概要
低髄鞘化白質ジストロフィー12型は、神経の線維を包む「髄鞘(ミエリン)」が十分に作られないために、運動や知的な発達がゆっくりになり、体のつっぱりやふらつきが現れる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、VPS11 遺伝子の変化が原因となります。
髄鞘は神経の信号を速く伝えるための「電線の被覆」にあたります。「低髄鞘化」は、いったんできた髄鞘が壊れるのではなく、はじめから十分に作られない状態を指し、頭部MRIで判断します。原因遺伝子は20以上が知られています。
原因
VPS11 遺伝子は、髄鞘を作る細胞(オリゴデンドロサイト)がはたらくために必要なたんぱく質の設計図です。
VPS11 は、細胞のなかで袋(エンドソーム・リソソーム)どうしを融合させる複合体の部品です。物質の分解と再利用に関わっています。
症状
- 乳児期からの運動発達の遅れ(首すわり、おすわり、歩行の遅れ)
- 眼振(目が細かくゆれる):早期からみられることが多い
- 筋緊張の異常(はじめは低下、のちに痙性=つっぱり)
- 歩行のふらつき(小脳失調)
- 知的な発達の遅れ(程度には幅があります)
- けいれん、著しい発達の遅れ、進行性の経過
- けいれんを伴うことがある
- 頭部MRIで、髄鞘化が年齢相応に進んでいない
検査・診断
頭部MRIが診断の中心です。低髄鞘化は「T2強調画像で白質が軽度高信号、T1強調画像で等〜軽度高信号」という所見で、1歳以降に2回撮影して髄鞘化が進んでいないことを確認します。原因遺伝子が20以上あるため、VPS11 遺伝子を含む遺伝学的検査によって低髄鞘化白質ジストロフィー12型と確定します。
治療
- 根本的に治す方法は確立していません
- 理学療法・作業療法(関節の拘縮を防ぎ、運動機能を保つために重要です)
- 痙縮に対する治療(内服、ボツリヌス毒素、髄腔内バクロフェン)
- 装具、歩行補助具、車椅子
- けいれんがある場合は抗てんかん薬
- 脊柱側弯に対する定期的な評価
- 栄養の管理(嚥下障害がある場合は経管栄養)
- 療育・教育面での支援、コミュニケーションの支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる VPS11 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、VPS11 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
低髄鞘化白質ジストロフィー12型は VPS11 の両アレル変異による。低髄鞘化白質ジストロフィー(hypomyelinating leukodystrophy, HLD)は、「髄鞘の形成不全(hypomyelination)」と「脱髄(demyelination)」を区別する概念で、前者はMRIでT2高信号が軽度にとどまり、T1が等〜高信号を示す点で後者と異なる。
VPS11(11q23.3)はHOPS複合体およびCORVET複合体の中心サブユニットで、エンドソーム・リソソームの膜融合を制御する。欠損によりオートファジー・リソソーム系が破綻し、髄鞘形成が障害される。アシュケナージ系ユダヤ人集団の創始者変異(p.Cys846Gly)により多数例が報告されている。乳児期発症、重度発達遅滞、てんかん、進行性の運動障害を呈する。
HLDの鑑別では、MRIの所見に加えて、髄外症状(歯、性腺、白内障、末梢神経、難聴など)が原因遺伝子の推定に有用である。たとえばPOLR3関連では歯と性腺、HLD5(HYCC1)では先天性白内障、HLD9(RARS1)では単独の低髄鞘化が手がかりとなる。
治療は対症的であり、理学療法による拘縮予防、痙縮管理、側弯と呼吸機能のサーベイランスが長期のADLを左右する。診断確定は、家族計画のための遺伝カウンセリングと、進行性白質脳症(治療可能なものを含む)との鑑別の両面で重要である。
よくある質問
Q. 「低髄鞘化」とはどういう意味ですか?
A. 神経を包む被覆(髄鞘)が、いったんできてから壊れるのではなく、はじめから十分に作られない状態です。MRIで判断します。
Q. 進行しますか?
A. 型によって幅があります。多くはゆっくりで、進行しないか、ごくゆっくり進む経過をとります。
Q. リハビリは効果がありますか?
A. とても重要です。関節が固くなるのを防ぎ、できる動作を保つために、継続することが勧められます。
Q. なぜ遺伝子を調べるのですか?
A. 20以上の原因遺伝子があり、型によって伴う症状(歯、目、ホルモンなど)や経過が異なるためです。治療できる別の病気との区別にも役立ちます。
Q. 特定の集団に多いと聞きました。
A. この型は、アシュケナージ系ユダヤ人の集団で創始者変異として多く報告されています。
参考文献
- Zhang J, Lachance V, Schaffner A, et al. A Founder Mutation in VPS11 Causes an Autosomal Recessive Leukoencephalopathy Linked to Autophagic Defects. PLoS Genet. 2016;12(4):e1005848.
- Schiffmann R, van der Knaap MS. Invited article: an MRI-based approach to the diagnosis of white matter disorders. Neurology. 2009;72(8):750-759.
- Pouwels PJ, Vanderver A, Bernard G, et al. Hypomyelinating leukodystrophies: translational research progress and prospects. Ann Neurol. 2014;76(1):5-19.
- Charzewska A, Wierzba J, Iżycka-Świeszewska E, et al. Hypomyelinating leukodystrophies – a molecular insight into the white matter pathology. Clin Genet. 2016;90(4):293-304.
