概要
複合型酸化的リン酸化欠損症15型は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアのはたらきが生まれつき損なわれるために、エネルギーを多く使う臓器(脳・心臓・筋肉・肝臓・腎臓)に症状が出る病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、MTFMT 遺伝子の変化が原因となります。
「複合型」とは、ミトコンドリアでエネルギーを作る5つの複合体のうち、複数がまとめてはたらかなくなるという意味です。多くはミトコンドリアが自前のたんぱく質を作るしくみ(ミトコンドリア翻訳)の異常によって起こります。
原因
MTFMT 遺伝子は、ミトコンドリアが自分自身のたんぱく質を組み立てるために必要なたんぱく質の設計図です。
ミトコンドリアは、自前のDNAから13種類のたんぱく質を作ります。これらはエネルギーを作る複合体の中心部品です。組み立ての装置に不具合があると、13種類すべてが作れなくなるため、複数の複合体が同時にはたらかなくなります。これが「複合型」と呼ばれる理由です。
MTFMT は、たんぱく質の組み立てを開始するための目印を作る酵素です。この型はリー脳症の形をとることが多く、COXPDのなかでは比較的頻度が高いとされます。
症状
- 乳児期からの発達の遅れ、退行
- 筋緊張の低下、筋力の低下
- 乳酸アシドーシス(血液や髄液の乳酸値が高い)
- 心筋症(肥大型または拡張型)
- けいれん、脳症
- 肝機能の障害
- 腎尿細管の障害(電解質の喪失)
- 難聴、視神経萎縮
- 哺乳・摂食の困難、成長の遅れ
- 症状の組み合わせと重さは、原因となる遺伝子によって大きく異なります
検査・診断
血液・髄液の乳酸値の上昇、頭部MRI(基底核や脳幹の病変、白質病変)、筋生検での呼吸鎖酵素活性の測定(複数の複合体の活性低下)から疑います。確定には遺伝学的検査が必要で、MTFMT 遺伝子の解析によって複合型酸化的リン酸化欠損症15型と確定します。
治療
- 根本的に治す方法は確立していません
- ミトコンドリアカクテル(コエンザイムQ10、L-カルニチン、ビタミンB群、リボフラビンなど)が用いられます
- 乳酸アシドーシスに対する対応(重炭酸、ジクロロ酢酸など)
- 心機能の定期的な評価と心不全の治療
- けいれんに対する抗てんかん薬(バルプロ酸は肝障害を悪化させることがあるため慎重に)
- 栄養の管理(経管栄養を含む)、理学療法
- 感染症・絶食・手術などの異化が亢進する状況を避ける
- 麻酔を受けるときは必ず病名を伝えてください
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる MTFMT 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、MTFMT 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
複合型酸化的リン酸化欠損症15型は MTFMT の両アレル変異による。ミトコンドリアDNAがコードする13のOXPHOSサブユニットの翻訳が障害されると、複合体I・III・IV・Vが同時に低下する(複合体IIは全サブユニットが核コードのため保たれる)。この「複数複合体の同時欠損」がCOXPDの生化学的定義である。
責任遺伝子はミトコンドリアのアミノアシルtRNA合成酵素(mt-aaRS)、tRNA修飾酵素、翻訳因子、リボソーム蛋白、リボソーム集合因子など、翻訳装置の各段階に分布する。興味深いことに、同じ翻訳装置の障害でありながら、遺伝子ごとに侵される臓器が大きく異なる(心臓、脳白質、腎臓、卵巣など)。この臓器特異性の機序は完全には解明されていない。
MTFMT(15q22.31)はメチオニル-tRNAホルミルトランスフェラーゼをコードし、開始tRNAのホルミル化により翻訳開始を可能にする。Leigh脳症の核遺伝子性原因として比較的頻度が高く、複合体I欠損を主体とする。c.626C>T(p.Ser209Leu)はエクソン4のスキッピングを引き起こす高頻度変異で、欧州系集団に多い。他のCOXPDより緩徐で、成人期まで生存する例もある。
治療は対症的であり、いわゆるミトコンドリアカクテルの有効性は限定的である。周術期には、プロポフォール(長時間投与でPRISのリスク)、バルプロ酸(肝毒性)、アミノグリコシド(mtDNA変異例で難聴増悪)などに注意を要する。乳酸値のみでの診断は困難で、遺伝学的検査が確定診断の中心である。
よくある質問
Q. どんな症状が出ますか?
A. 原因となる遺伝子によって大きく異なります。脳・心臓・筋肉・肝臓・腎臓など、エネルギーを多く使う臓器に症状が出やすいのが共通点です。
Q. 治療法はありますか?
A. 根本的な治療は確立していません。ビタミンなどを組み合わせた治療(ミトコンドリアカクテル)と、臓器ごとの症状に応じた治療を行います。
Q. 気をつけることはありますか?
A. 感染症、発熱、長時間の絶食、手術などで悪化することがあります。体調が悪いときは早めに受診してください。
Q. 手術や麻酔のときの注意はありますか?
A. 必ず病名をお伝えください。使用を避けたほうがよい薬(プロポフォールの長時間投与、バルプロ酸など)があります。
Q. リー脳症と言われました。
A. この型はリー脳症という形をとることが多く、核の遺伝子が原因のリー脳症のなかでは比較的頻度が高いとされています。
参考文献
- Tucker EJ, Hershman SG, Köhrer C, et al. Mutations in MTFMT underlie a human disorder of formylation causing impaired mitochondrial translation. Cell Metab. 2011;14(3):428-434.
- Boczonadi V, Horvath R. Mitochondria: impaired mitochondrial translation in human disease. Int J Biochem Cell Biol. 2014;48:77-84.
- Gorman GS, Chinnery PF, DiMauro S, et al. Mitochondrial diseases. Nat Rev Dis Primers. 2016;2:16080.
- Rahman S, Thorburn D. Nuclear Gene-Encoded Leigh Syndrome Spectrum Overview. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle.
