常染色体潜性脊髄小脳失調症1型

Autosomal Recessive Spinocerebellar Ataxia 1, SETX

概要

常染色体潜性脊髄小脳失調症1型(眼球運動失行を伴う失調症2型・AOA2)は、10代に発症して、歩行のふらつきと手足の動かしにくさが少しずつ進む病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、SETX 遺伝子の変化が原因となります。

血液検査でαフェトプロテイン(AFP)が高くなるのが特徴で、これが診断の重要な手がかりになります。

原因

SETX 遺伝子は、セナタキシンというDNA/RNAヘリカーゼの設計図です。この酵素は、DNAが傷ついたときの修復や、RNAの処理に関わっています。

この遺伝子に変化があると、DNAの傷が修復されにくくなり、とくに小脳のプルキンエ細胞と末梢神経が少しずつ失われていきます。

症状

  • 10〜20代の発症(平均15歳前後)
  • 歩行のふらつき(小脳失調):最初の症状であることが多い
  • 末梢神経の障害:手足のしびれ、感覚の低下、腱反射の消失
  • 眼球運動失行(目を素早く動かせず、頭を振って追う):全例ではありません
  • 構音障害(ろれつが回らない)
  • 血清αフェトプロテイン(AFP)の上昇
  • 知能は保たれることが多い
  • 進行し、10〜15年ほどで車椅子が必要になることがあります

検査・診断

10代発症の進行性小脳失調に末梢神経障害を伴い、血清AFPが高いことから疑います。頭部MRIで小脳(とくに虫部)の萎縮を確認します。SETX 遺伝子の解析によって確定します。毛細血管拡張性運動失調症(AT)でもAFPが上がるため、鑑別が必要です。

治療

  • 根本的に治す方法は確立していません
  • 理学療法・作業療法による機能の維持
  • 歩行補助具、車椅子など、進行に応じた環境の整備
  • 言語療法
  • 定期的な神経学的評価
  • ATと異なり、悪性腫瘍のリスクや免疫不全は伴いません

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる SETX 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SETX 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

キャリアスクリーニングテスト(228種類)

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。キャリアスクリーニングテストでは、ご夫婦がこの疾患のキャリアかどうかを頬の内側の粘膜から調べ、お子さまに受け継がれる可能性を、妊娠前や出生前に予測することができます。

検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト228 のページをご覧ください。

専門的な解説

常染色体潜性脊髄小脳失調症1型(SCAR1)は、眼球運動失行を伴う失調症2型(ataxia with oculomotor apraxia type 2, AOA2)と同一疾患で、SETX(9q34.13)の両アレル変異による。

セナタキシンはRNA/DNAヘリカーゼで、転写終結、R-loopの解消、DNA二本鎖切断修復に関与する。機能喪失によりゲノム不安定性が生じ、小脳プルキンエ細胞と後根神経節細胞が変性する。

血清AFP高値(多くは10〜100 ng/mL)は本症の最も有用な生化学的マーカーであり、若年発症の失調症では必ず測定すべきである。AFP高値をきたす失調症としては、毛細血管拡張性運動失調症(ATM)、AOA4(PNKP)、AOA2が挙げられ、これらの鑑別が必要となる。ATでは免疫不全と悪性腫瘍リスクを伴うが、AOA2では伴わない。

AOA1(APTX)はより若年(幼児期)に発症し、低アルブミン血症・高コレステロール血症を呈するのに対し、AOA2は思春期発症でAFP高値を示す点が対照的である。SETX のヘテロ接合性ミスセンス変異は、常染色体顕性の若年発症ALS(ALS4)を引き起こす。

よくある質問

Q. AFPが高いと言われました。がんですか?

A. この病気では、がんがなくてもAFPが高くなります。若い方の進行性のふらつきでAFPが高い場合、この病気を含む一群の疾患を考えます。

Q. 毛細血管拡張性運動失調症とどう違うのですか?

A. どちらもAFPが高くなりますが、毛細血管拡張性運動失調症では免疫不全とがんのリスクを伴います。この病気ではそれらは伴いません。

Q. どのように進行しますか?

A. 個人差がありますが、発症から10〜15年ほどで歩行が難しくなることがあります。理学療法で機能の維持を図ります。

Q. 知能に影響しますか?

A. 保たれることが多いとされています。

Q. 次の子も同じ病気になりますか?

A. 常染色体潜性(劣性)遺伝です。ご両親がどちらもキャリア(保因者)の場合、妊娠のたびに4分の1の確率です。

参考文献

  • Moreira MC, Klur S, Watanabe M, et al. Senataxin, the ortholog of a yeast RNA helicase, is mutant in ataxia-ocular apraxia 2. Nat Genet. 2004;36(3):225-227.
  • Anheim M, Monga B, Fleury M, et al. Ataxia with oculomotor apraxia type 2: clinical, biological and genotype/phenotype correlation study of a cohort of 90 patients. Brain. 2009;132(Pt 10):2688-2698.
  • Chen YZ, Bennett CL, Huynh HM, et al. DNA/RNA helicase gene mutations in a form of juvenile amyotrophic lateral sclerosis (ALS4). Am J Hum Genet. 2004;74(6):1128-1135.
  • OMIM #606002 Spinocerebellar ataxia, autosomal recessive 1
医師監修 監修日:2026年9月8日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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