概要
短肋骨胸郭異形成症9型(多指症を伴う場合と伴わない場合)は、肋骨が短いために胸郭(胸のかご)が狭くなり、肺が十分に育たないために、生まれたあとの呼吸に大きな影響が出る骨系統疾患です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、IFT140 遺伝子の変化が原因となります。
手足の骨も短く、多指症(指が多い)を伴う場合と伴わない場合があります。以前は「窒息性胸郭異形成症(ジューヌ症候群)」「短肋骨多指症候群」などと別々に呼ばれていましたが、いずれも繊毛のはたらきの異常による連続した病気と分かり、現在はまとめて短肋骨胸郭異形成症と呼ばれます。
原因
IFT140 遺伝子は、細胞の表面にある「一次繊毛」という小さなアンテナのなかで、材料を運ぶしくみに関わるたんぱく質の設計図です。
骨が伸びる部分(成長板)の細胞は、一次繊毛を通じて「どこまで伸びるか」という信号(ヘッジホッグ信号)を受け取っています。この運搬がうまくいかないと信号が乱れ、骨の伸びが止まって肋骨や手足が短くなります。
IFT140 は、繊毛の「帰り」の輸送(IFT-A複合体)の中心的な部品です。この遺伝子は、骨の症状を伴わずに、目や腎臓だけの病気を起こすこともあります。
症状
- 狭く細長い胸郭(鐘のような形)と短い肋骨
- 生まれたあとの呼吸障害:この病気の予後を決める最も重要な症状です
- 手足の骨が短い(四肢短縮)、指が短い
- 多指症(伴う場合と伴わない場合があります)
- 骨盤の特徴的な形(三叉状寛骨臼)
- 網膜の変性(レーバー先天黒内障・網膜色素変性)や腎臓の病気が主体になることがある
- 腎臓の病気(腎癆、嚢胞腎):学童期以降に現れることがあります
- 肝臓の線維化、網膜の変性
検査・診断
妊娠中の超音波検査で、胸郭が狭い・四肢が短いことから疑われることがあります。出生後はX線検査で、短い肋骨・狭い胸郭・骨盤の特徴的な形を確認します。原因遺伝子が20以上あるため、IFT140 遺伝子を含む遺伝学的検査によって短肋骨胸郭異形成症9型(多指症を伴う場合と伴わない場合)と確定します。
治療
- 呼吸の管理がもっとも重要です:酸素投与、人工呼吸器、気管切開が必要になることがあります
- 胸郭を広げる手術(胸郭拡張術、VEPTRなど)が検討されることがあります
- 感染症(とくに気道感染)の予防と早期治療
- 腎機能の定期的な確認(学童期以降に腎不全が現れることがあります)
- 肝機能、眼科(網膜)の定期的な評価
- 多指症に対する整形外科的な治療
- 栄養の管理、理学療法
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる IFT140 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、IFT140 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
短肋骨胸郭異形成症9型(多指症を伴う場合と伴わない場合)は IFT140 の両アレル変異による。短肋骨胸郭異形成症(short-rib thoracic dysplasia, SRTD)は、繊毛内輸送(intraflagellar transport, IFT)の障害による骨系統繊毛病(skeletal ciliopathy)である。
IFTは、繊毛の先端方向へ運ぶIFT-B複合体+キネシン2と、基部方向へ戻すIFT-A複合体+細胞質ダイニン2から成る。成長板軟骨細胞では、この輸送を介したヘッジホッグ(Ihh)シグナルの制御が内軟骨性骨化を規定するため、その破綻が肋骨・四肢の短縮をもたらす。
IFT140(16p13.3)はIFT-A複合体の中核サブユニットである。表現型の幅がきわめて広く、(1) SRTD9(Mainzer-Saldino症候群:骨端の錐体様変化+腎癆+網膜変性)、(2) 非症候性の網膜変性(レーバー先天黒内障、網膜色素変性)、(3) ヘテロ接合性変異による常染色体顕性多発性嚢胞腎(ADPKD)まで生じる。近年、IFT140はADPKDの新規原因遺伝子として注目されている。
臨床的には、従来の Jeune 症候群(窒息性胸郭異形成症)、短肋骨多指症候群(Saldino-Noonan、Majewski、Verma-Naumoff、Beemer-Langer型)、Ellis-van Creveld症候群、Sensenbrenner症候群(頭蓋外胚葉異形成症)は、同一のIFT経路上にある連続した疾患群として理解される。同じ遺伝子が、変異の重症度に応じて周産期致死型から成人期の腎障害単独まで生じうる。予後を規定するのは新生児期の呼吸障害であり、これを乗り切った症例では学童期以降の腎不全が問題となるため、長期の腎機能サーベイランスが必須である。
よくある質問
Q. 生まれたあと、呼吸は大丈夫でしょうか?
A. 胸郭が狭いため、呼吸の管理がもっとも重要になります。出生前に診断がついている場合は、呼吸の準備ができる施設での分娩をおすすめします。
Q. 胸郭を広げる手術はありますか?
A. 胸郭拡張術という方法があり、検討されることがあります。適応と時期は、呼吸の状態と成長に応じて判断します。
Q. 腎臓の検査はなぜ必要ですか?
A. この病気では、学童期以降に腎臓のはたらきが低下することがあります。呼吸の問題を乗り越えたあとに大切になるため、定期的な確認が必要です。
Q. 指が多いことがありますか?
A. 型と個人によって、多指症を伴う場合と伴わない場合があります。必要に応じて整形外科で対応します。
Q. 目や腎臓だけの症状のこともあるのですか?
A. はい。この遺伝子の変化は、骨の症状を伴わず、網膜の変性や腎臓の病気だけを起こすこともあります。
参考文献
- Perrault I, Saunier S, Hanein S, et al. Mainzer-Saldino syndrome is a ciliopathy caused by IFT140 mutations. Am J Hum Genet. 2012;90(5):864-870.
- Huber C, Cormier-Daire V. Ciliary disorder of the skeleton. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2012;160C(3):165-174.
- Schmidts M. Clinical genetics and pathobiology of ciliary chondrodysplasias. J Pediatr Genet. 2014;3(2):46-94.
- Zhang W, Taylor SP, Nevarez L, et al. IFT52 mutations destabilize anterograde complex assembly, disrupt ciliogenesis and result in short rib polydactyly syndrome. Hum Mol Genet. 2016;25(18):4012-4020.
