概要
早期乳児てんかん性脳症37型は、乳児期の早い時期から治療に抵抗するけいれんが現れ、それによって発達が損なわれていく病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、FRRS1L 遺伝子の変化が原因となります。
現在は「発達性てんかん性脳症(DEE)」と呼ばれます。これは、発作そのものが発達を妨げるだけでなく、原因となる遺伝子の変化自体も発達に影響していることが分かってきたためです。原因遺伝子は100以上が知られており、遺伝子によって効く薬・避けるべき薬が違うため、原因を調べることが治療に直結します。
原因
FRRS1L 遺伝子は、神経細胞が正しく信号をやりとりするために必要なたんぱく質の設計図です。
FRRS1L は、神経細胞の表面で信号を受け取る装置(AMPA型グルタミン酸受容体)を正しい場所へ運ぶためのたんぱく質です。
症状
- 乳児期からのけいれん(多くは生後1年以内、型によっては新生児期から)
- 薬が効きにくい(難治性)
- 発達の遅れ、または獲得した能力の退行
- 脳波の異常(サプレッションバースト、ヒプスアリスミアなど)
- 筋緊張の異常(低下または硬直)
- いったん獲得した能力の退行、不随意運動(舞踏運動・ジストニア)
- 摂食の困難、成長の遅れ
- ※発作の型と脳波の所見は、原因となる遺伝子によって異なります
検査・診断
脳波検査(発作時・発作間欠期)と頭部MRIを行い、代謝性疾患・感染症・脳の構造異常などを除外します。原因不明の乳児てんかんでは、早い段階での遺伝学的検査(てんかんパネルまたはエクソーム解析)が推奨されます。FRRS1L 遺伝子の解析によって早期乳児てんかん性脳症37型と確定します。
治療
- 抗てんかん薬:発作の型と原因遺伝子に応じて選びます
- 発作の型に応じた薬の調整(複数の薬を組み合わせることが多くなります)
- ケトン食療法が有効なことがあります
- 迷走神経刺激療法、てんかん外科(適応がある場合)
- 早期からの療育(理学療法・作業療法・言語療法)
- 栄養の管理(経管栄養を含む)、呼吸の管理
- ご家族への支援と、次のお子さまについての遺伝カウンセリング
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる FRRS1L 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、FRRS1L 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
早期乳児てんかん性脳症37型は FRRS1L の両アレル変異による発達性てんかん性脳症(developmental and epileptic encephalopathy, DEE)である。DEEはILAEにより、「てんかん性活動そのものによる発達障害(epileptic encephalopathy)」と「基礎疾患による発達障害(developmental encephalopathy)」の双方が寄与する病態と定義される。
FRRS1L(9q31.3)はAMPA受容体の内因性補助サブユニット(GSG1L/CNIHファミリーと同様の役割)で、受容体の生合成と輸送を制御する。欠損により興奮性シナプス伝達が破綻する。臨床像は、生後1年以内の発達退行と難治性てんかんに加え、舞踏運動・ジストニアといった不随意運動が前景に立つ点が特徴で、「てんかん+運動異常症」の組み合わせで想起すべき遺伝子である。
DEE全般において、原因遺伝子の同定は治療選択に直結する。代表例として、SCN1A(Dravet症候群)ではナトリウムチャネル遮断薬が禁忌、SCN2A/SCN8Aの機能獲得型では逆に有効、KCNQ2ではカルバマゼピン等が有効、ALDH7A1(ピリドキシン依存性てんかん)ではピリドキシンが必須、GLUT1欠損症ではケトン食が第一選択、といった精密医療(precision medicine)が実践されている。
したがって、原因不明の乳児発症てんかんでは、早期の遺伝学的検査が推奨される。遺伝子が判明しない場合でも、代謝性疾患(とくに治療可能なもの)の除外は必須である。
よくある質問
Q. 発作は薬で止まりますか?
A. 治療に抵抗することが多い病気ですが、原因となる遺伝子によっては特に効きやすい薬があります。だからこそ、原因を調べることが大切です。
Q. なぜ遺伝子を調べるのですか?
A. 遺伝子によって、効く薬と避けるべき薬が違うためです。早く原因が分かることで、より適した治療を選べます。
Q. 発達はどうなりますか?
A. 発作が発達を妨げるだけでなく、遺伝子の変化自体も発達に影響します。発作を抑えることと、早期からの療育の両方が大切です。
Q. ケトン食は効きますか?
A. 有効なことがあります。原因や発作の型によって適応が異なりますので、担当の先生とご相談ください。
Q. できていたことができなくなりました。
A. この型では、いったん獲得した能力を失う「退行」がみられることが特徴です。不随意な動きを伴うこともあります。
参考文献
- Madeo M, Stewart M, Sun Y, et al. Loss-of-Function Mutations in FRRS1L Lead to an Epileptic-Dyskinetic Encephalopathy. Am J Hum Genet. 2016;98(6):1249-1255.
- Scheffer IE, Berkovic S, Capovilla G, et al. ILAE classification of the epilepsies: Position paper of the ILAE Commission for Classification and Terminology. Epilepsia. 2017;58(4):512-521.
- Specchio N, Wirrell EC, Scheffer IE, et al. International League Against Epilepsy classification and definition of epilepsy syndromes with onset in childhood. Epilepsia. 2022;63(6):1398-1442.
- Happ HC, Carvill GL. A 2020 View on the Genetics of Developmental and Epileptic Encephalopathies. Epilepsy Curr. 2020;20(2):90-96.
