概要
常染色体潜性脊髄小脳失調症13型は、脳のうしろにあって体の動きをなめらかに調節する「小脳」のはたらきが低下することで、ふらつきや話しにくさが現れる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、GRM1(6q24.3)遺伝子の変化が原因となります。
遺伝性の運動失調症には、親から子へ受け継がれる常染色体顕性(優性)のものと、ご両親がキャリアであることで起こる常染色体潜性(劣性)のものがあります。潜性のタイプは、家族に同じ症状の方がいないことが多く、発症年齢も若い傾向があります。
常染色体潜性脊髄小脳失調症13型では、乳幼児期から症状が現れる型です。首のすわりや歩行の遅れ、体幹のふらつき、眼球運動の異常がみられ、知的発達の遅れを伴います。進行しない、あるいは進行がごくゆるやかであることが特徴です。
原因
GRM1 は、小脳のプルキンエ細胞という神経細胞の表面にあるグルタミン酸の受け皿(代謝型グルタミン酸受容体1)です。運動の学習に欠かせないはたらきをします。
小脳は、目・耳(平衡感覚)・筋肉からの情報を集めて、「どのくらいの力で、どの向きに、どの速さで動くか」を細かく調整する器官です。ここがうまくはたらかないと、動き自体はできても正確さが失われ、ふらつき・ろれつが回らない・手元が狂うといった症状が現れます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 歩行のふらつき(体幹失調):足を広げて歩く、まっすぐ歩けない
- 話しにくさ(構音障害):ろれつが回らない、途切れがちに話す
- 手先の不器用さ、字が書きにくい(四肢失調)
- 眼球運動の異常:眼振、目で物を追うときのぎこちなさ
- 飲み込みにくさ(嚥下障害)
- 腱反射の異常、末梢神経の障害を伴うことがあります
- 型によって、知的障害・てんかん・視神経の萎縮・性腺機能の低下などを伴います
検査・診断
頭部MRIで小脳(とくに虫部)の萎縮を確認します。神経伝導検査、眼科的評価、必要に応じて筋電図を行います。治療できる原因を見落とさないことが重要で、ビタミンE欠乏症、脳腱黄色腫症、補酵素Q10欠乏症、グルテン失調症、自己免疫性小脳炎などを鑑別します。
確定診断は遺伝学的検査で行い、常染色体潜性脊髄小脳失調症13型では GRM1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。常染色体潜性の失調症は原因遺伝子が100種類以上あるため、網羅的な遺伝子解析(パネル検査やエクソーム解析)が診断への近道です。
治療
多くの型では、原因そのものを治す治療は確立していません。ただし、ビタミンE欠乏症や脳腱黄色腫症など、治療によって進行を止められる失調症があるため、まずそれらの除外が大切です。
- リハビリテーション:バランス訓練、歩行訓練、言語聴覚療法。継続することで機能の維持につながります
- 転倒予防:杖・歩行器・手すりの設置、住環境の調整
- 嚥下の評価と、食事形態の工夫
- 症状に応じた対症療法(振戦、痙縮、てんかん、排尿障害など)
- 就学・就労の支援、身体障害者手帳や指定難病の申請
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる GRM1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、GRM1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
常染色体潜性小脳失調症(ARCA)は、①先天性(非進行性)小脳失調、②代謝性・治療可能な失調、③DNA修復障害を伴う失調、④変性性ARCAに大別される。この分類は、治療介入の可否を早期に判断するための実際的な枠組みである。ビタミンE単独欠乏性失調症(TTPA)、脳腱黄色腫症(CYP27A1)、無βリポたんぱく血症、補酵素Q10欠乏症、ビオチン・チアミン反応性基底核症は、いずれも治療により進行を抑制しうる。
GRM1(mGluR1、6q24.3)はプルキンエ細胞の平行線維シナプスに高密度に発現し、長期抑圧(LTD)を介した運動学習の中核分子である。両アレル性の機能喪失変異は先天性・非進行性の小脳失調と知的障害(SCAR13)を生じ、ヘテロ接合のミスセンス変異は常染色体顕性の遅発性小脳失調(SCA44)を生じる。また本受容体に対する自己抗体は傍腫瘍性小脳変性症の原因となることが知られ、遺伝性・自己免疫性の双方で同一分子が標的となる稀有な例である。
鑑別の要点として、失調に加えて何を伴うかが有用な手がかりとなる。末梢神経障害+心筋症ならフリードライヒ運動失調症、眼球運動失行+αフェトプロテイン高値なら毛細血管拡張性運動失調症やAOA2、性腺機能低下ならSTUB1やRNF216、肝障害ならSCYL1、網膜変性ならPHARC・Refsum病を想起する。
よくある質問
Q. 家族に同じ病気の人はいません。それでも遺伝性ですか。
A. はい。常染色体潜性遺伝の病気では、ご両親がどちらも症状のないキャリアであるため、家族歴がないことがふつうです。家族歴がないことは、遺伝性を否定する理由にはなりません。
Q. リハビリテーションは効果がありますか。
A. 進行を止めることはできませんが、バランス訓練や歩行訓練を続けることで、日常生活の動作が保たれることが報告されています。無理のない範囲で継続することが大切です。
Q. 指定難病の対象になりますか。
A. 脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)として、指定難病の医療費助成の対象となる場合があります。診断が確定したら、主治医または医療ソーシャルワーカーにご相談ください。
Q. 症状は進んでいきますか。
A. この型は、進行しないか、進んでもごくゆるやかであることが特徴です。リハビリテーションを続けることで、できることを増やしていける可能性があります。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。正確な見通しは遺伝カウンセリングでご確認ください。
参考文献
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- Synofzik M, Puccio H, Mochel F, Schöls L. Autosomal recessive cerebellar ataxias: paving the way toward targeted molecular therapies. Neuron. 2019;101(4):560-583.
- Jayadev S, Bird TD. Hereditary ataxias: overview. Genet Med. 2013;15(9):673-683.
- Guergueltcheva V, Azmanov DN, Angelicheva D, et al. Autosomal-recessive congenital cerebellar ataxia is caused by mutations in metabotropic glutamate receptor 1. Am J Hum Genet. 2012;91(3):553-564.
