概要
ネフローゼ症候群14型は、腎臓のろ過装置がこわれてたんぱく質が尿へ大量に漏れ出てしまう病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、SGPL1(10q22.1)遺伝子の変化が原因となります。
こどものネフローゼ症候群の多くはステロイドがよく効きます。しかし、ステロイドが効かないタイプ(ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群)のおよそ3割は、遺伝子の変化が原因であることが分かっています。この場合、免疫を抑える薬をいくら使っても効果はなく、副作用だけが残ります。そのため原因が遺伝子にあるかどうかを早く確かめることが、治療方針を大きく変えます。
ネフローゼ症候群14型では、この型は、腎臓の症状に加えて「副腎のはたらきの低下」を伴うことが最大の特徴です。乳児期から幼児期に、大量のたんぱく尿と色素沈着・低血糖・元気のなさ(副腎不全)で発症します。魚のうろこのような皮膚(魚鱗癬)、免疫不全、神経の症状、性腺の低形成を伴うことがあります。
原因
SGPL1 は、細胞の情報伝達に使われる脂質(スフィンゴシン1-リン酸)を最後に分解して片づける酵素です。片づけられないと、腎臓・副腎・皮膚・神経に影響が出ます。
腎臓には、血液から尿をこし出す「糸球体」というフィルターが約100万個あります。このフィルターは、血管の内側の細胞(内皮)・基底膜・足のような突起で基底膜を抱え込む「足細胞(ポドサイト)」の3層でできています。足細胞のすき間にある「スリット膜」が最後の関門で、ここが壊れるとたんぱく質が漏れ出します。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 大量のたんぱく尿:尿が泡立つ、健診で指摘される
- むくみ(浮腫):まぶた、足、おなかにたまります
- 血液中のアルブミンの低下、コレステロールの上昇
- ステロイドが効かない:4週間の治療でも尿たんぱくが消えません
- 高血圧
- 腎機能の低下:数年から十数年で末期腎不全に至ることがあります
- 感染症にかかりやすい、血栓ができやすい
- 型により、難聴・副腎不全・小頭症・皮膚の症状などを伴います
検査・診断
尿検査(尿たんぱく/クレアチニン比)、血液検査(アルブミン、コレステロール、クレアチニン)、腎生検で診断します。腎生検では巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)やびまん性メサンギウム硬化症がみられます。
確定診断は遺伝学的検査で行い、ネフローゼ症候群14型では SGPL1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。ステロイド抵抗性と判断された時点で、遺伝学的検査を検討することが国際的なガイドラインでも推奨されています。診断がつけば、①不要な免疫抑制を避けられる、②移植後の再発が少ないと説明できる、③型によっては有効な治療があるという3つの利点があります。
治療
遺伝子が原因のネフローゼ症候群では、ステロイドや免疫抑制薬は原則として効きません。たんぱく尿を減らし、腎機能の低下を遅らせることが治療の中心になります。
- ACE阻害薬・ARB:たんぱく尿を減らし、腎機能の保護をはかります
- 塩分の制限、むくみに対する利尿薬
- 脂質異常症・高血圧の管理
- 免疫抑制薬は、効果がないと判断されれば中止します(副作用を避けるため)
- コエンザイムQ10が有効な型があります(COQ2・COQ6・COQ8B・PDSS2 による型)
- 末期腎不全に対する透析療法と腎移植。遺伝性の場合、移植後の再発はまれです
- 型に応じた腎外症状(副腎・聴力・発達)の評価と管理
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる SGPL1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SGPL1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群(SRNS)の単一遺伝子原因は発症年齢が若いほど頻度が高く、生後3か月未満では60〜70%、小児期全体では約30%に同定される。原因遺伝子は機能的に、①スリット膜構成分子(NPHS1、NPHS2、CD2AP)、②アクチン細胞骨格(ACTN4、INF2、MYO1E、ARHGDIA)、③基底膜(LAMB2、COL4A3-5)、④核・転写(WT1、NUP93、NUP107、LMX1B)、⑤CoQ10生合成(COQ2、COQ6、COQ8B、PDSS2)、⑥ライソゾーム・代謝(SCARB2、SGPL1)、⑦内皮(DGKE)に整理される。
SGPL1(10q22.1)はスフィンゴシン1-リン酸リアーゼで、スフィンゴ脂質代謝の唯一の不可逆的出口を担う。欠損によりS1Pとスフィンゴイド塩基が蓄積し、SPLIS(sphingosine-1-phosphate lyase insufficiency syndrome)と呼ばれる多臓器症候群を生じる。「ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群+原発性副腎不全」の組み合わせは本型に特異的で、副腎不全を見逃すと致死的となりうる。ビタミンB6(ピリドキシン)はSGPL1の補酵素であり、一部の変異では高用量ピリドキシン投与に生化学的・臨床的反応がみられたとの報告がある。
遺伝子診断が治療方針に直結する例として、CoQ10生合成関連遺伝子(補充療法が有効)、DGKE(補体阻害薬が無効)、WT1(性腺芽腫のリスクと性腺の評価が必要)、SGPL1(副腎不全の検索が必須)が挙げられる。「遺伝性と分かれば免疫抑制を中止できる」という点だけでも、長期のステロイド曝露を回避する臨床的価値は大きい。
よくある質問
Q. ステロイドが効かないと言われました。遺伝子の検査を受けるべきですか。
A. 受けることをおすすめします。国際的なガイドラインでも、ステロイド抵抗性と判断された時点での遺伝学的検査が推奨されています。結果によって、治療を続けるか中止するかの判断が変わります。
Q. 移植をしたら、また再発しますか。
A. 遺伝子が原因のネフローゼ症候群では、移植後の再発はまれです。原因は腎臓の細胞そのものにあるため、新しい腎臓では同じことが起こりにくいと考えられています。これは移植を検討するうえで重要な情報です。
Q. 学校生活や運動はどうすればよいですか。
A. たんぱく尿が続いていても、過度な安静や運動制限は必要ないことがほとんどです。主治医と相談しながら、通常の学校生活を続けることが勧められます。
Q. 副腎の検査も必要ですか。
A. この型では副腎のはたらきが低下することがあり、見逃すと命に関わります。腎臓の症状に加えて、血液検査でコルチゾールとACTHを必ず確認してください。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。ごきょうだいは尿検査で早期に見つかることがあります。遺伝カウンセリングでご相談ください。
参考文献
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- Lovric S, Goncalves S, Gee HY, et al. Mutations in sphingosine-1-phosphate lyase cause nephrosis with ichthyosis and adrenal insufficiency. J Clin Invest. 2017;127(3):912-928.
