滑脳症8型

Lissencephaly 8, TMTC3

概要

滑脳症8型は、胎児期に神経細胞が正しい場所へ移動できず、大脳の表面のしわ(脳回)が十分にできない病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、TMTC3(12q21.32)遺伝子の変化が原因となります。

「滑脳症(かつのうしょう)」は、脳の表面がなめらかに見えることから名づけられました。大脳のしわは、神経細胞が脳の内側から表面へ向かって移動し、6つの層をつくることでできあがります。この移動がうまくいかないと、しわができず、重い発達の遅れと難治性のてんかんが生じます。

滑脳症8型では、この型も敷石様滑脳症を示します。重い発達の遅れ、難治性のてんかん、小頭症がみられます。比較的軽い変化では、脳室のまわりに神経細胞が塊で残る「脳室周囲結節性異所性灰白質」として現れることがあり、成人になってからてんかんで見つかる例も報告されています。

原因

TMTC3 は、小胞体のなかでたんぱく質に糖(マンノース)を取りつけるはたらきをもつたんぱく質です。

神経細胞は、胎生12週から24週ごろにかけて脳室のそばで生まれ、「放射状グリア」という細長い細胞をレールにして表面へ移動します。この過程には、①十分な数の細胞が生まれること、②レールに沿って正しく動くこと、③正しい場所で止まることの3つが必要です。滑脳症は、このいずれかがうまくいかないときに起こります。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。滑脳症の多くは新生突然変異(両親には変化がない)によりますが、この型は潜性遺伝のため、次のお子さまでの再発率が異なります。

症状

  • 重い発達の遅れ:多くの場合、お座りや歩行の獲得が難しくなります
  • 難治性のてんかん:乳児期に始まり、ウエスト症候群(点頭てんかん)の形をとることがあります
  • 小頭症:型によっては、生まれたときから頭囲が著しく小さくなります
  • 筋緊張の低下(乳児期)から、のちに手足のつっぱり(痙性)へ
  • 哺乳の不良、嚥下の障害、誤嚥性肺炎
  • 呼吸の障害、体温調節の障害
  • 型により、小脳や脳幹の低形成・水頭症・腎臓の嚢胞を伴います

検査・診断

頭部MRIが診断の中心です。脳回の欠如または減少、皮質の厚さ、前後方向でどちらが強く侵されているか(勾配)、小脳・脳幹・脳梁の所見を確認します。皮質の見え方によって、「古典的(type I)滑脳症」と「敷石様(type II/cobblestone)滑脳症」に大きく分けられ、原因遺伝子の推定に役立ちます。

確定診断は遺伝学的検査で行い、滑脳症8型では TMTC3 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。敷石様の所見をみたときは、血清CK(クレアチンキナーゼ)を必ず測定します。CKが高ければ筋ジストロフィーを伴うジストログリカノパチーを、正常であれば本型のような基底膜そのものの異常を考えます。

治療

現時点で、脳の形を治す治療はありません。てんかんの管理と、生活を支える医療的ケアが中心になります。

  • てんかんの治療:複数の抗てんかん薬、ウエスト症候群にはACTH療法やビガバトリンが用いられます。完全に発作を止めることは難しいことが多く、「生活しやすい状態」を目標にします
  • 栄養の管理:嚥下が難しい場合、経管栄養や胃瘻を検討します
  • 呼吸の管理:誤嚥の予防、吸引、必要に応じて人工呼吸療法
  • リハビリテーション、姿勢の保持、装具、側弯への対応
  • 水頭症に対するシャント手術
  • 家族への支援、在宅医療の体制づくり、レスパイトケア

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる TMTC3 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、TMTC3 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

キャリアスクリーニングテスト(228種類)

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます

検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。

専門的な解説

滑脳症は大脳皮質形成異常(malformations of cortical development, MCD)のなかで神経細胞移動障害に分類される。type I(classical, 4層構造)PAFAH1B1(LIS1)、DCXTUBA1A などの微小管・ダイニン関連分子が原因で、多くは新生突然変異による顕性またはX連鎖形式をとる。type II(cobblestone)は軟膜基底膜の破綻による過剰移動が本態で、ジストログリカノパチー群(POMT1 等)、LAMB1LAMC3GPR56TMTC3 が原因となる。

TMTC3(12q21.32)はTPRリピートをもつ小胞体膜たんぱく質で、カドヘリンなどへのO-マンノシル化(POMT1/2とは異なる経路)と小胞体ストレス応答の制御に関与する。欠損は軟膜基底膜の破綻を介してcobblestone lissencephalyを生じる。表現型の幅が広く、重症端は周産期致死的な敷石様滑脳症、軽症端は成人発症のてんかんを伴う脳室周囲結節性異所性灰白質である。後者はFLNA によるものとの鑑別を要する。

小頭滑脳症(microlissencephaly)は「著しい小頭症+滑脳症」の組み合わせで、NDE1KATNB1WDR62TUBG1 など有糸分裂装置の異常が原因であり、常染色体潜性形式をとることが多い。常染色体潜性型では次子再発率が25%となるため、「滑脳症=多くは孤発」という一般論を個別の家系にそのまま当てはめないことが重要である。鑑別としては、先天性サイトメガロウイルス感染症、ジカウイルス感染症、胎児期の低酸素性虚血性障害による二次性の脳形成異常が挙がる。

よくある質問

Q. どのくらいの頻度で起こる病気ですか。

A. 滑脳症全体では出生10万人あたり1〜数人とされます。そのうち常染色体潜性型はごく一部で、この型はさらにまれです。

Q. 妊娠中に分かることはありますか。

A. 脳のしわは妊娠26〜28週ごろから形成されるため、それ以前の超音波検査では診断できません。妊娠後期の超音波検査や胎児MRIで、脳表がなめらかであること・脳室の拡大から疑われることがあります。

Q. てんかんは治りますか。

A. 完全に発作を止めることは難しいことが多いのが実情です。ただし薬の組み合わせを工夫することで、発作の回数を減らし、ご本人が過ごしやすい状態にすることは可能です。てんかんの専門医と継続的に相談してください。

Q. 大人になっててんかんで見つかりました。

A. この遺伝子では、変化の程度によって脳の形の異常が軽く、成人になってからてんかんで気づかれることがあります。頭部MRIと遺伝学的検査で診断します。

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この型は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。滑脳症には偶発的に起こる型もあり、確率は原因遺伝子によって大きく異なります。必ず遺伝カウンセリングでご確認ください。

参考文献

  • Di Donato N, Chiari S, Mirzaa GM, et al. Lissencephaly: expanded imaging and clinical classification. Am J Med Genet A. 2017;173(6):1473-1488.
  • Barkovich AJ, Guerrini R, Kuzniecky RI, Jackson GD, Dobyns WB. A developmental and genetic classification for malformations of cortical development: update 2012. Brain. 2012;135(Pt 5):1348-1369.
  • Devakumar D, Bamford A, Ferreira MU, et al. Infectious causes of microcephaly: epidemiology, pathogenesis, diagnosis, and management. Lancet Infect Dis. 2018;18(1):e1-e13.
  • Farhan SMK, Nixon KCJ, Everest M, et al. Identification of a novel synaptic protein, TMTC3, involved in periventricular nodular heterotopia with intellectual disability and epilepsy. Hum Mol Genet. 2017;26(21):4278-4289.
医師監修 監修日:2026年9月8日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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