ミトコンドリア三頭酵素欠損症2型

Mitochondrial trifunctional protein deficiency 2, HADHB

概要

ミトコンドリア三頭酵素欠損症は、脂肪をエネルギーに変える過程の3つの働きをまとめて担う酵素がはたらかない病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、HADHB 遺伝子(βサブユニット)の変化が原因となります。

重症型では心筋症と突然死、軽症型では末梢神経の障害や運動後の横紋筋融解症が現れます。日本では新生児マススクリーニングの対象です。妊娠中の母体に重い合併症(HELLP症候群、急性脂肪肝)を起こすことがある点も重要です。

原因

HADHB 遺伝子は、ミトコンドリア三頭酵素(TFP)のβサブユニットの設計図です。TFPはαサブユニット(HADHA)とβサブユニットからなり、長鎖脂肪酸を分解する4段階のうち3つの反応をまとめて担当しています。

この酵素がはたらかないと、絶食時などに長鎖脂肪酸をエネルギーに変えられません。同時に、分解されなかった中間産物が心臓・筋肉・神経にたまって障害を起こします。

症状

  • 重症型(新生児・乳児期):心筋症、不整脈、低ケトン性低血糖、肝臓の腫大、突然死
  • 中間型:発熱や絶食をきっかけとした低血糖発作、肝障害
  • 軽症型(遅発型)進行性の末梢神経障害(手足のしびれ、筋力低下)、運動後の横紋筋融解症(茶色い尿)
  • 色素性網膜症(進行すると視力に影響します)
  • 胎児がこの病気の場合、母体にHELLP症候群や妊娠性急性脂肪肝が起こることがあります

検査・診断

新生児マススクリーニングで、血液中の長鎖ヒドロキシアシルカルニチン(C16-OH、C18:1-OH)が高いことから疑われます。HADHA または HADHB 遺伝子の解析、培養した皮膚の細胞での酵素活性の測定によって確定します。

治療

  • 絶食を避ける(年齢に応じた間隔で必ず食事をとる)
  • 長鎖脂肪を控え、中鎖脂肪酸(MCT)を用いた食事療法
  • 体調が悪いときは早めに受診し、ブドウ糖の点滴を受ける(シックデイ対応)
  • 激しい運動や長時間の運動を避ける
  • 定期的な心エコー、神経学的評価、眼科の診察
  • カルニチンの補充が検討されることがあります

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる HADHB 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、HADHB 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

キャリアスクリーニングテスト(228種類)

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます

検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。

専門的な解説

ミトコンドリア三頭酵素(TFP)欠損症は HADHA(αサブユニット)または HADHB(βサブユニット、2p23.3)の両アレル変異による。TFPは長鎖エノイルCoAヒドラターゼ、長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(LCHAD)、長鎖3-ケトアシルCoAチオラーゼの3活性を有するヘテロ8量体である。

HADHA の c.1528G>C(p.Glu510Gln)は LCHAD活性のみを選択的に障害する(LCHAD欠損症)のに対し、HADHB 変異では通常3活性すべてが低下し、TFP完全欠損症となる。臨床的にはTFP欠損症のほうが重症化しやすい。

臨床型は、新生児期発症の重症型(心筋症・突然死)、乳幼児期の肝型、遅発性の神経筋型に分かれる。遅発型では進行性の末梢神経障害が前景に立ち、シャルコー・マリー・トゥース病と誤診されることがある。色素性網膜症の合併も特徴的である。

胎児がLCHAD/TFP欠損症の場合、母体にHELLP症候群や妊娠性急性脂肪肝(AFLP)が高率に発症することが知られる。母体合併症の既往がある場合は、児の脂肪酸酸化異常症の検索を考慮する。

よくある質問

Q. どんなときに症状が出やすいですか?

A. 食事をとれないとき、熱が出たとき、下痢や嘔吐が続くとき、長時間の運動をしたときです。早めに受診してください。

Q. 茶色い尿が出ました。

A. 筋肉が壊れているサイン(横紋筋融解症)の可能性があります。すぐに受診してください。

Q. 手足のしびれが出てきました。

A. この病気では末梢神経の障害が進むことがあります。担当の先生にご相談ください。

Q. 妊娠中に母体が具合を悪くすることがあると聞きました。

A. 胎児がこの病気の場合、母体にHELLP症候群や急性脂肪肝が起こることがあります。妊娠の管理では、この点を産科の先生にお伝えください。

Q. 目の検査は必要ですか?

A. 色素性網膜症を伴うことがあるため、定期的な眼科の診察をおすすめします。

参考文献

  • Ushikubo S, Aoyama T, Kamijo T, et al. Molecular characterization of mitochondrial trifunctional protein deficiency: formation of the enzyme complex is important for stabilization of both alpha- and beta-subunits. Am J Hum Genet. 1996;58(5):979-988.
  • Spiekerkoetter U, Bastin J, Gillingham M, et al. Current issues regarding treatment of mitochondrial fatty acid oxidation disorders. J Inherit Metab Dis. 2010;33(5):555-561.
  • Ibdah JA, Bennett MJ, Rinaldo P, et al. A fetal fatty-acid oxidation disorder as a cause of liver disease in pregnant women. N Engl J Med. 1999;340(22):1723-1731.
  • Bo R, Yamada K, Kobayashi H, et al. Clinical and molecular investigation of 14 Japanese patients with complete TFP deficiency: a comparison with Caucasian cases. J Hum Genet. 2017;62(9):809-814.
  • OMIM #609015 Trifunctional protein deficiency
医師監修 監修日:2026年9月8日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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