概要
先天性副腎低形成症は、生まれつき副腎(腎臓の上にある小さな臓器)が十分に育たず、生きるために欠かせないホルモンをつくれなくなる病気です。X連鎖潜性(劣性)遺伝の形式をとり、NR0B1(Xp21.2)遺伝子の変化が原因となります。このため、発症するのは主に男の子です。
副腎がつくるホルモンが足りないと、体から塩分が失われ、血糖が下がり、ショック状態(副腎クリーゼ)に陥ることがあります。多くは生後まもなくから乳児期に、哺乳不良・嘔吐・脱水で気づかれますが、なかには幼児期や学童期になってから、まれに成人になってから見つかる方もいます。ホルモンを補う治療を続けることで、多くの方が日常生活を送ることができます。
この病気のもうひとつの特徴は、思春期になっても性ホルモンを出す指令が脳から十分に出ない「低ゴナドトロピン性性腺機能低下症」を伴うことです。副腎の病気と思春期の遅れが組み合わさる点が、ほかの副腎の病気との大きな違いです。
NR0B1 遺伝子は、変化の種類によって別の病気を起こすこともあります。遺伝子のはたらきが失われるとこの先天性副腎低形成症になり、反対に遺伝子が重複して多すぎると、染色体が男性型(46,XY)でも体が女性型に発達する「性分化疾患」となります。また、近くの遺伝子もまとめて欠けると、筋ジストロフィーやグリセロールキナーゼ欠損症を合併することがあります。
原因
NR0B1(DAX1)は、ほかの遺伝子のはたらきを調節する「核内受容体」というたんぱく質の設計図です。
このたんぱく質は、胎児期に副腎が正しく育つために必要なうえ、脳の視床下部・下垂体や精巣のはたらきにも関わっています。そのため、NR0B1 遺伝子がはたらかないと、副腎が小さく未熟なままとなり、コルチゾール(ストレスに対抗するホルモン)とアルドステロン(体に塩分を保つホルモン)をつくれません。さらに、思春期に性ホルモンの分泌を始める指令もうまく出なくなります。
NR0B1 遺伝子はX染色体にあります。男の子はX染色体を1本しか持たないため、変化した遺伝子を受け継ぐと発症します。女の子はX染色体を2本持つため、1本に変化があっても、ふつうは症状のないキャリア(保因者)となります。お母さまがキャリアの場合に、男の子が発症する可能性があります(X連鎖潜性遺伝)。なお、ご両親に変化がなく、お子さまで初めて遺伝子の変化が起こる場合もあります。
症状
- 塩類喪失(塩分が失われる):哺乳不良、嘔吐、体重が増えない、脱水などで、新生児期〜乳児期に気づかれることが多い症状です
- 副腎クリーゼ:感染症などをきっかけに、血圧低下・意識障害・ショックを起こすことがあり、すぐに治療が必要です
- 低血糖:ぐったりする、けいれんを起こすことがあります
- 皮膚の色が濃くなる(色素沈着):副腎を刺激するホルモンが過剰に出るためです
- 思春期が始まらない、または途中で止まる:低ゴナドトロピン性性腺機能低下症によるもので、この病気に特徴的な症状です
- 男性不妊:精子をつくる力が弱いことが多いとされます
- 発症時期には幅がある:多くは乳児期ですが、幼児期・学童期、まれに成人期に見つかる方もいます
一般に、男の子の外性器は生まれたときにはふつうの男の子と同じ見た目です。キャリアの女性は通常症状がありませんが、まれに思春期の遅れなどが見られたという報告があります。
検査・診断
血液検査で、ナトリウムが低くカリウムが高い、血糖が低い、コルチゾールやアルドステロンが低いのに副腎を刺激するホルモン(ACTH)やレニンが高い、といった所見から疑われます。超音波やCTで副腎が小さく見えることもあります。
乳児期の副腎不全では、より頻度の高い先天性副腎過形成症(21-水酸化酵素欠損症など)との区別が重要です。先天性副腎過形成症では副腎の途中でつくられる物質(17-ヒドロキシプロゲステロンなど)が増えますが、先天性副腎低形成症では増えません。
確定診断は遺伝学的検査で行い、先天性副腎低形成症では NR0B1 遺伝子の変化(または欠失)が見つかります。思春期の見通しや、お母さま・ごきょうだい・ご親族への影響をお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
副腎そのものを治す治療は現時点ではありませんが、足りないホルモンを薬で補うことで症状を抑えることができます。治療は生涯にわたり続ける必要があり、小児内分泌の専門医による定期的な診察が大切です。
- 糖質コルチコイドの補充:ヒドロコルチゾンなどでコルチゾールを補います。成長への影響に気をつけながら量を調整します
- 鉱質コルチコイドの補充と塩分の補給:フルドロコルチゾンで塩分を保つはたらきを補い、乳児期には食塩を加えることもあります
- 体調を崩したときの増量(シックデイ対応):発熱・嘔吐・けが・手術のときは薬を増やし、飲めないときは注射で補います。ご家族があらかじめ対応を知っておくことが、副腎クリーゼを防ぐうえでとても重要です
- 思春期の誘導:思春期の時期に、男性ホルモンなどの治療で体の発育を促します
- 不妊についての相談:成人後に、生殖医療の専門家と相談します。お子さまを授かることが難しい場合も多いとされます
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる NR0B1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、NR0B1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
X連鎖潜性遺伝の疾患は、お母さまが症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、男の子では2分の1の確率で発症します(女の子では2分の1の確率でキャリアとなります)。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
NR0B1(DAX1)は典型的なDNA結合ドメインを欠く特殊な核内受容体で、NR5A1(SF-1)などの転写因子に結合してその作用を調節する。副腎皮質、性腺、視床下部・下垂体に発現し、副腎の胎生期皮質(胎児層)から永久皮質への発達に必須である。機能喪失型変異では永久皮質が形成されず、組織学的には大型の空胞化細胞からなる「サイトメガリー型」の副腎低形成を呈する。
本症は原発性副腎不全と低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の合併を特徴とする。後者は視床下部と下垂体の双方の障害によるとされ、加えて精巣自体の造精障害も伴うため、ゴナドトロピン療法に反応しにくい無精子症が多い。変異はナンセンス・フレームシフトなどの機能喪失型が主体で、遺伝子全体の欠失もある。Xp21 の隣接遺伝子欠失では、GK(グリセロールキナーゼ欠損症)、DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)を合併する。一方、NR0B1 を含む領域の重複は用量感受性の性逆転(46,XY 性分化疾患)を起こし、同じ遺伝子でも量の増減で表現型が正反対になる。軽症変異では幼児期以降・成人期発症や、副腎機能が比較的保たれる例も報告されている。
鑑別としては、先天性副腎過形成症(CYP21A2、STAR など、常染色体潜性)、NR5A1 異常症、IMAGe 症候群(CDKN1C)、家族性グルココルチコイド欠損症(MC2R、MRAP)、副腎白質ジストロフィー(ABCD1、X連鎖)が挙がる。これらは遺伝形式・合併症・次子再発率が異なるため、遺伝子診断は治療方針と遺伝カウンセリングに直結する。母親が保因者であれば男児の再発率は50%であり、未診断の男性血縁者に対する評価(潜在性副腎不全の早期発見)も重要である。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気はX連鎖潜性遺伝のため、お母さまがキャリアの場合、男の子では2分の1の確率で発症し、女の子では2分の1の確率でキャリアとなります。一方、お子さまで新たに遺伝子の変化が起きた場合は、次のお子さまの再発率は低くなります。お母さまがキャリアかどうかを調べることで、見通しをより正確にお伝えできます。
Q. 女の子は発症しないのですか。
A. 女の子は多くの場合、症状のないキャリアとなります。ただし、まれに思春期の遅れなどが見られたという報告があります。気になる症状がある場合は、専門医にご相談ください。
Q. 治療を続ければふつうの生活が送れますか。
A. ホルモンを補う薬を毎日きちんと続け、体調を崩したときに薬を増やす対応ができれば、多くの方が通園・通学など日常生活を送れます。ただし、副腎クリーゼは命に関わることがあるため、ご家族や周囲の方が緊急時の対応を知っておくことが大切です。
Q. 思春期や将来の妊娠・出産はどうなりますか。
A. この病気の男の子は、多くの場合、自然には思春期が始まらないため、ホルモン治療で体の発育を促します。成人後は精子をつくる力が弱いことが多く、お子さまを授かることが難しい場合があります。生殖医療の専門家と早めに相談することをおすすめします。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Achermann JC, Vilain EJ. NR0B1-Related Adrenal Hypoplasia Congenita. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #300200 Adrenal hypoplasia, congenital; AHC. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Zanaria E, Muscatelli F, Bardoni B, et al. An unusual member of the nuclear hormone receptor superfamily responsible for X-linked adrenal hypoplasia congenita. Nature. 1994;372(6507):635-641.
- Muscatelli F, Strom TM, Walker AP, et al. Mutations in the DAX-1 gene give rise to both X-linked adrenal hypoplasia congenita and hypogonadotropic hypogonadism. Nature. 1994;372(6507):672-676.
- Lin L, Gu WX, Ozisik G, et al. Analysis of DAX1 (NR0B1) and steroidogenic factor-1 (NR5A1) in children and adults with primary adrenal failure: ten years’ experience. J Clin Endocrinol Metab. 2006;91(8):3048-3054.
