常染色体潜性難聴9型

Autosomal Recessive Deafness 9, OTOF

概要

常染色体潜性難聴9型(DFNB9)は、生まれつき重い難聴が現れる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、OTOF 遺伝子の変化が原因となります。

この病気は「聴神経病変(オーディトリー・ニューロパチー)」という特殊な形をとります。耳音響放射(OAE)は正常なのにABRが出ないという検査所見が特徴で、新生児聴覚スクリーニングをすり抜けることがあります。人工内耳が有効で、近年、遺伝子治療の成功例が報告されて注目されています

原因

OTOF 遺伝子は、オトフェリンというたんぱく質の設計図です。このたんぱく質は、内耳の有毛細胞が音の信号を神経へ受け渡す部分(シナプス)で、神経伝達物質を放出する役目をしています。

有毛細胞が音を感じ取るところまでは正常にはたらくため耳音響放射は出ますが、その先の神経への伝達ができないため、聴こえません。これが「聴神経病変」と呼ばれる状態です。

症状

  • 生まれつきの重度〜最重度の難聴(両耳)
  • 耳音響放射(OAE)は正常だが、ABR(聴性脳幹反応)が出ない
  • 一部の方では、発熱時にだけ難聴が悪化する(温度感受性の聴神経病変)
  • ことばの発達の遅れ(治療をしない場合)
  • 難聴以外の症状はありません

検査・診断

OAEが正常でABRが無反応という組み合わせから聴神経病変を疑い、OTOF 遺伝子の解析によって確定します。新生児聴覚スクリーニングでOAEのみを用いている施設では見逃される可能性があるため、ことばの遅れがある場合には改めて評価が必要です。

治療

  • 人工内耳:この病気では非常に良好な効果が期待できます(蝸牛神経が保たれているため)
  • 補聴器は効果が乏しいことが多いとされます
  • ことばの発達を支える療育(言語聴覚療法)
  • 遺伝子治療:近年、OTOF関連難聴に対する遺伝子治療の臨床試験で聴力の回復が報告され、注目されています(研究段階です)
  • 発熱時に難聴が悪化する型では、発熱時の対応をあらかじめ決めておきます

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる OTOF 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、OTOF 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

キャリアスクリーニングテスト(228種類)

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます

検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。

専門的な解説

常染色体潜性難聴9型(DFNB9)は OTOF(2p23.3)の両アレル変異による。オトフェリンは内有毛細胞のリボンシナプスに局在するCa2+センサー蛋白で、シナプス小胞の開口放出を担う。

外有毛細胞の機能は保たれるためOAEは正常、しかし内有毛細胞から蝸牛神経への伝達が障害されるためABRは無反応となる。この解離が auditory neuropathy spectrum disorder(ANSD)の典型像であり、OTOFはANSDの最多の原因遺伝子である。

臨床的に重要なのは、OAEベースの新生児聴覚スクリーニングでは検出されないことである。自動ABRを併用する施設では検出されるが、OAEのみの施設では見逃されうる。ことばの遅れを主訴とする例では本症を鑑別に加える。

人工内耳は蝸牛神経を直接刺激するためOTOF関連難聴で極めて良好な成績を示す。さらに2024年前後から、AAVベクターによるOTOF遺伝子治療の第1/2相試験で聴力の実質的な回復が報告され、遺伝性難聴に対する初の治療法として注目されている。一部の変異では温度感受性難聴(発熱時にのみ聴力が低下)を呈する。

よくある質問

Q. 新生児のスクリーニングでは異常なしでした。

A. この病気では耳音響放射(OAE)が正常に出るため、OAEだけのスクリーニングでは見逃されることがあります。ことばの遅れがあれば、改めて詳しい検査をお受けください。

Q. 人工内耳は効果がありますか?

A. この病気では非常に良好な効果が期待できます。神経そのものは保たれているためです。

Q. 補聴器は効きますか?

A. 効果が乏しいことが多いとされます。人工内耳が主な選択肢になります。

Q. 熱が出ると聞こえにくくなります。

A. この病気の一部の型では、発熱時にだけ難聴が悪化することが知られています。発熱時の対応を担当の先生と決めておくと安心です。

Q. 遺伝子治療があると聞きました。

A. OTOFが原因の難聴に対する遺伝子治療の臨床試験で、聴力の回復が報告されています。まだ研究段階ですが、注目されています。

参考文献

  • Yasunaga S, Grati M, Cohen-Salmon M, et al. A mutation in OTOF, encoding otoferlin, a FER-1-like protein, causes DFNB9, a nonsyndromic form of deafness. Nat Genet. 1999;21(4):363-369.
  • Roux I, Safieddine S, Nouvian R, et al. Otoferlin, defective in a human deafness form, is essential for exocytosis at the auditory ribbon synapse. Cell. 2006;127(2):277-289.
  • Rodríguez-Ballesteros M, Reynoso R, Olarte M, et al. A multicenter study on the prevalence and spectrum of mutations in the otoferlin gene (OTOF) in subjects with nonsyndromic hearing impairment and auditory neuropathy. Hum Mutat. 2008;29(6):823-831.
  • Lv J, Wang H, Cheng X, et al. AAV1-hOTOF gene therapy for autosomal recessive deafness 9: a single-arm trial. Lancet. 2024;403(10441):2317-2325.
  • OMIM #601071 Deafness, autosomal recessive 9
医師監修 監修日:2026年9月8日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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