概要
多発性ミトコンドリア機能障害症候群2型は、ミトコンドリアのなかで「鉄と硫黄でできた部品(鉄硫黄クラスター)」をつくって酵素に取りつける工程がうまくいかないために、複数の酵素がいっぺんにはたらかなくなる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、BOLA3(2p13.1)遺伝子の変化が原因となります。
「多発性」という名前のとおり、この病気の特徴はひとつの酵素ではなく、複数の重要な酵素が同時に止まってしまうことです。そのため、乳酸が高くなるだけでなく血液中のグリシンというアミノ酸も増えるという、ほかのミトコンドリア病にはない組み合わせがみられます。
多発性ミトコンドリア機能障害症候群2型では、生後数か月からの発達の退行、筋緊張の低下、けいれんで発症します。頭部MRIで大脳の白質が広く侵される(白質脳症)ことと、拡張型心筋症を伴うことが報告されています。強い乳酸アシドーシスと、血液中のグリシンの上昇がみられます。
原因
BOLA3 は、NFU1と協力して鉄と硫黄の部品を酵素へ届けるたんぱく質です。
鉄硫黄クラスターは、電子を受け渡すための小さな金属の部品です。ミトコンドリアのなかで組み立てられ、電子伝達系の複合体Iと複合体II、そして「リポ酸」という補助因子をつくる酵素に取りつけられます。
リポ酸は、ピルビン酸脱水素酵素複合体(糖からエネルギーをつくる入口)、α-ケトグルタル酸脱水素酵素複合体(クエン酸回路)、グリシン開裂系(グリシンを分解する)という重要な酵素群に必要です。そのため鉄硫黄クラスターがつくれないと、これらがまとめて動かなくなり、乳酸とグリシンが同時にたまります。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 乳児期からの筋緊張の低下、哺乳の不良、体重が増えない
- いったん獲得した力が失われる(発達の退行)
- 強い乳酸アシドーシス:呼吸が速くなり、ぐったりします
- 血液・尿でグリシンが高い(高グリシン血症)
- けいれん、眼球のふるえ、視神経の萎縮
- 白質脳症:頭部MRIで大脳の白質が広く侵されます
- 心筋症(拡張型・肥大型)
- 肺高血圧症:型によりみられ、経過を大きく左右します
発熱・下痢・絶食をきっかけに急に悪化します。感染症の予防と、体調をくずしたときの早めの受診が大切です。
検査・診断
血液・髄液の乳酸とピルビン酸、血漿アミノ酸分析でのグリシン高値、尿中有機酸分析、頭部MRI、心エコーで評価します。「乳酸が高い」+「グリシンが高い」という組み合わせは、この病気群を強く示唆する重要な手がかりです。
確定診断は遺伝学的検査で行い、多発性ミトコンドリア機能障害症候群2型では BOLA3 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。必要に応じて、線維芽細胞でリポ酸化たんぱく質の低下や複合体I・IIの活性低下を確認します。
治療
現時点で、原因そのものを治す治療は確立していません。症状をやわらげ、急な悪化を防ぐことが治療の中心になります。
- 代謝クリーゼの予防:長時間の絶食を避け、発熱時は早めに受診します
- 乳酸アシドーシスに対する補液、重炭酸の補正
- ビタミン・補酵素の補充(チアミン、リボフラビン、補酵素Q10、L-カルニチンなど)
- リポ酸の内服は、酵素に取りつけられないことが問題であるため効果が期待できません
- けいれん、心不全、肺高血圧症に対する対症療法
- 栄養の管理、リハビリテーション、多職種による支援
- バルプロ酸など、ミトコンドリアに負担をかける薬に注意が必要です。受診時は必ず病名をお伝えください
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる BOLA3 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、BOLA3 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
多発性ミトコンドリア機能障害症候群(MMDS)は、ミトコンドリア鉄硫黄クラスター(Fe-S)生合成経路の後期段階の異常により、リポ酸依存性2-オキソ酸脱水素酵素群と呼吸鎖複合体I・IIが同時に障害される疾患群である。生化学的な指標は「乳酸・ピルビン酸高値+高グリシン血症」で、これはリポ酸依存のグリシン開裂系(GCS)が障害されることによる。非ケトン性高グリシン血症(GLDC、AMT)との鑑別では、乳酸高値の併存が決め手となる。
BOLA3(2p13.1)はNFU1とヘテロ二量体を形成し、リポ酸合成酵素および複合体IIへの[4Fe-4S]クラスター搭載に関与する。生化学的所見はNFU1型と重なるが、肺高血圧症よりも白質脳症・拡張型心筋症が前景に立つ傾向がある。リポ酸依存性酵素の一斉障害を反映して高グリシン血症(非ケトン性高グリシン血症との鑑別を要する)と乳酸・ピルビン酸の上昇を認める。リポ酸の経口補充は、酵素に共有結合する必要があるため無効である。
Fe-S生合成経路の他の疾患としては、フリードライヒ運動失調症(FXN)、GLRX5欠損症(鉄芽球性貧血)、ISCU関連ミオパチー、NFS1・LYRM4欠損症が挙がり、同一経路でありながら表現型はきわめて多様である。リポ酸合成そのものの異常(LIAS、LIPT1、LIPT2)も同様の生化学所見を示すため、網羅的な遺伝子解析による確定が実際的である。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. 報告されている患者さまの数は世界でも限られており、非常にまれな病気です。ただし、乳児期の重い乳酸アシドーシスの原因として見落とされている例がある可能性が指摘されています。
Q. グリシンが高いと言われました。何を意味しますか。
A. グリシンを分解する酵素にも同じ部品が必要なため、この病気ではグリシンが体にたまります。乳酸とグリシンの両方が高いことは、この病気群を疑う重要な手がかりになります。
Q. 体調をくずしたとき、どうすればよいですか。
A. 発熱や下痢で食事がとれないときは、早めに受診してください。点滴でブドウ糖と水分を補うことで、急な悪化を防げることがあります。かかりつけ医に病名と注意点を書いた情報提供書を用意しておくと安心です。
Q. リポ酸のサプリメントは効きますか。
A. この病気では、リポ酸が酵素に取りつけられないことが問題のため、飲んで補っても効果は期待できません。自己判断でのサプリメント使用は避けてください。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。正確な見通しは遺伝カウンセリングでご確認ください。
参考文献
- Stehling O, Wilbrecht C, Lill R. Mitochondrial iron-sulfur protein biogenesis and human disease. Biochimie. 2014;100:61-77.
- Beilschmidt LK, Puccio HM. Mammalian Fe-S cluster biogenesis and its implication in disease. Biochimie. 2014;100:48-60.
- Lill R, Freibert SA. Mechanisms of mitochondrial iron-sulfur protein biogenesis. Annu Rev Biochem. 2020;89:471-499.
- Cameron JM, Janer A, Levandovskiy V, et al. Mutations in iron-sulfur cluster scaffold genes NFU1 and BOLA3 cause a fatal deficiency of multiple respiratory chain and 2-oxoacid dehydrogenase enzymes. Am J Hum Genet. 2011;89(4):486-495.
