「シミになる人」と「ならない人」の決定的な違いとは?

【はじめに:なぜ同じスキンケアでも差が出るのか?】 

毎日欠かさず丁寧なスキンケアを行っているにもかかわらず、シミができやすい人と、まったくシミができない人がいます。美容皮膚科などの診療現場においても、「同じような生活をしていて、同じ化粧品を使っているのに、なぜ私だけシミができるのでしょうか」という切実なご相談が後を絶ちません。 シミができる原因は多岐にわたりますが、その根本的な理由の一つとして「遺伝的な要素」が極めて大きく関与していることが、最新の遺伝医学によって明らかになってきました。遺伝的に決まっている肌の性質については、スキンケアによって状態を改善させることは可能であるものの、根本的に直すよう求められても、遺伝であるため対処が非常に難しいケースが存在します。 本コラムでは、美容皮膚科と遺伝学の観点を掛け合わせ、シミの種類ごとに遺伝がどの程度関与しているのかを詳しく解説します。ご自身のシミがどのタイプに当てはまるのかを考えながら、正しいケアのヒントを見つけていきましょう。

## 1. 遺伝的要因が最も強い「そばかす(雀卵斑)」の真実

 シミの中でも、最も遺伝との関連性が強いとされているのが「そばかす(医学用語では雀卵斑:じゃくらんはん)」です。そばかすの代表的なイメージといえば、小説『赤毛のアン』の主人公であるアン・シャーリーでしょう。彼女のように、髪が赤く、頬や鼻の周りにそばかすがある特徴は、「MC1R遺伝子」という特定の遺伝子の変異が直接的な原因となっています。

MC1R遺伝子が正常に機能している人は、紫外線を浴びた際に「ユーメラニン(真メラニン)」と呼ばれる黒から茶色の色素を作り出します。このユーメラニンは紫外線を吸収する能力が非常に高く、有害な紫外線から肌を守る作用が強いという特徴があります。 ところが、このMC1R遺伝子に変異がある場合、体はユーメラニンをうまく作れなくなり、代わりに「フェオメラニン」という黄色から赤色の色素を作り出します。フェオメラニンは紫外線を防御する力が弱いため、肌が紫外線のダメージをダイレクトに受けて赤くなりやすく、その結果としてそばかすが形成されてしまうのです。また、フェオメラニンが多く作られることで、髪の毛も赤毛になります。

欧米人ほど完全な赤毛の人は日本人には滅多にいませんが、日本人の中でも「抜けるように肌が白い人」は、両親から受け継いだ一対の染色体のうち、片方のMC1R遺伝子のスイッチがうまく作動しないヘテロタイプ(弱い変異)を持っていることが多いと考えられています。肌が白くて美しい反面、紫外線への防御力が弱いため、どうしてもシミやそばかすができやすいというジレンマを抱えているのです。 このMC1R遺伝子の異常はエクソン領域にあるため、エクソーム解析という遺伝子検査を行えば調べることができます。費用は9,800円程度で実施可能であり、アミノ酸がうまく変換できないミスセンス変異などを比較的簡単に検出できます。遺伝という根本的な体質に直結しているため、治療をしても治りにくい代表的なシミと言えます。

## 2. 蓄積されたダメージの証「老人性色素斑」

 一般的に多くの人が悩まされる「シミ」が、「老人性色素斑(ろうじんせいしきそはん)」です。医学的な定義において「老人」とは40歳以上を指します。そのため、41歳くらいで受診された患者様に「老人性色素斑ですね」と診断名を伝えると、「なんて失礼な医者だ」と思われることもありますが、これが正式な医学用語となっています。

この老人性色素斑にも、ある程度の遺伝的要因が関与しています。そばかすのように単一の遺伝子異常で起こるわけではなく、OCA2、MFSD12、TERTといった複数の遺伝子が総合的に関与していることが分かっています。生まれつき遺伝子が一部変異している人もいますが、基本的には長年の紫外線照射を浴びることで、その分の遺伝子変異が起き、シミとなって現れます。 老人性色素斑は、頬骨の出っ張っている部分など、顔の中でも位置が高く紫外線を直接浴びやすい場所にできやすいという特徴があります。

老人性色素斑に対する最も効果的なアプローチは、レーザー治療です。Qスイッチヤグレーザーや、ナノ単位ではなくピコ単位で照射できるピコレーザーなどを使用することで、綺麗に改善させることができます。1回の照射だけでも比較的良くなるため、大変有効な治療法です。

## 3. 女性ホルモンに翻弄される「肝斑(かんぱん)」 

女性特有の深い悩みである「肝斑(かんぱん)」は、目の周りなどにふわっとした形で現れるシミです。その見た目が「肝臓の表面」に似ていることから、この名前が付けられました。

肝斑の最大の特徴は、遺伝子の変異よりも、妊娠や閉経などによる「女性ホルモンのバランス崩れ」が刺激となり、発症や悪化を引き起こす点です。特に妊娠中は肝斑が悪化しやすく、気にされる方が非常に多くいらっしゃいます。 しかし、妊娠中のシミ治療には厳重な注意が必要です。シミ治療でよく用いられる「レチノール」や「ハイドロキノン」といった強力な成分は、胎児に影響を与える可能性があるため、妊娠中は絶対に使用してはいけません(NGと心得てください)。妊娠中にできる安全なケアは、ビタミンCのローションを塗る程度に留めるべきです。

肝斑は、出産を終えると自然に改善する方もいらっしゃいます。出産後の治療としては、トラネキサム酸(トランサミン)やビタミンCの内服が有効です。 トラネキサム酸は本来、医療現場では止血剤として使用される薬剤です。肝斑の改善効果はありますが、保険適用にはなっていないため、シミ治療を目的として健康保険を適用して処方することは違法に近い行為となります。肝斑治療のためのトラネキサム酸は「自費診療」で飲んでいただく必要がありますが、継続的に内服することで確実に消えていきます。 また、近年はピコトーニングなどの最新レーザー治療によって、肝斑を消すことも可能になっています。境界がはっきりしないため美容皮膚科において最も治療が難しいシミの一つですが、適切なアプローチで改善は見込めます。遺伝子がどこまで関与しているかは現時点では深く分かっておらず、女性ホルモンの急激な変化が引き金になることが主な要因です。

## 4. 全てのシミを防ぐ究極の対策「正しい紫外線ケア」

 シミの種類に関わらず、肌を美しく白く保つための絶対的な基本は「紫外線を徹底的に避けること」です。真夏のビーチに行くような行為は避けるべきです。若い頃に日焼けをして白く戻ったように見えても、皮膚の下には「隠れジミ」が存在し、昔受けた紫外線のダメージは遺伝子にしっかりと刻まれています。加齢とともに出現してくるため、紫外線を強く浴びるシチュエーションは避ける必要があります。

どうしても紫外線を浴びる状況では「日焼け止め」が不可欠です。日焼け止めには、UVBを防ぐ効果と、UVAを防ぐ効果の2種類があります。

  • UVBとSPFの真実 UVBは遺伝子を直接破壊する効果があるため、遮断することが必要です。これを防ぐのがSPFです。SPF1あたり20分間効果があるという意味で、SPF100であれば2000分効く計算になりますが、実際には汗や水、擦れなどですぐに落ちてしまいます。SPFの数値の高さよりも、「2時間ごとにこまめに塗り直すこと」が最も重要なポイントです。
  • UVAとPAの重要性 UVAは肌の老化(エイジング)にダイレクトに関係します。肌の老化防止という観点では、SPF以上にPAの数値が重要になってきます。PA+++(スリープラス)以上の製品を使用することをおすすめします。

また、紫外線吸収剤を使用したものはアレルギーを起こすことがあるため、反射するタイプ(散乱剤)を選ぶ方が良いでしょう。そして、日焼け止めを使用した後は、必ず洗顔をして寝てください。つけっぱなしにすると肌荒れの原因になります。

## 【さらなる深い理解のために:遺伝子解析と美容医療の最前線】

 動画内で言及された「エクソーム解析」についてさらに深掘りします。人間の遺伝子全体のうち、実際にタンパク質を作り出すための設計図となっている重要な部分をエクソン領域と呼びます。そばかすの原因となるMC1R遺伝子の変異も、このエクソン領域におけるアミノ酸変換の異常(ミスセンス変異など)によって発生します。 現代の医療において、この遺伝子検査は約9,800円という費用で受けることができ、自分がどのような遺伝的変異を持っているかを科学的に証明することが可能になりました。日本人において完全な赤毛の人は少ないものの、肌が白い人は弱い変異を持っていることが多く、その遺伝的背景を知ることは、美容皮膚科における治療方針を決定する上で重要な手がかりとなります。

老人性色素斑の発生メカニズムにおいても、単なる日焼けだけでなく、OCA2、MFSD12、TERTといった複数の遺伝子(ポリジェニック)が関与していることが明らかにされています。これらの遺伝子が組み合わさることで、長年の紫外線ダメージがシミとなって表面化します。レーザー治療が非常に有効である理由は、遺伝子自体を修復することはできなくても、蓄積された色素そのものを物理的に破壊できるためです。Qスイッチヤグレーザーやピコレーザーは、その色素破壊に特化した優れた医療機器です。

肝斑に関しては、妊娠中の女性ホルモンの急激な変化がメラノサイトを過剰に刺激します。妊娠中には、胎児への影響を考慮し、レチノールやハイドロキノンといった強力な外用薬の使用は絶対に避けるべきであるという医療上の厳格なルールが存在します。出産後にホルモン状態が落ち着いた後、トラネキサム酸の内服治療やマイルドなピコトーニングといった治療を開始することが、最も安全かつ効果的です。

最終的な肌の美しさは、自らの遺伝的性質を正確に理解し、それに基づいた「正しい紫外線対策」を生涯にわたって継続できるかどうかにかかっています。SPFやPAの意味を正しく理解し、2時間おきの塗り直しや夜の洗顔の徹底といった日々の習慣が、肌の若々しさを決定づけるのです。シミに悩むすべての人が、ご自身の遺伝的背景とホルモンバランス、そして正しい紫外線ケアの知識を持ち、より輝かしい毎日を送れるようになることを願っています。

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