概要
複合型酸化的リン酸化欠損症17型は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアのはたらきが生まれつき損なわれるために、エネルギーを多く使う臓器(脳・心臓・筋肉・肝臓・腎臓)に症状が出る病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ELAC2 遺伝子の変化が原因となります。
「複合型」とは、ミトコンドリアでエネルギーを作る5つの複合体のうち、複数がまとめてはたらかなくなるという意味です。多くはミトコンドリアが自前のたんぱく質を作るしくみ(ミトコンドリア翻訳)の異常によって起こります。
原因
ELAC2 遺伝子は、ミトコンドリアが自分自身のたんぱく質を組み立てるために必要なたんぱく質の設計図です。
ミトコンドリアは、自前のDNAから13種類のたんぱく質を作ります。これらはエネルギーを作る複合体の中心部品です。組み立ての装置に不具合があると、13種類すべてが作れなくなるため、複数の複合体が同時にはたらかなくなります。これが「複合型」と呼ばれる理由です。
ELAC2 は、ミトコンドリアのRNAを正しい長さに切り出す酵素です。この型では、乳児期の重い肥大型心筋症が中心の症状です。
症状
- 乳児期からの発達の遅れ、退行
- 筋緊張の低下、筋力の低下
- 乳酸アシドーシス(血液や髄液の乳酸値が高い)
- 心筋症(肥大型または拡張型)
- けいれん、脳症
- 肝機能の障害
- 腎尿細管の障害(電解質の喪失)
- 難聴、視神経萎縮
- 哺乳・摂食の困難、成長の遅れ
- 症状の組み合わせと重さは、原因となる遺伝子によって大きく異なります
検査・診断
血液・髄液の乳酸値の上昇、頭部MRI(基底核や脳幹の病変、白質病変)、筋生検での呼吸鎖酵素活性の測定(複数の複合体の活性低下)から疑います。確定には遺伝学的検査が必要で、ELAC2 遺伝子の解析によって複合型酸化的リン酸化欠損症17型と確定します。
治療
- 根本的に治す方法は確立していません
- ミトコンドリアカクテル(コエンザイムQ10、L-カルニチン、ビタミンB群、リボフラビンなど)が用いられます
- 乳酸アシドーシスに対する対応(重炭酸、ジクロロ酢酸など)
- 心機能の定期的な評価と心不全の治療
- けいれんに対する抗てんかん薬(バルプロ酸は肝障害を悪化させることがあるため慎重に)
- 栄養の管理(経管栄養を含む)、理学療法
- 感染症・絶食・手術などの異化が亢進する状況を避ける
- 麻酔を受けるときは必ず病名を伝えてください
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ELAC2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ELAC2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
複合型酸化的リン酸化欠損症17型は ELAC2 の両アレル変異による。ミトコンドリアDNAがコードする13のOXPHOSサブユニットの翻訳が障害されると、複合体I・III・IV・Vが同時に低下する(複合体IIは全サブユニットが核コードのため保たれる)。この「複数複合体の同時欠損」がCOXPDの生化学的定義である。
責任遺伝子はミトコンドリアのアミノアシルtRNA合成酵素(mt-aaRS)、tRNA修飾酵素、翻訳因子、リボソーム蛋白、リボソーム集合因子など、翻訳装置の各段階に分布する。興味深いことに、同じ翻訳装置の障害でありながら、遺伝子ごとに侵される臓器が大きく異なる(心臓、脳白質、腎臓、卵巣など)。この臓器特異性の機序は完全には解明されていない。
ELAC2(17p12)はRNase Z活性を持ち、mt-tRNAの3’末端プロセシングを担う。臨床像は乳児期発症の重篤な肥大型心筋症と乳酸アシドーシスで、多くは1歳未満で死亡する。より軽症の複合型(発達遅滞、筋緊張低下)も報告されている。なお本遺伝子は前立腺がん感受性遺伝子HPC2としても知られる。
治療は対症的であり、いわゆるミトコンドリアカクテルの有効性は限定的である。周術期には、プロポフォール(長時間投与でPRISのリスク)、バルプロ酸(肝毒性)、アミノグリコシド(mtDNA変異例で難聴増悪)などに注意を要する。乳酸値のみでの診断は困難で、遺伝学的検査が確定診断の中心である。
よくある質問
Q. どんな症状が出ますか?
A. 原因となる遺伝子によって大きく異なります。脳・心臓・筋肉・肝臓・腎臓など、エネルギーを多く使う臓器に症状が出やすいのが共通点です。
Q. 治療法はありますか?
A. 根本的な治療は確立していません。ビタミンなどを組み合わせた治療(ミトコンドリアカクテル)と、臓器ごとの症状に応じた治療を行います。
Q. 気をつけることはありますか?
A. 感染症、発熱、長時間の絶食、手術などで悪化することがあります。体調が悪いときは早めに受診してください。
Q. 手術や麻酔のときの注意はありますか?
A. 必ず病名をお伝えください。使用を避けたほうがよい薬(プロポフォールの長時間投与、バルプロ酸など)があります。
Q. 心臓の症状が重いと聞きました。
A. この型では、乳児期から重い肥大型心筋症をきたすことが多いと報告されています。早期からの心機能の評価が重要です。
参考文献
- Haack TB, Kopajtich R, Freisinger P, et al. ELAC2 mutations cause a mitochondrial RNA processing defect associated with hypertrophic cardiomyopathy. Am J Hum Genet. 2013;93(2):211-223.
- Boczonadi V, Horvath R. Mitochondria: impaired mitochondrial translation in human disease. Int J Biochem Cell Biol. 2014;48:77-84.
- Gorman GS, Chinnery PF, DiMauro S, et al. Mitochondrial diseases. Nat Rev Dis Primers. 2016;2:16080.
- Rahman S, Thorburn D. Nuclear Gene-Encoded Leigh Syndrome Spectrum Overview. In: GeneReviews®. University of Washington, Seattle.
