概要
橋小脳低形成11型は、生まれる前から脳幹の「橋(きょう)」と小脳が十分に育たないことで、重い発達の遅れが生じる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、TBC1D23(3q12.2)遺伝子の変化が原因となります。
「低形成」とは、いったんできたものが壊れるのではなく、最初から十分に育たないという意味です。橋小脳低形成では、胎児期の早い段階から発達が止まり、生まれたあともさらに萎縮が進む型が多いことが知られています。現在13以上の型に分類されています。
橋小脳低形成11型では、この型は、橋小脳低形成のなかでは経過が比較的おだやかです。発達の遅れは中等度で、歩行を獲得し、言葉を話せるようになる方もいます。小頭症、小脳の低形成、軽度から中等度の知的障害がみられます。けいれんの頻度も他の型より低いとされます。
原因
TBC1D23 は、細胞のなかで荷物をゴルジ体へ届ける道すじを整えるたんぱく質です。
小脳と橋は、胎児期に神経細胞が活発に分裂し、移動してつくられます。この時期には、RNAを正しく仕上げること、たんぱく質をつくるためのエネルギーを確保すること、細胞のなかで物質を正しく運ぶことが欠かせません。橋小脳低形成の原因遺伝子は、いずれもこうした「細胞の基本的な機能」を担っており、とくに需要の高い小脳と橋が影響を受けやすいと考えられています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 出生時からの筋緊張の低下、哺乳の不良
- 進行性の小頭症:生まれたときは正常でも、頭囲の伸びが止まります
- 重い発達の遅れ:多くの型で、お座りや歩行の獲得が難しくなります
- けいれん、易刺激性(強く泣き続ける)
- 不随意運動:体が勝手に動く(ジスキネジア)、手足のつっぱり(痙性)、体の反りかえり
- 嚥下の障害、呼吸の障害(誤嚥性肺炎に注意が必要です)
- 視神経の萎縮、眼球運動の異常
- 型により、性分化の異常・末梢神経障害・運動神経の障害を伴います
検査・診断
頭部MRIが診断の中心です。橋の腹側が平坦になること、小脳(とくに半球)が小さいこと、大脳の萎縮の有無を確認します。型によって画像所見に特徴があり、型の推定に役立ちます(例:中脳の「8の字」=AMPD2型、小脳半球が虫部より強く侵される「トンボ様」=TSEN54型)。
確定診断は遺伝学的検査で行い、橋小脳低形成11型では TBC1D23 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。妊娠中の超音波検査やMRIで、小脳の低形成として気づかれることがあります。
治療
現時点で、原因そのものを治す治療は確立していません。症状をやわらげ、生活の質を保つことが治療の中心になります。
- 栄養の管理:哺乳や嚥下が難しい場合、経管栄養や胃瘻を検討します
- 呼吸の管理:誤嚥の予防、必要に応じて吸引・人工呼吸療法
- けいれんに対する抗てんかん薬
- 不随意運動・痙性に対する薬物療法(ボツリヌス療法を含む)
- リハビリテーション、姿勢の保持、装具、側弯への対応
- 家族への支援、レスパイトケア、在宅医療の体制づくり
- 重症例では、緩和ケアを含めた多職種での話し合いが大切です
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる TBC1D23 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、TBC1D23 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
キャリアスクリーニングテスト(228種類)
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。
検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。
専門的な解説
橋小脳低形成(PCH)は、橋核と小脳の発生障害を中核とする常染色体潜性の神経変性症候群群である。病理学的には、橋核ニューロンと小脳皮質顆粒細胞の脱落が特徴で、出生前に始まり生後も進行する。PCH1は前角細胞病変(脊髄性筋萎縮症様)を伴う群(EXOSC3、VRK1、SLC25A46)、PCH2は最も頻度の高い群(TSEN54 p.Ala307Ser創始者変異)で、PCH4/5も同遺伝子のアレル疾患である。
TBC1D23(3q12.2)はTBCドメインをもつたんぱく質で、ゴルジンGolgin-97/245とエンドソーム由来小胞のWASH複合体を橋渡しし、エンドソーム→ゴルジ逆行輸送を仲介する。PCHのなかで表現型が最も軽い群に属し、進行性の神経変性を示さない点で予後が大きく異なる。画像上は小脳半球と虫部の低形成に対して橋の低形成が軽度で、「pontocerebellar hypoplasia」というより「cerebellar hypoplasia優位」と記述されることもある。
原因遺伝子の機能は①tRNAスプライシング(TSEN54/2/34、CLP1)、②ミトコンドリアtRNA合成酵素(RARS2)、③RNAエキソソーム(EXOSC3/8/9)、④snRNA成熟(TOE1)、⑤ヌクレオチド代謝(AMPD2)、⑥小胞輸送(CHMP1A、TBC1D23)に集約され、いずれもRNA・たんぱく質の恒常性維持という「細胞の基盤機能」に関わる点が共通する。鑑別としては、先天性糖鎖異常症(CDG-Ia:PMM2)、ジュベール症候群、Dandy-Walker奇形、および胎児期の低酸素・感染による二次性小脳低形成が挙がる。
よくある質問
Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。
A. 橋小脳低形成全体でも非常にまれで、正確な頻度は分かっていません。もっとも多いPCH2型でも、報告例は世界で数百例程度です。
Q. 妊娠中に分かることはありますか。
A. 妊娠後期の超音波検査やMRIで、小脳が小さいことから疑われることがあります。ただし橋小脳低形成に特有の所見が出そろうのは妊娠後期以降で、早い時期には分からないことが多いのが実情です。
Q. けいれんが強く、抱っこも難しいです。
A. この病気では、強い易刺激性や不随意運動によりご家族の負担が大きくなることがあります。薬でやわらげられる部分があります。また在宅医療やレスパイトケアの利用も含め、ご家族を支える体制を医療チームと一緒に考えてください。
Q. 歩けるようになりますか。
A. この型は、橋小脳低形成のなかでは比較的経過がおだやかで、歩行や言葉を獲得する方が報告されています。リハビリテーションを続けることが大切です。
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。正確な見通しは遺伝カウンセリングでご確認ください。
参考文献
- Rudnik-Schöneborn S, Barth PG, Zerres K. Pontocerebellar hypoplasia. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2014;166C(2):173-183.
- Namavar Y, Barth PG, Poll-The BT, Baas F. Classification, diagnosis and potential mechanisms in pontocerebellar hypoplasia. Orphanet J Rare Dis. 2011;6:50.
- van Dijk T, Baas F, Barth PG, Poll-The BT. What’s new in pontocerebellar hypoplasia? An update on genes and subtypes. Orphanet J Rare Dis. 2018;13(1):92.
- Marin-Valencia I, Gerondopoulos A, Zaki MS, et al. Homozygous mutations in TBC1D23 lead to a non-degenerative form of pontocerebellar hypoplasia. Am J Hum Genet. 2017;101(3):441-450.
