概要
常染色体潜性痙性対麻痺9B型は、脳から脊髄を通って足へ向かう神経の通り道(皮質脊髄路)が少しずつ傷むために、両足がつっぱって(痙性)、歩きにくくなる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ALDH18A1 遺伝子の変化が原因となります。
痙性対麻痺には80以上の原因遺伝子が知られています。足の症状だけの「純粋型」と、知的障害・末梢神経障害・視力障害などを伴う「複合型」に分けられ、常染色体潜性の型は複合型が多いとされます。
原因
ALDH18A1 遺伝子は、神経の細長い突起(軸索)が正しく保たれるために必要なたんぱく質の設計図です。
足へ向かう神経の軸索は、体のなかでもっとも長く、1メートル近くに達します。そのため、物質の輸送や膜の形づくり、脂質の代謝といったしくみがわずかに乱れるだけでも、いちばん遠い先端から傷んでいきます。これが、足から症状が始まる理由です。
ALDH18A1 は、アミノ酸(プロリンとオルニチン)を作る経路の最初の酵素です。同じ遺伝子の変化は、皮膚がたるむ病気(皮膚弛緩症)も引き起こします。
症状
- 両足のつっぱり(痙性)と、歩きにくさ:つま先歩き、はさみ足歩行
- 足の腱反射の亢進、バビンスキー徴候
- 進行すると、杖や車椅子が必要になることがあります
- 膀胱の症状(頻尿、尿意切迫、失禁)
- 足の感覚の低下(振動覚が低下しやすい)
- 複合型で伴うことのある症状:知的障害・認知機能の低下、てんかん、末梢神経障害、視神経萎縮・網膜変性、小脳失調、難聴、脳梁の菲薄化
- 上肢の症状は比較的軽いことが多い
検査・診断
両足の痙性と腱反射の亢進から疑い、頭部・脊髄のMRI(脳梁の菲薄化などの所見)と神経伝導検査を行います。ビタミンB12欠乏、脊髄の圧迫、多発性硬化症、副腎白質ジストロフィーなど、ほかの原因を除外することが大切です。原因遺伝子が80以上あるため、ALDH18A1 遺伝子を含む遺伝学的検査によって常染色体潜性痙性対麻痺9B型と確定します。
治療
- 根本的に治す方法は確立していません
- 痙縮に対する治療:バクロフェン、チザニジンなどの内服、ボツリヌス毒素の注射、重症例では髄腔内バクロフェン療法
- 理学療法(関節の拘縮を防ぎ、歩行機能を保つために重要です)
- 装具(短下肢装具など)、歩行補助具
- 膀胱の症状に対する薬物治療
- てんかんがある場合は抗てんかん薬
- 療育・教育面での支援(知的障害を伴う場合)
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ALDH18A1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ALDH18A1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
常染色体潜性痙性対麻痺9B型(SPG9B)は ALDH18A1 の両アレル変異による。遺伝性痙性対麻痺(HSP)は皮質脊髄路の遠位優位な軸索変性(dying-back degeneration)を本態とし、80を超える遺伝子座(SPG1〜)が同定されている。
責任遺伝子産物の機能は、膜の形成と輸送、脂質代謝、ミトコンドリア機能、軸索輸送、ミエリン形成など多岐にわたるが、いずれも「最も長い軸索の維持」という共通の要請に関わる。常染色体潜性型は顕性型(SPG4/SPASTなど)に比べ発症が早く、複合型(complicated form)の頻度が高い。
ALDH18A1(10q24.1)はΔ1-pyrroline-5-carboxylate synthase(P5CS)をコードし、グルタミン酸からプロリン・オルニチンを合成する経路の律速酵素である。同一遺伝子が、常染色体顕性/潜性の皮膚弛緩症(ADCL3/ARCL3、de Barsy症候群様)と、痙性対麻痺SPG9A/9Bを生じる。SPG9Bでは白内障、低身長、知的障害、末梢神経障害を伴う。血漿アミノ酸分析でプロリン・オルニチン・シトルリン・アルギニンの低値が手がかりとなる。
治療は対症療法が中心である。痙縮に対しては経口抗痙縮薬、ボツリヌス毒素、髄腔内バクロフェン療法を段階的に用いる。理学療法による拘縮予防と歩行機能の維持が、長期的なADLを大きく左右する。鑑別として、治療可能な疾患(ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、銅欠乏、HTLV-1関連脊髄症、ドパ反応性ジストニア)の除外は必須である。
よくある質問
Q. どのように進行しますか?
A. 型によって幅がありますが、多くはゆっくり進行します。理学療法を続けることで、歩ける期間を長く保つことを目指します。
Q. 足以外にも症状が出ますか?
A. 常染色体潜性の型では、知的障害や末梢神経の障害、目の症状などを伴う「複合型」が多いとされます。型によって異なります。
Q. リハビリは効果がありますか?
A. とても重要です。関節が固くなるのを防ぎ、歩く力を保つために、継続することが勧められます。
Q. なぜ遺伝子を調べるのですか?
A. 80以上の原因遺伝子があり、型によって伴う症状や経過が異なるためです。また、治療できる別の病気との区別にも役立ちます。
Q. 血液検査で分かることがありますか?
A. この型では、血液中のアミノ酸(プロリン、オルニチンなど)が低くなることがあり、診断の手がかりになります。
参考文献
- Coutelier M, Goizet C, Durr A, et al. Alteration of ornithine metabolism leads to dominant and recessive hereditary spastic paraplegia. Brain. 2015;138(Pt 8):2191-2205.
- Shribman S, Reid E, Crosby AH, et al. Hereditary spastic paraplegia: from diagnosis to emerging therapeutic approaches. Lancet Neurol. 2019;18(12):1136-1146.
- Blackstone C. Hereditary spastic paraplegia. Handb Clin Neurol. 2018;148:633-652.
- Fink JK. Hereditary Spastic Paraplegia Overview. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle.
