概要
骨粗鬆症・偽神経膠腫症候群は、子どもの頃から骨がもろくなる重い骨粗鬆症と、生まれつき、または乳児期からの重い視力障害をあわせもつ病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、LRP5(11q13)遺伝子の変化が原因となります。
病名の「偽神経膠腫」とは、目の奥の網膜の異常によって瞳が白く見えるなど、網膜芽細胞腫(目のがん)に似た見え方をするものの、腫瘍ではない状態を指します。目の症状は生後まもなく、または乳児期に気づかれることが多く、骨折は幼児期から学童期にかけて繰り返すようになります。非常にまれな病気で、報告されている患者さんの数は多くありません。
LRP5 遺伝子は、変化の種類によっていくつかの異なる病気を起こします。この症候群は、両親から受け継いだ2つの LRP5 遺伝子の両方のはたらきが大きく失われたときに起こり、骨と目の両方に重い症状が出るのが特徴です。片方だけの変化では、症状がないか、骨密度がやや低い程度、または目だけの病気(家族性滲出性硝子体網膜症)となることがあります。反対に、はたらきが強まる変化では、骨が硬く厚くなる「高骨量」となり、この症候群とは正反対の状態になります。
原因
LRP5 は細胞の表面にある受け手(受容体)の一つで、「Wnt(ウィント)シグナル」という、細胞に「育て」「増えよ」と伝える合図を受け取るはたらきをしています。
骨では、この合図が骨をつくる細胞(骨芽細胞)を増やし、骨の量を保つために欠かせません。LRP5 がはたらかないと、成長期に骨を十分に蓄えることができず、骨が細く、もろくなります。目では、同じ合図が網膜の血管が正しく育つことと、胎児期に目の中にあった血管が生まれる前に消えていくことに関わっています。この過程がうまく進まないと、網膜の血管が育たず、網膜剥離や目の中の濁りが起こり、重い視力障害につながります。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 重い視力障害:生まれつき、または乳児期から見えにくく、多くは幼いうちに視力をほとんど失います
- 瞳が白く見える(白色瞳孔)、眼振(目の揺れ)、目で物を追わない:ご家族が最初に気づくきっかけになります
- 網膜剥離、硝子体の濁りや出血、小眼球、のちに眼球が小さく縮むこと、白内障
- 子どもの頃からの重い骨粗鬆症:小さな力で骨折を繰り返します。骨折は歩き始める頃から目立ってくることが多いです
- 手足の骨の変形、背骨の圧迫骨折や曲がり(側弯・後弯)、低身長
- 関節のゆるさ、筋肉の張りの弱さ
- 一部の患者さんで、知的発達の遅れが報告されています
検査・診断
多くは、乳児期に目の異常(瞳が白く見える、目で物を追わない、眼振)で眼科を受診し、網膜剥離や硝子体の異常が見つかることから始まります。網膜芽細胞腫との区別が重要で、眼科での詳しい診察や画像検査が行われます。その後、骨折を繰り返すようになり、X線検査や骨密度検査で、年齢に比べて著しく低い骨密度が確認されます。
妊娠中の超音波検査では、この病気の特徴を見つけることは一般に難しいとされています。確定診断は遺伝学的検査で行い、LRP5 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。骨形成不全症など、骨がもろくなるほかの病気と区別し、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。骨折を減らし、見え方に合わせた生活を支えるための治療と支援を、小児科・整形外科・眼科などが連携して長く続けていくことが大切です。
- 骨を強くする薬(ビスホスホネート製剤):骨密度が上がり、骨折が減ったという報告があります。効果や副作用には個人差があるため、専門医のもとで経過をみながら使います
- 骨折と変形への整形外科的治療:骨折の治療、骨の変形の矯正手術、背骨の曲がりへの対応
- 転倒予防と、安全に体を動かすためのリハビリテーション
- 眼科での定期的な診察:網膜の状態によっては手術が検討されますが、視力の回復が難しい場合も多いのが現状です
- 視覚障害への支援:早期からの療育、点字や音声を使った学習、歩行訓練など
- ご家族への心理的支援と、福祉制度の活用
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる LRP5 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、LRP5 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
LRP5(low-density lipoprotein receptor-related protein 5)はFrizzled 受容体とともに働く canonical Wnt/β-カテニン経路の共受容体である。骨では骨芽細胞の増殖と骨形成を促し、成長期の最大骨量(peak bone mass)の獲得を規定する。眼では Norrin–FZD4–LRP5–TSPAN12 経路を介して網膜血管の発生と硝子体血管系(hyaloid vasculature)の退縮に関与する。本症候群では両アレルの機能喪失型変異により、硝子体血管の遺残、網膜無血管野、牽引性網膜剥離を来し、乳児期の失明に至る。
LRP5 は機能の向き(喪失か獲得か)と量によって表現型が分かれる。両アレル機能喪失は本症候群(骨と眼の両方が重症)、ヘテロ接合の機能喪失は無症状〜骨密度低値、若年性・特発性骨粗鬆症、あるいは家族性滲出性硝子体網膜症4型(眼症状のみ)を呈しうる。一方、DKK1 や SOST による抑制を受けにくくなる機能獲得型ヘテロ接合変異は、常染色体顕性の高骨量(骨硬化症、内骨膜性骨増殖症)を起こす。本症候群の保因者でも骨密度が低めであることが報告されており、保因者自身の骨の健康にも留意が望まれる。
鑑別としては、眼所見から網膜芽細胞腫、ノリエ病(NDP、X連鎖)、家族性滲出性硝子体網膜症(FZD4、TSPAN12、NDP、LRP5)、第一次硝子体過形成遺残、骨所見から骨形成不全症、特発性若年性骨粗鬆症が挙がる。眼と骨の両方に所見があれば本症候群を強く疑う。遺伝形式が異なる疾患(X連鎖、常染色体顕性)が含まれ、次子再発率が大きく変わるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。キャリアの方は多くの場合症状がありませんが、骨密度がやや低めになることがあると報告されています。ご家族の状況に合わせて、遺伝カウンセリングで詳しくご説明します。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 妊娠中の超音波検査で、この病気の特徴を見つけることは一般に難しいとされています。前のお子さまやご家族で原因となる遺伝子の変化がわかっている場合は、出生前検査や着床前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 同じ遺伝子で別の病気もあると聞きました。
A. はい。LRP5 遺伝子の変化は、その種類によって、目だけの病気、骨密度がやや低い状態、逆に骨が硬く厚くなる状態など、異なる病気を起こします。骨と目の両方に重い症状が出るのは、2つの遺伝子の両方のはたらきが大きく失われたこの症候群の特徴です。
Q. 骨折を減らすためにできることはありますか。
A. 骨を強くする薬(ビスホスホネート製剤)で骨密度が上がり、骨折が減ったという報告があります。あわせて、転びにくい住まいの工夫や、安全に体を動かすリハビリテーションも大切です。効果には個人差があるため、専門医と相談しながら進めてください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Gong Y, Slee RB, Fukai N, et al. LDL receptor-related protein 5 (LRP5) affects bone accrual and eye development. Cell. 2001;107(4):513-523.
- Ai M, Heeger S, Bartels CF, Schelling DK; Osteoporosis-Pseudoglioma Collaborative Group. Clinical and molecular findings in osteoporosis-pseudoglioma syndrome. Am J Hum Genet. 2005;77(5):741-753.
- Boyden LM, Mao J, Belsky J, et al. High bone density due to a mutation in LDL-receptor-related protein 5. N Engl J Med. 2002;346(20):1513-1521.
- Toomes C, Bottomley HM, Jackson RM, et al. Mutations in LRP5 or FZD4 underlie the common familial exudative vitreoretinopathy locus on chromosome 11q. Am J Hum Genet. 2004;74(4):721-730.
- OMIM #259770 Osteoporosis-pseudoglioma syndrome; OPPG. Online Mendelian Inheritance in Man.
