常染色体顕性知的発達障害23型(MRD23/SETD5関連障害)

赤ちゃん

遺伝子検査の結果報告書に記された「Intellectual developmental disorder, autosomal dominant 23(MRD23)」という長い英語の診断名、あるいは「SETD5遺伝子の変異」や「3p25.3欠失」という結果を見て、情報を求めてこのページにたどり着かれたご家族の方へ。

医師から「遺伝子の変化による生まれつきの体質です」と説明を受け、さらに「言葉の発達がゆっくりになります」や「少し特徴的なお顔立ちをしています」といった話をされて、聞き慣れない病名に戸惑い、将来への不安を感じていらっしゃるかもしれません。

特に、「23型」という番号がついた診断名は、医学的な分類のための名称であり、一般的な病名として耳にすることはまずありません。インターネットで検索しても、日本語の詳しい情報はほとんど見つからず、海外の専門的な論文ばかりが出てきて、途方に暮れている方もいらっしゃるでしょう。

まず最初に、言葉の整理をさせてください。

この「常染色体顕性知的発達障害23型」は、近年では原因となる遺伝子の名前をとってSETD5関連障害(SETD5-related disorder)、あるいは3p25.3微細欠失症候群の一部として扱われることが一般的になってきています。

これは、第3番染色体にあるSETD5(セットディーファイブ)という遺伝子の変化によって引き起こされる先天性の疾患です。

全体的な発達の遅れや、言葉の遅れ、特徴的な顔立ち、そして自閉スペクトラム症のような行動特性を主な特徴とします。

非常に希少な疾患ですが、近年の遺伝子解析技術、特にマイクロアレイ検査や全エクソーム解析などの進歩により、これまで原因不明の発達遅滞とされていた方の中に、この病気の方が含まれていることがわかってきました。そのため、診断される患者さんの数は世界中で少しずつ増えています。

まず最初にお伝えしたいのは、診断名はお子さんの未来を全て決定づけるものではないということです。

お子さんには、その子だけの素晴らしい個性と、成長していく力があります。

あまり恐れすぎず、一つひとつ知識を整理していきましょう。

概要:どのような病気か

まず、この病気がどのような位置づけにあるのか、そして全体としてどのような特徴があるのかを理解しましょう。

病名の意味と「優生(優性)」について

検索されたキーワードに「優生遺伝」とありましたが、これは医学用語の「優性遺伝」のことだと思われます。

現在、日本医学会では差別的な意味合いや、「優れている」という誤解を避けるため、「優性遺伝」を顕性遺伝(けんせいいでん)、「劣性遺伝」を潜性遺伝(せんせいいでん)と言い換えるようになっています。

したがって、この病気の正式名称は「常染色体顕性知的発達障害23型」となります。

ここでの「顕性」とは、「優れている」という意味ではなく、「両親から受け継ぐ2つの遺伝子のうち、片方に変化があれば症状として現れる(隠れずに表に出る)」という遺伝の形式を表しているに過ぎません。

つまり、「知的発達障害を引き起こす遺伝子変異の中で、23番目に登録された顕性遺伝のタイプ」という意味です。

全体的な特徴

MRD23の原因遺伝子はSETD5です。

この遺伝子は、脳の神経細胞の発達や、記憶や学習に関わるプロセスを調整する役割を持っています。

この遺伝子がうまく働かないことで、脳の発達スピードや情報処理の仕方に変化が生じます。

主な特徴は、中等度から重度の知的発達の遅れ、特に言葉の遅れです。

また、顔立ちにいくつかの共通する特徴(長い顔、管状の鼻など)が見られることや、手足の骨格に軽微な変化が見られることもあります。

行動面では、自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症(ADHD)のような特性を持つことが多く、療育や環境調整によるサポートが重要になります。

主な症状

知的発達障害23型(MRD23)の症状は、発達の特徴、身体的な特徴、そして行動面の特徴の3つに大きく分けられます。

すべての症状が全員に現れるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。

1. 神経発達と知的な特徴

ご家族が最初に「あれ?」と感じ、病院を受診するきっかけとなるのがこの発達の遅れです。

全般的な精神運動発達遅滞

首すわり、お座り、ハイハイ、歩行などの運動機能の発達が、一般的な時期よりも遅れる傾向があります。

歩き始めが1歳半から2歳、あるいはそれ以降になることもあります。

筋肉の張りが弱い筋緊張低下が見られることもあり、全体的に体が柔らかく、姿勢を保つのが苦手な場合があります。

言語発達の遅れ

この疾患において、比較的目立つ症状の一つです。

言葉が出始めるのが遅く、話し始めても単語が中心だったり、複雑な文章を作るのが苦手だったりします。

こちらの言っていることを理解する力(受容言語)に比べて、自分で言葉を話す力(表出言語)がより強く影響を受ける傾向があります。

構音障害といって、発音が不明瞭で聞き取りにくい場合もあります。

知的障害

中等度から重度の知的障害が見られることが多いですが、軽度のお子さんもいます。

新しいことを学習するのに時間がかかったり、抽象的な概念を理解するのが苦手だったりします。

しかし、視覚的な情報処理が得意なお子さんも多く、絵や写真を使うことで理解が進むことがあります。

2. 身体的な特徴

MRD23には、専門医が見ると気づくような共通した顔立ちの特徴(特異的顔貌)があります。ただし、これらは成長とともに変化したり、ご家族に似ている部分も大きかったりするため、必ずしも全員に当てはまるわけではありません。

顔貌の特徴

面長な顔立ち。

眉毛が濃く、一直線に近い形をしている、または弓なりになっている。

鼻の形が特徴的で、鼻筋が通っており、鼻先が筒状(管状鼻)に見えることがある。

鼻と口の間(人中)が長い。

唇が薄い、あるいは上唇が山型になっている。

耳の位置が低い、あるいは耳の形が変わっている。

骨格の特徴

手の小指が短い(短指症)あるいは内側に曲がっている(内反指)。

親指の位置や形に特徴がある。

背骨が曲がる側弯症や、胸の形がへこむ漏斗胸が見られることがあります。

その他の合併症

眼科的問題:斜視、乱視、遠視などが見られることがあります。まぶたが下がっている眼瞼下垂が見られることもあります。

心疾患:心室中隔欠損症などの先天性心疾患を合併することがありますが、頻度はそれほど高くありません。

消化器症状:乳児期の哺乳困難や、便秘が見られることがあります。

鼠径ヘルニアや停留精巣(男の子の場合)が見られることがあります。

3. 行動面・精神面の特徴

脳の発達の違いは、行動や感情のコントロールにも影響を与えます。

自閉スペクトラム症(ASD)の傾向

視線が合いにくい、名前を呼んでも反応が薄い、特定の遊びにこだわる、変化を嫌うといった特徴が見られることがあります。

人との関わりに関心が薄いように見えることもありますが、慣れた人には笑顔を見せるなど、その子なりの社会性を持っています。

手をパタパタさせたり、体を揺らしたりする常同行動が見られることもあります。

注意欠如・多動症(ADHD)の傾向

じっとしているのが苦手で動き回ってしまったり、集中力が続かなかったり、衝動的に行動してしまったりすることがあります。

不安や強迫性

新しい場所や環境に対して強い不安を感じたり、特定の手順や配置に強くこだわったりする強迫的な行動が見られることがあります。

また、感情の起伏が激しく、かんしゃくを起こしやすいこともあります。

原因

なぜ、言葉が遅れたり、顔立ちに特徴が出たりするのでしょうか。その原因は、遺伝子の働きを調節する「司令塔」のようなタンパク質の不具合にあります。

SETD5遺伝子の役割

この病気の原因は、第3番染色体にあるSETD5(SET domain containing 5)という遺伝子の変異です。

この遺伝子は、メチルトランスフェラーゼという酵素の一種と考えられているタンパク質を作る設計図です。

エピジェネティクスと遺伝子のスイッチ

私たちの体には約2万個の遺伝子がありますが、それらが全て常に働いているわけではありません。必要な時に、必要な遺伝子だけが働くようにスイッチが調節されています。

SETD5が作るタンパク質は、ヒストンというDNAが巻き付いている糸巻きに目印をつけることで、他の遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする役割を持っています。

これを専門的にはエピジェネティクス制御、あるいはクロマチン制御と呼びます。

特に、脳の発達や神経細胞の機能維持に関わる重要な遺伝子たちの働きをコントロールしていると考えられています。

何が起きているのか(ハプロ不全)

MRD23では、2つあるSETD5遺伝子のうちの片方が変異して機能しなくなる、あるいは欠失してなくなってしまうことで、作られるタンパク質の量が半分になってしまいます。これをハプロ不全と呼びます。

司令塔となるタンパク質が半分しかいないため、脳の発達に必要な他の遺伝子たちのコントロールがうまくいかなくなります。

その結果、神経細胞の発達バランスが崩れたり、ネットワーク形成がスムーズにいかなくなったりして、知的障害や特徴的な身体症状が現れると考えられています。

遺伝について(顕性遺伝と突然変異)

この病気は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という形式をとります。

人間は遺伝子を2本セットで持っていますが、そのうちの片方のSETD5遺伝子に変異があれば発症します。

しかし、この病気の患者さんのほとんどは、ご両親から遺伝したわけではありません。

ご両親の遺伝子は正常で、お子さんの代で初めて遺伝子の変化が起こる新生突然変異(de novo変異)のケースが圧倒的に多いです。

これは、受精卵ができる過程、あるいは精子や卵子ができる過程で偶然に起きたコピーミスのようなものであり、誰のせいでもありません。

妊娠中の生活習慣やストレス、高齢出産などが直接的な原因で起こるものではありません。

したがって、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般のカップルとほとんど変わりません(ただし、稀に性腺モザイクという現象があるため、心配な場合は遺伝カウンセリングでの相談が推奨されます)。

医者

診断と検査

診断は、特徴的な症状の観察だけでは難しく、遺伝学的検査によって確定されます。

1. 臨床診断の難しさ

発達の遅れや自閉的な傾向は、他の多くの病気でも見られる症状です。

また、顔立ちの特徴も、専門医でなければ気づかないほど軽微な場合もあります。

そのため、見た目だけでSETD5関連障害と診断することは不可能です。

これまでは「原因不明の知的障害」や「自閉スペクトラム症」、「3p欠失症候群」と診断されていることが多くありました。

2. 遺伝学的検査

確定診断のために最も確実な検査です。

染色体マイクロアレイ検査

SETD5遺伝子を含む第3番染色体の一部(3p25.3領域)がごっそりとなくなっている欠失(微細欠失)を調べる検査です。

この場合、SETD5以外の隣接する遺伝子も一緒に失われている可能性があるため、症状が少し異なる場合がありますが、主な原因はSETD5の欠失と考えられています。

全エクソーム解析・遺伝子パネル検査

染色体の欠失ではなく、SETD5遺伝子の中の文字が書き換わっているような点変異を調べる検査です。

最近では、発達障害に関連する多くの遺伝子を一度に網羅的に調べる検査が行われることが増えており、これにより偶然SETD5遺伝子の変異が見つかり、診断に至るケースが増えています。

3. その他の検査

診断の補助や合併症のチェックのために、以下の検査が行われることがあります。

脳のMRI検査:脳の構造に大きな異常がないかを確認します。基本的には正常であることが多いですが、脳室が少し大きいなどの軽微な変化が見られることもあります。

脳波検査:てんかんの疑いがある場合に行いますが、てんかんの合併率はそれほど高くありません。

心エコー検査:心疾患の有無を確認します。

眼科検査:視力や斜視の確認を行います。

治療と管理

現在の医学では、遺伝子を修復してタンパク質の量を元通りにする根本的な治療法はまだ確立されていません。

しかし、それぞれの症状に対して適切な治療や療育を行うことで、お子さんの持っている力を最大限に引き出し、生活の質を高めることができます。

1. リハビリテーション(療育)

お子さんの発達を促すために、早期からの療育が非常に重要です。

言語聴覚療法(ST)

言葉の遅れに対して、コミュニケーションの支援を行います。

言葉の理解を深める遊びを取り入れたり、発音の練習をしたりします。

言葉が出にくい場合でも、ジェスチャー、絵カード、写真、タブレット端末など、その子に合ったコミュニケーション手段(AAC)を見つけることが大切です。

「伝えたいことが伝わる」という経験を積み重ねることで、コミュニケーションへの意欲が育ち、かんしゃくなどの行動も減ることが期待できます。

理学療法(PT)

運動発達の遅れや筋緊張低下に対して、体の中心(体幹)を鍛え、バランス感覚を養う訓練を行います。

お座りや歩行などの基本動作の獲得をサポートします。

作業療法(OT)

手先の使い方や、遊びを通じた発達支援を行います。

日常生活動作として、スプーンを持って食べる、着替える、靴を履くなどの練習をします。

感覚過敏がある場合は、感覚統合療法などを取り入れて、感覚の受け取り方を調整する練習を行うこともあります。

2. 教育と生活のサポート

環境調整

自閉的傾向や多動がある場合、落ち着いて過ごせる環境を作ることが大切です。

刺激を減らした静かなスペースを用意したり、一日のスケジュールを絵や写真で示して見通しを持たせたりする工夫(構造化)が役立ちます。

学校選び

就学時には、特別支援学校や特別支援学級など、お子さんの特性に合わせた教育環境を選ぶことが大切です。

個別の指導計画を作成し、一人ひとりのペースに合わせた学習や生活の自立に向けた支援を行います。

少人数のクラスで、丁寧にコミュニケーションの練習をすることが、お子さんの安心感につながります。

3. 合併症の管理

眼科・耳鼻科ケア

定期的な眼科検診を行い、斜視や遠視があれば眼鏡などで矯正します。

中耳炎になりやすい場合もあるため、耳鼻科でのケアも大切です。

歯科ケア

歯並びの問題や虫歯のリスク管理のために、定期的な歯科検診とクリーニングを行います。

心疾患の管理

心疾患がある場合は、循環器科での定期的なフォローアップが必要です。

まとめ

知的発達障害23型(MRD23/SETD5関連障害)についての解説をまとめます。

  • 病気の本質: SETD5遺伝子の変異により、脳の発達を調整する司令塔が不足し、知能や言語の発達に影響が出る先天性の疾患です。
  • 主な特徴: 全般的な発達の遅れ、特に言葉の遅れ、中等度から重度の知的障害自閉スペクトラム症の傾向、特徴的な顔立ちなどが特徴です。
  • 原因: 親からの遺伝ではなく、突然変異によるものが大半です。「顕性遺伝」という形式をとります。
  • 治療: 根本治療はありませんが、言語聴覚療法などの療育、環境調整によって、コミュニケーション能力を伸ばし、生活の質を向上させることができます。
  • 予後: ゆっくりですが確実に成長します。多くの患者さんが、それぞれの方法で周囲との関わりを持っています。

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