概要
全身性原発性カルニチン欠乏症は、脂肪をエネルギーに変えるために欠かせない「カルニチン」を、細胞のなかに取り込めなくなる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、SLC22A5 遺伝子の変化が原因となります。
食事がとれないときに強い低血糖を起こしたり、心臓の筋肉が弱くなったりします。カルニチンを飲み薬で補うことで、症状をよく防げる病気で、日本では新生児マススクリーニングの対象です。
原因
SLC22A5 遺伝子は、OCTN2というカルニチンの「取り込み口」の設計図です。OCTN2は、腎臓・心臓・筋肉などの細胞膜でカルニチンを細胞のなかへ運び込んでいます。
この取り込み口がはたらかないと、カルニチンが尿へ捨てられてしまい、体のなかのカルニチンが不足します。カルニチンは長鎖脂肪酸をミトコンドリアへ運ぶ役目をしているため、脂肪をエネルギーに変えられなくなります。
症状
- 代謝発作型:乳幼児期に、感染や絶食をきっかけとした低ケトン性低血糖、意識障害、肝臓の腫大
- 心筋症型:1〜7歳ごろに進行性の心筋症、心不全
- 筋型:筋力の低下、疲れやすさ
- 成人になって初めて症状が出る(あるいは無症状で経過する)ことがある
- 無治療の場合、突然死のリスクがある
検査・診断
新生児マススクリーニングで血液中の遊離カルニチン(C0)が低いことから疑われます。血清カルニチン分画の測定、尿中カルニチン排泄の増加、SLC22A5 遺伝子の解析によって確定します。母体のカルニチン欠乏が児のスクリーニングで検出されることもあります。
治療
- レボカルニチン(L-カルニチン)の内服:これが治療の中心で、症状をよく防げます
- 生涯にわたって内服を続けることが必要です
- 長時間の絶食を避ける
- 体調が悪いときは早めに受診し、ブドウ糖の点滴を受ける
- 定期的な心エコーによる心機能の確認
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる SLC22A5 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SLC22A5 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
全身性原発性カルニチン欠乏症(primary carnitine deficiency, CDSP)は SLC22A5(5q31.1)の両アレル変異による。OCTN2(organic cation/carnitine transporter 2)の機能喪失により、腎尿細管でのカルニチン再吸収が障害され、血漿遊離カルニチンが著減する(多くは5 μmol/L未満)。
カルニチンは長鎖アシルCoAをカルニチンシャトルによりミトコンドリア内へ輸送するために必須であり、欠乏により長鎖脂肪酸β酸化が停止する。臨床型は代謝発作型、心筋症型、筋型に分けられるが、同一家系内でも表現型は多様である。
L-カルニチンの経口補充(100〜400 mg/kg/日)により、心筋症は可逆的に改善し、代謝発作も予防できる。治療反応性が良好な数少ない脂肪酸酸化異常症であり、早期診断の意義が大きい。
新生児マススクリーニングでC0低値を認めた場合、児自身の疾患だけでなく母体のCDSPを反映していることがあるため、母体の血中カルニチン測定を併せて行う。中断すると突然死のリスクがあり、生涯にわたる服薬継続の指導が重要である。
よくある質問
Q. 薬はいつまで飲み続けますか?
A. 生涯にわたって続ける必要があります。自己判断で中断すると、心臓の症状や突然死のリスクがあります。
Q. 治療でよくなりますか?
A. はい。カルニチンを補うことで心筋症が改善し、発作も防げます。治療によく反応する病気です。
Q. 新生児マススクリーニングで指摘されました。
A. お子さま自身の病気のほか、お母さまの病気を反映していることもあります。ご家族もあわせて検査を受けていただくことがあります。
Q. どんなときに注意が必要ですか?
A. 感染症、発熱、嘔吐や下痢、長時間の絶食のときです。早めに受診してください。
Q. 運動はできますか?
A. 治療を続けていれば、通常の生活や運動が可能なことが多いです。担当の先生とご相談ください。
参考文献
- Nezu J, Tamai I, Oku A, et al. Primary systemic carnitine deficiency is caused by mutations in a gene encoding sodium ion-dependent carnitine transporter. Nat Genet. 1999;21(1):91-94.
- El-Hattab AW, Scaglia F. Primary Carnitine Deficiency. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle.
- Magoulas PL, El-Hattab AW. Systemic primary carnitine deficiency: an overview of clinical manifestations, diagnosis, and management. Orphanet J Rare Dis. 2012;7:68.
- Rasmussen J, Nielsen OW, Janzen N, et al. Carnitine levels in 26,462 individuals from the nationwide screening program for primary carnitine deficiency in the Faroe Islands. J Inherit Metab Dis. 2014;37(2):215-222.
- OMIM #212140 Carnitine deficiency, systemic primary
