概要
ミトコンドリア複合体I欠損症 核型21は、細胞のなかでエネルギーをつくる装置「ミトコンドリア」のうち、電子伝達系の入口にあたる「複合体I」がうまくはたらかなくなる病気です。核の遺伝子である NUBPL(14q12)の変化が原因で起こります。
複合体Iは、電子伝達系の5つの装置のなかで最も大きく、最も故障の多い装置です。ここが動かないと細胞はエネルギーを十分につくれず、脳・心臓・筋肉・肝臓など、エネルギーを大量に使う臓器から症状が出ます。なかでも脳幹や基底核が対称的に侵される「リー脳症(リー症候群)」という形をとることが多く知られています。
ミトコンドリア複合体I欠損症 核型21では、他の型と異なり、乳児期を過ぎてから、歩行のふらつき(失調)や筋力低下で気づかれることが多い型です。頭部MRIで小脳と脳梁の特徴的な変化を示すことが知られています。
原因
NUBPL(IND1)は、複合体Iのなかで電子を受け渡す「鉄と硫黄でできた部品」を運び込む役割をもつたんぱく質です。
複合体Iは45個もの部品が組み合わさった巨大な装置で、そのうち14個が中心となる「コア」、残りが安定化などを担う「付属部品」です。さらに、組み立てそのものを手伝う「アセンブリ因子」と呼ばれるたんぱく質も必要です。NUBPL はこのうち鉄硫黄クラスター輸送因子にあたります。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 発達の遅れ、いったん獲得した能力が失われる(退行)
- 筋緊張の低下(体がやわらかい)、のちに手足のつっぱり
- 哺乳の不良、体重が増えない
- 眼球運動の異常(眼振)、視神経の萎縮
- 呼吸のリズムの乱れ、無呼吸:脳幹が侵されたときにみられます
- けいれん、失調(ふらつき)
- 血液・髄液で乳酸が高くなる
- 肥大型心筋症、肝機能の障害、腎尿細管の障害(型により異なります)
発熱や下痢、絶食などをきっかけに急に悪化すること(代謝クリーゼ)があります。感染症の予防と、体調をくずしたときの早めの受診が大切です。
検査・診断
血液・髄液の乳酸とピルビン酸、頭部MRI(基底核や脳幹の対称性病変、MRスペクトロスコピーでの乳酸ピーク)で疑います。確定診断は遺伝学的検査で行い、ミトコンドリア複合体I欠損症 核型21では NUBPL 遺伝子に両アレル性(父方・母方の両方)の変化が見つかります。必要に応じて、筋や皮膚の細胞を用いた酵素活性の測定を行います。
治療
現時点で、原因そのものを治す治療は確立していません。症状をやわらげ、急な悪化を防ぐことが治療の中心になります。
- 代謝クリーゼの予防:長時間の絶食を避け、発熱時は早めに受診します
- ビタミン・補酵素の補充(リボフラビン、チアミン、補酵素Q10、L-カルニチンなど)が試みられます
- けいれん、心不全、栄養、呼吸に対する対症療法とリハビリテーション
- バルプロ酸やアミノグリコシド系抗菌薬など、ミトコンドリアに負担をかける薬に注意が必要です。受診時は必ず病名をお伝えください
- 重症例では緩和ケアを含めた多職種での支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる NUBPL 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、NUBPL 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
複合体I(NADH:ユビキノン酸化還元酵素)は45サブユニットからなるL字型のホロ酵素で、7サブユニット(ND1-ND6、ND4L)はミトコンドリアDNA、残る38サブユニットは核DNAにコードされる。N加群でNADHから電子を受け取り、Q加群を経てユビキノンへ渡すとともに、膜アーム(ND加群・P加群)で4個のプロトンを膜間腔へ汲み出す。核ゲノム型複合体I欠損症は、コアサブユニット・付属サブユニット・アセンブリ因子のいずれの異常でも生じ、現在30以上の病型(nuclear type)が登録されている。
NUBPL(IND1、14q12)はP-loop NTPaseファミリーに属し、複合体IのN加群・Q加群への[4Fe-4S]クラスター挿入を担う。臨床的には基底核優位のリー脳症とは異なり、小脳(歯状核・皮質)と脳梁膨大部の異常信号、白質病変を特徴とするミトコンドリア失調症を呈し、緩徐進行性で成人期まで歩行が保たれる例もある。頻度の高いc.815-27T>C(分岐点変異)はしばしば大きな欠失を伴う複合ヘテロ接合として同定される。
鑑別としては、ミトコンドリアDNA上のND遺伝子変異によるリー脳症・MELAS・LHON、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症、複合体IV欠損症、ビオチン・チアミン反応性基底核症(SLC19A3)などが挙がる。ビオチン・チアミン反応性基底核症は治療反応性があるため、リー脳症様の画像所見をみたら必ず除外する。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. 複合体I欠損症は、ミトコンドリア病のなかでは最も多い型のひとつで、小児のミトコンドリア病のおよそ3分の1を占めるとされます。ただし、そのなかで個々の遺伝子による型はそれぞれ非常にまれです。
Q. 上の子は元気です。次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。上のお子さまが元気であっても、次のお子さまの確率は変わりません。
Q. リー脳症とは何ですか。
A. 脳の深い部分(基底核)や脳幹が左右対称に侵される状態をまとめた呼び方で、原因となる遺伝子は75種類以上あります。この病気は、そのなかで複合体Iの異常によって起こるものです。
Q. リー脳症とは違うのですか。
A. この型は、基底核を中心とするリー脳症とは異なり、小脳の症状(ふらつき)が前面に出ることが多い型です。頭部MRIの所見も特徴的で、診断の手がかりになります。
Q. 日常生活で気をつけることはありますか。
A. 長い時間の絶食を避けること、発熱や下痢のときに早めに受診することが大切です。予防接種は主治医と相談のうえ、体調のよいときに受けることが勧められます。
参考文献
- Rodenburg RJ. Mitochondrial complex I-linked disease. Biochim Biophys Acta. 2016;1857(7):938-945.
- Fiedorczuk K, Sazanov LA. Mammalian mitochondrial complex I structure and disease-causing mutations. Trends Cell Biol. 2018;28(10):835-867.
- Lake NJ, Compton AG, Rahman S, Thorburn DR. Leigh syndrome: one disorder, more than 75 monogenic causes. Ann Neurol. 2016;79(2):190-203.
- Kevelam SH, Rodenburg RJ, Wolf NI, et al. NUBPL mutations in patients with complex I deficiency and a distinct MRI pattern. Neurology. 2013;80(17):1577-1583.
