概要
ミトコンドリアDNA枯渇症候群11型は、細胞のなかでエネルギーをつくる「ミトコンドリア」がもつ独自のDNA(ミトコンドリアDNA)の量が著しく減ってしまうことで、臓器のはたらきが低下する病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、MGME1(20p11.23)遺伝子の変化が原因となります。
ミトコンドリアDNAには、エネルギーをつくる装置の部品の設計図が書かれています。この設計図の「部数」が足りなくなると、装置そのものを十分につくれません。どの臓器でDNAが減るかによって症状が変わり、ミトコンドリアDNA枯渇症候群11型は眼と筋肉を中心に、成人になってから症状が出る型に分類されます。
ミトコンドリアDNA枯渇症候群11型では、他の型と異なり、思春期以降から成人期に発症することが多い型です。まぶたが下がる、眼を動かしにくい(進行性外眼筋麻痺)、著しいやせ、筋力低下、歩行のふらつき、呼吸の筋力低下がみられます。
原因
MGME1 は、ミトコンドリアDNAを複製するときに不要になった一本鎖の端を切りそろえる酵素(エキソヌクレアーゼ)です。
ミトコンドリアDNAは、細胞の核にあるDNAとは別に、ミトコンドリアのなかで独自に複製されています。その複製には、①材料(デオキシヌクレオチド)を十分に用意することと、②複製する装置が正しくはたらくことの両方が必要です。このどちらかがうまくいかないと、ミトコンドリアDNAの数が減っていきます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 筋緊張の低下、進行する筋力低下
- 血液中の乳酸が高くなる(乳酸アシドーシス)
- 哺乳の不良、体重が増えない
- 発達の遅れ、けいれん
- 肝臓のはたらきの低下(肝脳型で目立ちます)
- 眼球運動の異常、まぶたが下がる(眼瞼下垂)
- 感音難聴
- 呼吸の筋力低下:経過とともに問題になります
- 腎尿細管の障害(型により異なります)
発熱、下痢、絶食などをきっかけに急に悪化すること(代謝クリーゼ)があります。感染症の予防と、体調をくずしたときの早めの受診が大切です。
検査・診断
血液・髄液の乳酸、肝機能、CK(クレアチンキナーゼ)、尿中有機酸分析、血中アシルカルニチン分析で疑います。筋肉や肝臓の組織でミトコンドリアDNAのコピー数を測定し、同年齢の基準値に対して著しく減っていることを確認します。確定診断は遺伝学的検査で行い、ミトコンドリアDNA枯渇症候群11型では MGME1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。
治療
現時点で、原因そのものを治す治療は確立していません。症状をやわらげ、急な悪化を防ぐことが治療の中心になります。
- 代謝クリーゼの予防:長時間の絶食を避け、発熱時は早めに受診します
- ビタミン・補酵素の補充(リボフラビン、チアミン、補酵素Q10、L-カルニチンなど)
- 肝不全、心不全、てんかん、栄養、呼吸に対する対症療法
- バルプロ酸はミトコンドリア病で肝障害を悪化させることがあり、アミノグリコシド系抗菌薬は難聴を悪化させることがあります。受診時は必ず病名をお伝えください
- リハビリテーションと、多職種による生活の支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる MGME1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、MGME1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
ミトコンドリアDNA枯渇症候群(MDS)は、組織中のmtDNAコピー数が対照の30%未満に低下する常染色体潜性のmtDNA維持異常症群である。病態は大きく、①ミトコンドリア内デオキシヌクレオチドプール(dNTP)の不均衡(TK2、DGUOK、RRM2B、SUCLA2、SUCLG1、TYMP)と、②レプリソーム機能の異常(POLG、TWNK、MGME1、DNA2)に分けられ、FBXL4のようにミトコンドリア動態の異常を介するものも含まれる。臨床型は筋型、脳筋型、肝脳型、神経消化管型(MNGIE)に大別される。
MGME1(旧C20orf72、20p11.23)はDDXBHファミリーの一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼで、mtDNA複製中に生じる7Sフラグメントの処理とDループの成熟に関与する。欠損するとmtDNAの枯渇と多重欠失が同時に生じる点が特徴で、筋生検ではラギッドレッド線維とCOX陰性線維を認める。臨床像は進行性外眼筋麻痺、重度の悪液質様のやせ、脊椎後弯、呼吸筋障害を特徴とし、栄養管理と呼吸管理が予後を左右する。
鑑別としては、POLG関連疾患(Alpers-Huttenlocher症候群)、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症、呼吸鎖複合体の単独欠損、有機酸血症・脂肪酸代謝異常症が挙がる。mtDNAコピー数の測定は組織依存性が高く、血液で正常でも筋・肝で著減していることがあるため、臨床的に疑わしければ罹患組織での評価を検討する。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. ミトコンドリアDNA枯渇症候群全体でも非常にまれで、出生10万人あたり数人以下と考えられています。そのなかで個々の遺伝子による型は、さらにまれです。
Q. ミトコンドリア病は母親から遺伝すると聞きました。
A. ミトコンドリアDNAそのものの変化による病気は、お母さまから受け継がれます。しかしこの病気は、ミトコンドリアDNAを維持するための「核」の遺伝子の変化が原因で、お父さま・お母さまの両方から受け継ぐ常染色体潜性遺伝です。ここが大きく異なります。
Q. 体調をくずしたとき、どうすればよいですか。
A. 発熱や下痢で食事がとれないときは、早めに受診してください。点滴でブドウ糖と水分を補うことで、急な悪化を防げることがあります。かかりつけ医に病名と注意点を書いた情報提供書を用意しておくと安心です。
Q. 体重が減っていくのが心配です。
A. この型では著しいやせを伴うことが知られています。栄養の評価を定期的に行い、必要に応じて栄養補助や経管栄養を検討します。管理栄養士を含めた支援をおすすめします。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。正確な見通しは遺伝カウンセリングでご確認ください。
参考文献
- El-Hattab AW, Craigen WJ, Scaglia F. Mitochondrial DNA maintenance defects. Biochim Biophys Acta Mol Basis Dis. 2017;1863(6):1539-1555.
- Viscomi C, Zeviani M. MtDNA-maintenance defects: syndromes and genes. J Inherit Metab Dis. 2017;40(4):587-599.
- Rahman S, Copeland WC. POLG-related disorders and their neurological manifestations. Nat Rev Neurol. 2019;15(1):40-52.
- Kornblum C, Nicholls TJ, Haack TB, et al. Loss-of-function mutations in MGME1 impair mtDNA replication and cause multisystemic mitochondrial disease. Nat Genet. 2013;45(2):214-219.
