α1-アンチトリプシン欠乏症

Alpha- 1 antitrypsin deficiency, SERPINA1

概要

α1-アンチトリプシン欠乏症は、肺と肝臓を守るはたらきをするたんぱく質(α1-アンチトリプシン)が不足する、あるいは異常な形で作られてしまう病気です。SERPINA1 遺伝子の変化が原因となります。

成人では肺気腫(COPD)、小児では肝臓の病気という形で現れます。欧米では比較的多い病気ですが、日本人ではまれです。禁煙が予後を大きく左右します

原因

SERPINA1 遺伝子は、α1-アンチトリプシンというたんぱく質の設計図です。このたんぱく質は肝臓で作られて血液中に出ていき、白血球が出す「好中球エラスターゼ」という酵素が肺の組織を壊しすぎないよう、ブレーキをかけています。

遺伝子に変化があると、ブレーキが足りずに肺が壊れて肺気腫になります。同時に、異常な形のたんぱく質が肝臓の細胞のなかにたまり、肝臓の障害を起こします。とくに Z型(PiZZ)で症状が強く現れます。

症状

  • 肺(おもに成人):息切れ、慢性の咳と痰、若い年齢で発症する肺気腫・COPD(とくに肺の下の方から進む)
  • 肝臓(小児期から):新生児期の遷延性黄疸、肝機能の異常、肝硬変、成人期の肝細胞がん
  • まれに、皮膚の症状(脂肪織炎)、血管炎
  • 喫煙により肺の症状が10〜15年早く現れます

検査・診断

血液中のα1-アンチトリプシン濃度の測定と、たんぱく質の型を調べる検査(等電点電気泳動によるPi型判定)で診断します。SERPINA1 遺伝子の解析によって確定します。40〜50代で肺気腫を発症した方、家族に同様の方がいる場合には検査が勧められます。

治療

  • 禁煙(もっとも重要です)、受動喫煙や粉じんを避ける
  • α1-アンチトリプシン補充療法(欧米では点滴による補充が行われています。国内での使用については担当の先生にご確認ください)
  • 気管支拡張薬、吸入ステロイド、呼吸リハビリテーション、インフルエンザ・肺炎球菌ワクチン
  • 進行した肺気腫には肺移植、進行した肝硬変には肝移植
  • 肝細胞がんのサーベイランス(定期的な画像検査)

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる SERPINA1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SERPINA1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

キャリアスクリーニングテスト(228種類)

この疾患は、両親から受け継いだ2つの遺伝子の組み合わせによって症状の出方が決まります(共優性)。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がどの型の遺伝子をお持ちかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます

検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。

専門的な解説

α1-アンチトリプシン欠乏症は SERPINA1(14q32.13)の変異による。遺伝形式は常染色体共優性(codominant)で、両アレルの産物がそれぞれ血中濃度に寄与する。正常アレルはM、主要な変異アレルは Z(Glu342Lys)S(Glu264Val) である。

PiZZ では血中濃度が正常の10〜15%に低下する。Z変異体は肝細胞内で重合体(polymer)を形成して小胞体に蓄積し、肝障害は「毒性獲得(gain of toxic function)」、肺障害は「機能喪失(loss of function)」という二重の機序で生じる。この点が本症の病態理解の要である。

肺気腫は下葉優位の汎小葉性で、通常のCOPD(上葉優位の小葉中心性)と分布が異なる。喫煙者では非喫煙者に比べ発症が10〜15年早く、生命予後が著しく悪化する。

欧米(とくに北欧)ではPiZZ頻度が1/2,000〜1/5,000と高いが、日本人ではZ・Sアレルはきわめてまれで、日本人症例ではSiiyama(Ser53Phe)など日本固有の変異が報告されている。

静注α1-プロテアーゼ阻害薬による補充療法は、欧米で肺気腫の進行抑制に用いられる。肝障害には補充療法は無効である。

よくある質問

Q. いちばん大切なことは何ですか?

A. 禁煙です。喫煙により肺の症状が10〜15年早く現れ、経過が大きく悪くなります。受動喫煙も避けてください。

Q. なぜ肺と肝臓の両方に症状が出るのですか?

A. 肺は「守るたんぱく質が足りない」ために壊れ、肝臓は「異常な形のたんぱく質がたまる」ために傷つきます。原因は同じでも、起こり方が違います。

Q. 日本人でも多い病気ですか?

A. 日本人ではまれです。欧米、とくに北欧に多い病気で、日本人では別の型の変異が報告されています。

Q. 補充療法は受けられますか?

A. 欧米では点滴による補充療法が行われています。国内での使用については担当の先生にご確認ください。

Q. 子どもに遺伝しますか?

A. この病気は共優性という形式で、両親から受け継いだ2つの遺伝子の組み合わせで重さが決まります。ご家族の検査については遺伝カウンセリングでご相談ください。

参考文献

  • Laurell CB, Eriksson S. The electrophoretic α1-globulin pattern of serum in α1-antitrypsin deficiency. Scand J Clin Lab Invest. 1963;15:132-140.
  • Lomas DA, Evans DL, Finch JT, Carrell RW. The mechanism of Z alpha 1-antitrypsin accumulation in the liver. Nature. 1992;357(6379):605-607.
  • Stoller JK, Aboussouan LS. A review of α1-antitrypsin deficiency. Am J Respir Crit Care Med. 2012;185(3):246-259.
  • Seyama K, Nukiwa T, Takabe K, et al. Siiyama (serine 53 (TCC) to phenylalanine 53 (TTC)). A new alpha 1-antitrypsin-deficient variant with mutation on a predicted conserved residue of the serpin backbone. J Biol Chem. 1991;266(19):12627-12632.
  • OMIM #613490 Alpha-1-antitrypsin deficiency
医師監修 監修日:2026年9月8日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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