概要
ネフロン癆16型(ねふろんろう)は、腎臓の尿をつくる管(尿細管)と、その周りの組織がゆっくりと壊れていく遺伝性の腎臓病です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ANKS6(9q22.33)遺伝子の変化が原因となります。
ネフロン癆は、子どもと若い方が末期腎不全になる遺伝性の原因として、もっとも頻度の高い病気です。原因となる遺伝子は20種類以上知られており、どの遺伝子かによって、発症年齢と腎臓以外の症状が変わります。
ネフロン癆16型では、腎臓のはたらきの低下に加えて、内臓の左右の異常、心臓の形の異常、肝臓の線維化を伴う頻度が高い型です。乳児期から幼児期に発症することが多く、経過は比較的重い傾向があります。
原因
ANKS6 は、インバーシン(2型)・NPHP3(3型)と同じ場所に集まってひとつの複合体をつくるたんぱく質です。
腎臓の尿細管の細胞には、尿の流れを感じ取るアンテナ「一次繊毛」が1本ずつ生えています。このアンテナが正しくはたらかないと、尿細管がまっすぐ伸びずに嚢胞(水ぶくれ)ができ、周りの組織が線維化して硬くなっていきます。こうしてゆっくりと腎臓のはたらきが失われます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
この病気は、むくみや血尿ではなく「尿を濃くできないこと」から始まります。そのため、腎臓病らしい症状が出ないまま進行し、気づかれるのが遅れることがあります。
- 多尿・多飲:水をよく飲み、尿の量が多い。いったんおむつが外れたあとの夜尿が最初のサインになることがあります
- 貧血、疲れやすさ、食欲の低下
- 身長の伸びが悪い(成長障害)
- 血液検査でクレアチニンが高い:健診で偶然見つかることがあります
- 尿検査ではたんぱく尿・血尿が目立たないことが多い(重要な特徴です)
- 型により、網膜の変性・肝臓の線維化・小脳の形の異常・骨の異常・内臓逆位を伴います
検査・診断
腹部超音波検査で、腎臓が正常大から小さめであること、皮質と髄質の境目に嚢胞があること、皮髄境界が不明瞭になっていることを確認します。血液検査でクレアチニンと貧血を、尿検査で尿を濃縮する力を評価します。
確定診断は遺伝学的検査で行い、ネフロン癆16型では ANKS6 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。もっとも頻度の高いNPHP1型では遺伝子まるごとの欠失が原因となるため、コピー数の解析を含めた検査が必要です。遺伝子診断がつけば、腎生検を避けられるという利点があります。
治療
腎臓の線維化を止める治療は、現時点では確立していません。腎機能の低下に伴う問題に対応し、末期腎不全に備えることが治療の中心になります。
- 水分と塩分の管理:尿を濃くできないため、脱水になりやすく注意が必要です
- 貧血に対するエリスロポエチン製剤、鉄剤
- 成長障害に対する成長ホルモン治療
- 骨・ミネラル代謝の管理(活性型ビタミンD、リン吸着薬)
- 末期腎不全に対する透析療法と腎移植
- 腎移植後にこの病気が再発することはありません。移植は有効な治療選択肢です
- 型に応じた眼科・肝臓・神経の定期評価
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ANKS6 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ANKS6 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
ネフロン癆は、常染色体潜性の慢性尿細管間質性腎症であり、繊毛病(ciliopathy)の腎表現型にあたる。病理学的三徴は①尿細管基底膜の不整(肥厚と菲薄化の混在)、②尿細管の萎縮と嚢胞形成、③間質の線維化と単核球浸潤である。発症年齢により乳児型(4歳未満でESRD)、若年型(中央値13歳)、青年型(19歳前後)に分類され、NPHP1のホモ接合欠失が全体の約20%を占める。
ANKS6(NPHP16、9q22.33)はアンキリンリピートとSAMドメインをもち、INVS・NPHP3・NEK8とともに「インバーシン区画複合体」を構成する。NEK8によるリン酸化を受けて複合体の足場として機能し、Hippo経路(YAP)およびWnt経路の制御に関わる。臨床像はラテラリティ異常(内臓逆位、無脾・多脾)、心奇形、肝線維症を高率に伴う点でINVS・NPHP3型と共通し、この3遺伝子が同一複合体を形成することと合致する。
腎外症状の合併により、シニア・ローケン症候群(網膜変性)、ジュベール症候群(小脳虫部低形成・臼歯徴候)、メッケル症候群、ジューヌ症候群(胸郭低形成)、COACH症候群(肝線維症)などの症候群名が与えられてきたが、これらは連続した表現型スペクトラムであり、同一遺伝子が複数の症候群を生じうる。鑑別では、常染色体潜性多発性嚢胞腎(PKHD1)、常染色体顕性尿細管間質性腎疾患(UMOD、MUC1)、バーター症候群、シスチン症を考慮する。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. 欧米では出生5万人から10万人に1人程度とされます。まれな病気ですが、小児・若年者の末期腎不全の原因としては遺伝性のなかでもっとも多く、全体の5〜10%を占めると報告されています。
Q. 尿検査では異常がないと言われました。
A. この病気の特徴のひとつです。たんぱく尿や血尿が目立たないまま腎機能だけが下がっていくため、学校健診の尿検査では見つかりにくいことがあります。血液検査のクレアチニンと、腎臓の超音波検査が診断の手がかりになります。
Q. 夜尿が続いています。関係がありますか。
A. いったんおむつが外れたあとに夜尿が再び現れることは、尿を濃くできなくなっているサインのことがあります。多飲・多尿を伴う場合は、一度腎臓の検査を受けることをおすすめします。
Q. 心臓の検査も必要ですか。
A. この型では心臓の形の異常を伴うことがあります。診断時に心臓超音波検査を行い、内臓の位置についても確認します。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。ごきょうだいは症状が出る前に見つかることがあるため、検査について遺伝カウンセリングでご相談ください。
参考文献
- Wolf MTF, Hildebrandt F. Nephronophthisis. Pediatr Nephrol. 2011;26(2):181-194.
- Srivastava S, Molinari E, Raman S, Sayer JA. Many genes-one disease? Genetics of nephronophthisis and translational aspects. Front Pediatr. 2018;5:287.
- Hildebrandt F, Benzing T, Katsanis N. Ciliopathies. N Engl J Med. 2011;364(16):1533-1543.
- Hoff S, Halbritter J, Epting D, et al. ANKS6 is a central component of a nephronophthisis module linking NEK8 to INVS and NPHP3. Nat Genet. 2013;45(8):951-956.
