et al. Molecular genetics of mucopolysaccharidosis type I: diagnostic, clinical, and biological implications. Hum Mutat. 1995;6(4):288-302.
- Clarke LA. Mucopolysaccharidosis Type I. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle.
- Muenzer J, Wraith JE, Clarke LA. Mucopolysaccharidosis I: management and treatment guidelines. Pediatrics. 2009;123(1):19-29.
- Aldenhoven M, Wynn RF, Orchard PJ, et al. Long-term outcome of Hurler syndrome patients after hematopoietic cell transplantation: an international multicenter study. Blood. 2015;125(13):2164-2172.
- OMIM #607014 / #607015 / #607016 Mucopolysaccharidosis type I
