概要
眼球運動失行を伴う運動失調症1型(AOA1)は、幼児期から学童期に発症して、歩行のふらつきと目を素早く動かせない(眼球運動失行)症状が現れる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、APTX 遺伝子の変化が原因となります。
血液検査で、アルブミンが低く、コレステロールが高いのが特徴で、診断の重要な手がかりになります。日本人での報告も比較的多い病気です。
原因
APTX 遺伝子は、アプラタキシンというたんぱく質の設計図です。このたんぱく質は、DNAが切れたときにできる異常な末端を取り除いて、修復を進める役目をしています。
この遺伝子に変化があるとDNAの傷が残り、とくに小脳の神経細胞と末梢神経が少しずつ失われていきます。
症状
- 幼児期〜学童期の発症(平均7歳前後。SETX型より早く発症します)
- 歩行のふらつき(小脳失調)
- 眼球運動失行:目を素早く動かせず、頭を振って対象を追います(この病気に特徴的)
- 末梢神経の障害:手足のしびれ、筋力の低下、腱反射の消失
- 舞踏運動(不随意にくねる動き):初期にみられることがある
- 構音障害
- 低アルブミン血症と高コレステロール血症
- 知能は保たれることが多い
- 進行し、10〜20年ほどで車椅子が必要になることがあります
検査・診断
幼児期〜学童期発症の進行性小脳失調に眼球運動失行と末梢神経障害を伴い、血液検査で低アルブミン血症・高コレステロール血症を認めることから疑います。頭部MRIで小脳の萎縮を確認し、APTX 遺伝子の解析によって確定します。AFPは正常で、この点がAOA2や毛細血管拡張性運動失調症との鑑別点です。
治療
- 根本的に治す方法は確立していません
- 理学療法・作業療法による機能の維持
- 歩行補助具、車椅子など、進行に応じた環境の整備
- 言語療法
- 高コレステロール血症に対する管理
- 定期的な神経学的評価
- 悪性腫瘍のリスクや免疫不全は伴いません
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる APTX 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、APTX 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
眼球運動失行を伴う失調症1型(AOA1)は APTX(9p21.1)の両アレル変異による。アプラタキシンは、DNA一本鎖切断修復において、DNAリガーゼの失敗により生じた5′-アデニル化末端(AMP付加末端)を除去する酵素である。
生化学的マーカーとして低アルブミン血症(3.5 g/dL未満)と高コレステロール血症が特徴的であり、経過とともに顕著になる。AFPは正常であり、この点でAOA2(SETX)や毛細血管拡張性運動失調症(ATM)と鑑別できる。
眼球運動失行は本症で高頻度に認められるが、経過とともに完全な外眼筋麻痺へ移行し、かえって「失行」として認識されなくなることがある。舞踏運動は初期に目立ち、後に失調と末梢神経障害が前景となる。
日本人および北アフリカ(ポルトガル系)に集積が報告されており、日本人では p.Pro206Leu、p.Val263Gly などの創始者変異が知られる。若年発症の常染色体潜性失調症としては、フリードライヒ失調症に次ぐ頻度とする報告もある。
よくある質問
Q. 目の動きがおかしいと言われました。
A. 目を素早く動かせず、頭を振って対象を追う「眼球運動失行」はこの病気に特徴的な症状です。診断の手がかりになります。
Q. 血液検査で何がわかりますか?
A. アルブミンが低く、コレステロールが高いことが特徴です。AFPは正常で、この点が似た病気との区別に役立ちます。
Q. AOA2とどう違うのですか?
A. 発症の時期(AOA1は幼児期、AOA2は思春期)と、血液検査の所見(AOA1は低アルブミン、AOA2はAFP高値)が異なります。
Q. がんになりやすいですか?
A. この病気では、悪性腫瘍のリスクや免疫不全は伴いません。
Q. 日本人に多いのですか?
A. 日本人での報告が比較的多く、日本人に特有の遺伝子変化が知られています。
参考文献
- Date H, Onodera O, Tanaka H, et al. Early-onset ataxia with ocular motor apraxia and hypoalbuminemia is caused by mutations in a new HIT superfamily gene. Nat Genet. 2001;29(2):184-188.
- Moreira MC, Barbot C, Tachi N, et al. The gene mutated in ataxia-ocular apraxia 1 encodes the new HIT/Zn-finger protein aprataxin. Nat Genet. 2001;29(2):189-193.
- Le Ber I, Moreira MC, Rivaud-Péchoux S, et al. Cerebellar ataxia with oculomotor apraxia type 1: clinical and genetic studies. Brain. 2003;126(Pt 12):2761-2772.
- Ahel I, Rass U, El-Khamisy SF, et al. The neurodegenerative disease protein aprataxin resolves abortive DNA ligation intermediates. Nature. 2006;443(7112):713-716.
- OMIM #208920 Ataxia, early-onset, with oculomotor apraxia and hypoalbuminemia
