フェニルケトン尿症(PKU)は、フェニルアラニンというアミノ酸を分解する酵素の働きが生まれつき弱いために起こる先天代謝異常症で、国内の指定難病および小児慢性特定疾病に指定されています。両親が健康であっても、生まれつきの体質(保因者)が偶然重なることで発症することがある病気です。しかし日本では出生後まもなく全員が受ける「新生児マススクリーニング」でほぼ確実に早期発見でき、適切な食事療法を続ければ発達への影響を防げます。本記事では、難病情報センターや小児慢性特定疾病情報センター、日本先天代謝異常学会などの公的・学会情報にもとづき、症状、遺伝の仕組み、検査、治療までを解説します。
この記事でわかること
フェニルケトン尿症は、肉や魚、卵などのタンパク質に含まれる必須アミノ酸「フェニルアラニン」を、体内でうまく分解できないために起こる先天代謝異常症です。
通常、食事から摂取したフェニルアラニンは、肝臓の酵素の働きによって別のアミノ酸(チロシン)に変換され、代謝されていきます。フェニルケトン尿症の場合、この酵素の働きが生まれつき弱いため、フェニルアラニンが分解されずに体内へ蓄積していきます。難病情報センターの解説によると、国内の発生頻度は古典型でおよそ8万人出生に1人(全国で年間500人程度)、酵素の働きを助ける補酵素が欠乏するタイプではおよそ170万人出生に1人(全国で年間50人程度)と推定されています。
出典:難病情報センター「フェニルケトン尿症(指定難病240)」
フェニルアラニンは、皮膚や髪の色を決める「メラニン色素」の材料にもなるチロシンの原料です。フェニルアラニンがうまく代謝されないと、その先にあるチロシンや色素の合成量も少なくなるため、結果として色素がやや薄くなり、髪の毛や肌の色が薄く見えることがあります。
ただし、これはあくまで代謝の結果として起こりうる一つの所見にすぎません。見た目の特徴だけでこの病気かどうかを判断することはできませんし、してはいけません。色白や髪の色の濃淡には個人差や遺伝的な多様性が幅広く存在します。実際、遺伝カウンセリングの外来でも「うちの子だけ色が白い気がする」という相談を受けることがありますが、色素の濃淡そのものは診断の決め手にならないとお伝えしています。外見ではなく数値。それが、次に説明する新生児マススクリーニングの考え方です。
フェニルケトン尿症は生まれた直後にはほとんど症状がなく、血液中のフェニルアラニン値が高い状態が続くことで、徐々に発達への影響が現れてきます。
治療をせずに放置した場合、蓄積したフェニルアラニンが神経の発達に影響し、精神発達の遅れやけいれんなどの症状につながることがあります。増加したフェニルアラニンの一部は尿中に排泄されるため、特有のにおい(ネズミの尿のようなにおい)が感じられることもあります。補酵素が欠乏するタイプでは、これに加えて哺乳不良や夜泣き、けいれんなど、より早期から重い神経症状が出ることが知られています。
| 病型 | 国内の発生頻度(推定) | 主な原因 |
|---|---|---|
| 古典型フェニルケトン尿症 | 約8万人に1人(年間約500人) | フェニルアラニン水酸化酵素の働きの弱さ |
| 補酵素(BH4)欠乏によるタイプ | 約170万人に1人(年間約50人) | 酵素を助ける補酵素の欠乏 |
ここまで読むと不安に感じるかもしれませんが、後述する新生児マススクリーニングによって、こうした症状が出る前の段階でほとんどの赤ちゃんが発見されています。早期発見できれば、発達への影響は治療によって防げます。
フェニルケトン尿症は「常染色体潜性遺伝」という形式をとる病気で、両親のどちらにも自覚症状がなくても、偶然が重なることで子どもに発症することがあります。
人間の遺伝子は、父親と母親からそれぞれ1本ずつ受け継いで1対になっています。フェニルケトン尿症の原因となる遺伝子変化を1本だけ受け継いでいても、もう1本が正常に働いていれば酵素は作られるため発症しません。このように、変化した遺伝子を持ちながら発症していない状態を「保因者(キャリア)」と呼びます。日本国内にも、自分が保因者であると気づかないまま生活している人が一定数存在するとされています。
もし父親と母親がどちらも同じ病気の保因者だった場合、生まれてくる子どもの遺伝の組み合わせは次の表のようになります。
| 遺伝子の組み合わせ | 確率 | 結果 |
|---|---|---|
| 両親から正常な遺伝子を1本ずつ受け継ぐ | 1/4 | 発症しない(非保因者) |
| 片方の親から変化した遺伝子を1本受け継ぐ | 1/2 | 発症しない保因者 |
| 両親から変化した遺伝子をそれぞれ受け継ぐ | 1/4 | フェニルケトン尿症を発症 |
両親が保因者同士の場合、4人に1人という決して低くない確率で発症児が生まれます。特定の家系や生活習慣が原因ではありません。誰の家系にも起こりうる、偶然の組み合わせ。この事実を正しく理解しておくことが大切です。
日本で生まれたすべての赤ちゃんは、生後4日から7日ごろに、かかとからの採血によるスクリーニング検査を公費で受けており、この中にフェニルケトン尿症の検査も含まれています。
こども家庭審議会の資料によると、現在の新生児マススクリーニングはタンデムマス法を用いた先天代謝異常症17疾患と、従来の方法による3疾患(ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症)をあわせた、計20疾患を対象に実施されています。フェニルケトン尿症は、この中でも代表的なアミノ酸代謝異常症のひとつです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象疾患数 | 全国共通で計20疾患 |
| 実施時期 | 生後4日〜7日ごろ(退院前後) |
| 検査方法 | かかとからの少量採血(タンデムマス法が中心) |
| 費用 | 公費負担のため原則無料 |
| フェニルケトン尿症の位置づけ | 対象20疾患に含まれるアミノ酸代謝異常症の代表例 |
出典:こども家庭審議会成育医療等分科会「新生児マススクリーニングについて」/日本先天代謝異常学会「新生児マススクリーニング対象疾患等 診療ガイドライン2019」
血液中のフェニルアラニン値を分析し、脳への影響が出る前の段階で発見できることが、この検査の最大の意義です。フェニルケトン尿症は、早期に発見できれば見逃されることはまずありません。

フェニルケトン尿症の治療は、フェニルアラニンの摂取量を制限する食事療法が基本で、原則として生涯にわたって続ける必要があります。
診断が確定した時点から、通常の母乳やミルクに代えて、フェニルアラニンを除去した治療用ミルクを使用します。離乳食が始まったあとも、肉、魚、卵、大豆製品といったタンパク質を多く含む食品の摂取量を管理していく必要があります。一部の患者さんでは、内服薬や自己注射薬を併用することで食事制限の負担を軽減できるケースもあります。
| 治療の要素 | 内容 |
|---|---|
| 基本方針 | 低フェニルアラニン食による血中濃度のコントロール |
| 乳児期 | フェニルアラニン除去ミルクへの切り替え |
| 離乳期以降 | タンパク質を多く含む食品の摂取量管理 |
| 補助的な治療 | 一部の患者で内服薬・自己注射薬の併用が可能 |
| 継続期間 | 生涯にわたって必要 |
保育園や学校の給食を食べられず弁当を持参する、友人との外食が制限される、専用の低タンパク食品を購入する経済的な負担があるなど、当事者とご家族にとって日常的な負担が伴うことも事実です。私自身、遺伝カウンセリングの現場で保護者の方とお話しする際、「一生続く食事制限」と聞いて不安を口にされる方に多く出会ってきました。ただし血中濃度を適切にコントロールできれば、知的発達は健常児とほぼ変わらず成長できることも、あわせてお伝えするようにしています。
食事療法を適切に継続すれば、フェニルケトン尿症のお子さんも健常児とほぼ変わらない発達が期待できますが、女性の場合は将来の妊娠時にも食事管理が重要になります。
難病情報センターの解説では、女性の患者が妊娠を希望する場合、妊娠前から出産までの間、胎児に影響しない範囲まで血中フェニルアラニン値を下げておく必要があるとされています。妊娠中に母体のフェニルアラニン値が高いままだと、胎児の発達に影響が及ぶ可能性があるためです。フェニルケトン尿症のある女性が将来の妊娠を考える場合は、主治医と連携しながら、通常よりも厳格な食事管理を計画的に行っていくことが望まれます。
出典:小児慢性特定疾病情報センター「フェニルケトン尿症(高フェニルアラニン血症)概要」
妊娠を考えるタイミングで、夫婦がフェニルケトン尿症などの遺伝性疾患の保因者かどうかを事前に調べる「キャリアスクリーニング」という遺伝子検査があります。
口腔粘膜や血液からDNAを抽出し、数百種類におよぶ遺伝性疾患の保因者かどうかを網羅的に調べる検査です。フェニルケトン尿症のような常染色体潜性遺伝の病気は、両親のどちらもがたまたま保因者である場合にはじめて発症のリスクが生じるため、事前に知っておくことで妊娠計画や出産後の備えについて選択肢を検討しやすくなります。
キャリアスクリーニングは、あくまで両親が保因者かどうかを調べる非確定的な検査です。夫婦がともに同じ病気の保因者だった場合でも、実際に胎児が発症しているかどうかを確定するには、妊娠後に羊水検査を受ける必要があります。体外受精を行ったうえで、受精卵の段階で遺伝子を調べる着床前診断(PGT-M)を選択肢のひとつとして検討するご夫婦もいます。どの選択肢を選ぶかに正解はなく、専門家による遺伝カウンセリングを受けながら、ご夫婦の価値観にもとづいて考えていくことが大切です。
日本人類遺伝学会をはじめとする遺伝医学関連学会のガイドラインでも、保因者を対象にした遺伝学的検査は、専門家による遺伝カウンセリングを通じて検査の利点・限界を十分理解したうえで実施することが推奨されています。常染色体潜性遺伝の基礎知識もあわせて確認しておくと、検査結果の理解がより深まります。
出典:日本人類遺伝学会ほか「遺伝学的検査に関するガイドライン」
一般的なNIPTは13番・18番・21番染色体をはじめとする染色体の数の変化を調べる検査であり、フェニルケトン尿症のような単一遺伝子疾患を検出する検査ではありません。
フェニルケトン尿症は、染色体の数の変化ではなく、1つの遺伝子(PAH遺伝子など)の変化によって起こる病気です。そのため、染色体の変化を調べるNIPTでは検出できず、出生後の新生児マススクリーニングや、妊娠前後のキャリアスクリーニングといった別の検査によって確認する必要があります。出生前診断の種類と選び方を参考に、目的に合った検査を選んでください。
染色体に由来するリスクと、単一遺伝子疾患に由来するリスクは、それぞれ別の検査で確認するものだと理解しておくことが、検査選びの第一歩になります。
フェニルケトン尿症は、健康な両親から生まれることもある常染色体潜性遺伝の先天代謝異常症です。新生児期はほぼ無症状ですが、全員が受ける新生児マススクリーニングによって、発達に影響が出る前の段階でほとんどの赤ちゃんが発見されています。診断後は生涯にわたる食事療法が必要になるものの、血中濃度を適切にコントロールできれば発達への影響は防げます。
妊娠を考える段階でリスクを知っておきたい場合は、キャリアスクリーニングという選択肢もあります。見た目や思い込みで判断せず、公的な検査制度と専門家による遺伝カウンセリングを活用すること。それが、赤ちゃんとご家族にとって最も確実な備えになります。気になる点があれば、一人で抱え込まず、産婦人科や遺伝カウンセリングの窓口に相談してください。
フェニルアラニンというアミノ酸を分解する酵素の働きが生まれつき弱いために起こる先天代謝異常症です。国内の指定難病(指定難病240)および小児慢性特定疾病に指定されており、発生頻度は古典型でおよそ8万人に1人と推定されています。
特定の家系や生活習慣が原因ではありません。常染色体潜性遺伝という形式をとるため、両親ともに自覚のない保因者であることが偶然重なった場合に発症します。誰の家系にも起こりうる偶然の組み合わせです。
できません。色素の薄さは代謝の結果として起こりうる所見のひとつにすぎず、見た目だけで判断することはできません。日本では見た目に頼らず、全員を対象にした新生児マススクリーニングの血液検査で確認します。
生後4日から7日ごろ、退院前後のタイミングで、産院にてかかとからの採血によって実施されます。公費で負担されるため、原則として自己負担はありません。
原則として生涯にわたる低フェニルアラニン食が基本になります。一部の患者では内服薬や自己注射薬の併用で食事制限の負担を軽減できる場合があります。適切に血中濃度をコントロールできれば、発達は健常児とほぼ変わりません。
キャリアスクリーニング(保因者検査)という遺伝子検査があります。夫婦がともに同じ病気の保因者かどうかを事前に調べるもので、専門家による遺伝カウンセリングとあわせて検討することが推奨されています。
わかりません。NIPTは染色体の数の変化を調べる検査であり、フェニルケトン尿症のような単一遺伝子疾患は検出対象に含まれません。出生後の新生児マススクリーニングや、妊娠前後のキャリアスクリーニングで確認する病気です。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
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