「元気な赤ちゃんに生まれてきてほしい」 これから親になるお父さん、お母さんであれば、誰もが心の底からそう願うはずです。健康であることはもちろん、「賢い子になってほしい」「スポーツができる子に」「可愛い子に」と、愛する我が子の輝かしい未来を想像し、少しでも体に良いものを摂ろうと努力されていることでしょう。そのお気持ちは、医療の現場にいる私も本当によくわかります。
しかし、良かれと思ってやっていることや、日常生活の中で何気なく続けている習慣の中に、実は赤ちゃんの健康を脅かし、奇形リスクを増加させてしまう「危険な落とし穴」が潜んでいることがあります。「そんなつもりじゃなかった」と後悔しないために、妊娠を望む方や妊娠初期の方が絶対に知っておくべき、そして今すぐやめるべきNG習慣が存在します。
本コラムでは、お父さん・お母さんが無意識に犯してしまいがちな「絶対避けるべきNG習慣5選」について、データと医学的根拠に基づいて解説していきます。もし1つでも当てはまるものがあれば、今日からすぐに改めてください。
子供を作ろうと決意したご夫婦が、基礎体温を測り、排卵日や周期を正確に予測してタイミングを計ることは非常に素晴らしい取り組みです。しかし、ここで男性側が陥りがちな大きな間違いがあります。
それは、「精子をたくさん溜めておいた方が妊娠しやすいだろう」と勘違いし、3日間、1週間、場合によっては1ヶ月近くも「禁欲」をしてしまうことです。
これは医学的に明確なNG行動です。精子は男性の体内で毎日新しく作られ、精巣内に蓄えられていきますが、古い精子は時間の経過とともに「劣化」していきます。データ上でも、精子を3日以上体内に留めておくと、精子のDNA損傷率が有意に上昇することが分かっています。つまり、精子には「約2日」という非常に短い「賞味期限」があるのです。
賞味期限が切れ、DNAが傷ついた古い精子と卵子が受精すると、生まれてくる子供に不具合が生じるリスクが高まってしまいます。冷蔵庫に古い食品をいつまでも溜めてはいけないのと同じです。 妊娠を望むのであれば、毎日、あるいは2日に1回は射精(性交でもマスターベーションでも構いません)を行い、常にフレッシュでDNAが傷ついていない健康な精子を準備しておくことが、何よりも重要です。
女性にとって、妊娠中も美肌を保ちたいと願うのは当然のことです。しかし、ニキビ治療やアンチエイジングの目的で使用される「レチノール」成分には、胎児にとって致命的なリスクが潜んでいます。
特に重症なニキビ治療のために処方される「イソトレチノイン」などの飲み薬(内服薬)は、妊娠中および妊娠を希望する女性には絶対禁忌です。この薬はニキビに対して高い効果を発揮する一方で、胎児に重大な奇形を引き起こす強力な催奇形性を持っています。
原則として、妊娠の可能性がある女性には処方されるべきではありませんが、「どうしても治したい」と強く希望して処方を受けたり、リスク説明が不十分なまま処方されてしまったりするケースがゼロではありません。もし内服してしまった場合、服用終了後から「最低でも6ヶ月間(安全を期すなら1年間)」は絶対に妊娠を避ける必要があります。
また、内服薬だけでなく、「レチノール」と名のつく塗り薬(外用薬)や化粧品についても、妊娠中および妊活中は使用を避けるべきです。肌に直接塗るものであっても、経皮吸収されて胎児に影響を及ぼすリスクを完全に否定することはできません。美しい肌よりも、まずは赤ちゃんの安全を最優先し、レチノール製品の使用は一切中止してください。
近年「サウナで整う」ことがブームとなっていますが、妊娠を望む男性にとって、サウナは百害あって一利なしのNG習慣です。
なぜ男性の精巣(睾丸)は、体の中ではなく「陰嚢」という袋に入って体の外にぶら下がっているのでしょうか。それは、精子が「熱に非常に弱い」からです。精巣の温度を体内よりも少し低い状態に保つために、あえて体の外に配置されているという人体の神秘的な構造なのです。
サウナ室の温度は低くても60度〜90度近くに達します。このような高温の環境に週に何度も身を置けば、熱に弱い精子は死滅するか、著しく弱ってしまいます。精子の運動率が低下するだけでなく、奇形率が上昇することも分かっており、サウナは精子の質を著しく劣化させる直接的な原因となります。
また、サウナに限らず「熱い長風呂」もNGです。42度〜44度といった熱いお湯に長く浸かることは避けてください。お風呂に入るのであれば、39度程度のぬるめのお湯に10分〜20分程度浸かるか、シャワーだけで済ませるのが理想的です。
さらに、これは男性だけでなく女性(お母さん)にも当てはまります。 妊娠初期に母体の深部体温が38.9度以上に上昇すると、胎児の細胞分裂に悪影響を及ぼし、神経管閉鎖障害(二分脊椎や無脳症など)や流産のリスクが上昇することが分かっています。妊娠の可能性がある時期や妊娠初期は、熱い長風呂やサウナは絶対に控えてください。
妊娠初期は様々な栄養素が必要ですが、「ビタミンA」の過剰摂取には細心の注意が必要です。 妊娠初期にビタミンAを過剰に摂取すると、胎児の耳や心臓など、様々な臓器の形態異常(奇形)を引き起こすリスクが高まることが知られています。
妊婦のビタミンAの1日あたりの摂取上限量は2700μgRAEとされています。 ここで注意すべきは「動物性ビタミンA(レチノール)」を多く含む食品です。その代表格が「鶏レバー」や「豚レバー」です。例えば、焼き鳥の鶏レバーを1本食べるだけで、ビタミンAの含有量は約4000μgに達してしまい、たった1本で1日の上限量を軽々とオーバーしてしまいます。
「貧血予防のためにレバーを毎日食べる」といった習慣は、ビタミンAの過剰摂取に直結するため非常に危険です。ウナギなどもビタミンAを多く含むため、食べる頻度と量には注意してください。また、市販のマルチビタミンサプリメントや、一部の栄養ドリンク(チョコラBBなど)にもビタミンAが含まれていることがあるため、成分表示を必ず確認しましょう。
※ただし、緑黄色野菜(にんじん、かぼちゃ、ほうれん草など)に含まれる「β-カロテン(プロビタミンA)」は、体内で必要な分だけビタミンAに変換される仕組みになっているため、野菜から摂取する分には過剰症の心配はありません。安心してたっぷり食べてください。
最後に、絶対に忘れてはならないのが「葉酸」の摂取です。 「妊娠したら葉酸を摂るべき」ということは多くの女性が知っていますが、重要なのは「妊娠の初期の初期(妊娠6週まで)」に葉酸が最も必要とされるという事実です。
妊娠6週といえば、生理の遅れで妊娠に気づくか気づかないかという非常に早い段階です。この時期に葉酸が不足していると、胎児の脳や脊髄が作られる過程で重大なエラーが生じ、「神経管閉鎖障害(無脳症、二分脊椎など)」という重篤な奇形を引き起こすリスクが高まります。妊娠に気づいてから慌てて飲み始めるのでは遅いのです。だからこそ、「妊娠を考えたその日から」必ず葉酸サプリメントを摂取してください。
そしてもう一つ、最新の知見として強くお伝えしたいのは、「お父さん(男性)も葉酸を摂るべきである」ということです。 男性が葉酸不足の状態で受精に至ると、精子のDNAのメチル化(遺伝子のスイッチのON/OFF)がうまくいかず、生まれてくる子供の自閉症やADHDなどの発達障害のリスクが約20%上昇するというデータが報告されています。葉酸は決して「お母さんだけのもの」ではありません。夫婦で同じサプリメントを飲み、万全の体制で赤ちゃんを迎える準備を整えましょう。

今回ご紹介した5つのNG習慣は、知っていれば今日からすぐに防ぐことができるものばかりです。
もし、「すでにNG行動をやってしまっていたかも…」と不安に思われた方がいらっしゃっても、過度にパニックになる必要はありません。
子供の健康を願う親であれば、お腹の中の赤ちゃんが元気に育っているかどうかを知りたいと思うのは当然の感情です。私は、音楽を聴かせる「胎教」があるように、胎児の健康を医学的に確認する「胎健(たいけん:胎児の健康診断)」という概念が、これからの日本の当たり前になるべきだと考えています。
「出生前診断」と聞くと、病気を探すネガティブな検査というイメージを持たれがちですが、実際には「95%以上の赤ちゃんが健康であることを確認し、安心を得るための健康診断」です。もし不安があるのなら、胎児ドック(超音波検査)やNIPT(新型出生前診断)、さらには両親のキャリアスクリーニングテスト(保因者検査)など、現代の進歩した遺伝子検査を積極的に活用してください。これからの時代、こうした「胎健」を受けることは、22世紀、23世紀と進むにつれて、全ての妊婦さんが当たり前に行うスタンダードになっていくはずです。
正しい知識と最新の医療を活用し、不安を安心に変えて、最高のマタニティライフを送っていただきたいと思います。
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