【本編】
発達障害と高齢出産の因果関係
質問者:
まずそもそもなんですけど、高齢出産になると発達障害のリスクって、本当に上がるんですか?
医師:
実際の研究を見てみると、「親の年齢と発達障害のリスク」に一定の関係が見られるのは事実なんです。
【質問者】
じゃあ具体的には、どんなデータがあるんですか?
【医師】
具体的なデータを見てみましょう。
特にASDと言われる自閉スペクトラム症については、母親が35歳を超えるとリスクが“やや高まる傾向”があると報告されています。
母親が25〜29歳を基準にすると、35〜39歳では約1.2〜1.4倍、40歳以上では約1.5〜2.0倍という報告があります。
また、父親が50歳以上の場合は約2倍になるという研究結果もあります。
このように母親の場合は30歳を過ぎたあたりから少しずつ上昇していく傾向があります。一方で父親の場合は、年齢が上がるほど比較的直線的にリスクが上昇していくという報告があるんです。
質問者:
でも、なんで年齢が高いとASDのリスクが上がる“傾向”が出るんでしょう?
医師:
仮説レベルですが、いくつか生物学的メカニズムが議論されています。
1つは精子・卵子の加齢に伴う変化で、特に男性は一生涯にわたって精子幹細胞が分裂を繰り返すため、de novo変異が積み重なりやすいという説明です。もう1つはエピジェネティクスと呼ばれる遺伝子の働き方の変化や、周産期合併症が増えやすいといった間接的経路です。ただし、どれも決定打ではないので、「年齢=単独原因」と短絡しないことが大切です。
【質問者】
じゃあ、親ができる工夫や予防みたいなものはあるんですか?
【医師】
もちろんです。母親・父親の年齢以外にも“修正可能な要因”があります。
妊娠前からの健康管理、葉酸を含む適切な栄養、妊娠中の感染・喫煙・飲酒の回避、出産施設の選択など、できることはたくさんあるんです。年齢はコントロールできない要素ですが、他の要因で全体リスクを下げる努力は可能です。
また、早期発見・早期支援がアウトカムを大きくよくすることも、確かなエビデンスとして積み上がっています。
質問者:
「量産製造行為」なんて言い回しは、数字の読み方を間違えたうえに、当事者や家族を傷つけますよね…。
医師:
まさにそこです。高齢出産の方を責める言説は科学的にも倫理的にも適切ではありません。データが示すのは「リスクが少し上がる傾向がある」まで。しかも絶対リスクは低い。それに、ASDの特性は多様で、適切な支援があれば強みが花開くケースも多くあります。だからこそ、レッテル貼りではなく、知識と支援で向き合う姿勢が大切だと考えています。
【質問者】
ASD以外の発達障害でも同じような傾向があるんですか?
【医師】
実は注意欠如・多動症であるADHDはASDとは逆の傾向が報告されています。
ADHDでは、むしろ親が“若い”こととリスクが関連しやすいんです。メタ解析によると、リスクが最も低いのは 31〜35歳 の範囲なのです。
つまり「高齢出産=発達障害を量産する」という言説は、学術的にもズレているんです。
質問者:
最近、若い人の障害についてもよく聞くようになった気がしてるんですけど本当ですか?。
先生:
実はここで大事なのは、「増えている=患者さん自体が急に増えた」というよりも、「診断できるようになった」という側面なんです。
質問者:
診断できるようになった…ってどういうことですか?
先生:
昔は「ちょっと個性的だね」とか「性格の問題かな」とされていた人が、今ではきちんと「発達障害」と診断されるようになりました。診断の基準や技術が進歩したことで、今まで見過ごされてきた人が見つかるようになったんです。
質問:
なるほど。じゃあ本当に“患者さんが増えた”というより、“見つけられるようになった”ということなんですね。他にどんな変化がありますか?
先生:
ほかに、環境や社会の変化も見逃せません。
例えば教育の現場。先生や学校が発達特性に気づけるようになったことで、子ども時代に診断されるケースが増えました。
さらに、大人になってから診断を受ける人も珍しくなくなっています。子どもの頃は見過ごされていたけど、社会に出てから「やっぱり自分はADHDだったんだ」と気づくケースもあるんです。
それから生活環境の変化、出産年齢の上昇だけでなく、都市化やストレス、妊娠中の環境要因も複合的に関わっています。
| 「増えたように見える」理由 |
| 診断技術の進歩 |
| 社会の理解の進展 |
| 大人の診断の増加 |
| 環境要因の影響 |
質問者:
なるほど…。診断がつきやすくなったって側面も大きいんですね。
先生:
そうなんです。SNSやYouTubeで「自分はADHDかもしれない」って発信する若い人が増えているのも、その証拠のひとつです。昔に比べて社会全体で理解が進んだからこそ、診断や支援につながる人が増えたんです。
質問者:
発達障害の話をしてきましたが、せっかくなので他のリスクについてもお聞きしたいです。
先生:
代表的なのはやはり染色体異常です。
たとえば有名なのがダウン症の21トリソミー。これは母親の年齢と一緒に確率が上がっていきます。
表をご覧ください。
20歳では約1667分の1、30歳では約952分の1、35歳では約385分の1、40歳では約106分の1と年齢によって差が大きくなることがわかります。
他に代表的なものを挙げると妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、帝王切開の可能性が高まるといったリスクもあります。
ただし、これらのリスクは「絶対に避けられない」ものではありません。
むしろ、定期的な健診や医学的管理で早めに対処すれば、十分に乗り越えられることが多いんです。
質問者:
リスクはあるけど、ちゃんと備えれば乗り越えられるんですね。
先生:
その通りです。
「高齢出産=危険」という極端な考え方ではなく、リスクを理解した上で準備することが何より大切なんです。
質問者:
発達障害やダウン症など事前に赤ちゃんの状態を知るにはどうすればいいですか?
先生:
妊娠中に事前に知ることができる方法として、NIPT新型出生前診断などの出生前検査です。
お母さんの血液に含まれている胎児由来のDNAを解析して、ダウン症の21トリソミーや18トリソミー、13トリソミーといった染色体の数の異常を早い段階で調べることができるんです。
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