概要
難聴・脳症・リー様症候群を伴う3-メチルグルタコン酸尿症(MEGDEL症候群)は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアのはたらきが損なわれ、聞こえと脳の発達がしだいに障害されていく病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、SERAC1(6q25.3)遺伝子の変化が原因となります。
病名の「MEGDEL」は、3-メチルグルタコン酸尿症(尿に特定の有機酸が増える)・難聴・脳症・リー様症候群という主な特徴の頭文字をとったものです。新生児期に低血糖や肝臓のはたらきの低下で気づかれることがあり、乳児期から難聴、筋肉の緊張の異常、発達の遅れと退行が目立ってきます。報告されている患者さんは世界で百数十人ほどの、まれな病気です。
SERAC1 遺伝子の変化は、多くの場合この乳児期に始まる重い型(MEGDEL症候群)を起こします。一方で、同じ遺伝子の変化でも、学童期以降に足のつっぱり(痙性対麻痺)を主な症状として始まる、比較的ゆっくり進む型も報告されています。このページでは、主に乳児期に始まる MEGDEL症候群について説明します。
原因
SERAC1 は、ミトコンドリアと、細胞のなかの別の小器官(小胞体)が接する場所ではたらくたんぱく質です。細胞膜やミトコンドリアの膜をつくる「リン脂質」という脂の組み立て直しや、コレステロールを細胞のなかで運ぶことにかかわっています。
このたんぱく質がはたらかないと、ミトコンドリアの膜の成分が正しく整わず、エネルギーをつくる力が落ちます。エネルギーを多く使う脳(特に運動を調整する大脳基底核)や内耳が影響を受けやすく、難聴や運動の障害につながると考えられています。尿に3-メチルグルタコン酸が増えるのも、ミトコンドリアのはたらきの乱れを反映したものです。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 新生児期の低血糖・肝臓の障害:生まれてすぐに低血糖、黄疸、肝機能の低下がみられることがあります。多くは乳児期に落ち着きますが、重くなる例もあります
- 進行する難聴(感音難聴):乳児期から聞こえが悪くなり、しだいに進みます。この病気のもっとも目立つ特徴の一つです
- 筋緊張の低下からジストニアへ:はじめは体がやわらかく、その後、体がねじれるような不随意な筋肉の緊張(ジストニア)や手足のつっぱりが出てきます
- 発達の遅れと退行:できていた動作やことばが失われることがあり、多くで重い知的障害を伴います
- 哺乳や飲み込みの困難、体重の増えにくさ
- けいれん、視神経の萎縮(見えにくさ)を伴うことがあります
- 経過には幅があり、小児期に亡くなるお子さまもいれば、成人まで過ごされる方もいます
検査・診断
尿の有機酸分析で3-メチルグルタコン酸の増加がみられ、血液や髄液の乳酸が高くなることもあります。頭部MRIでは大脳基底核(特に被殻)に左右対称の変化がみられ、被殻の一部だけが保たれて目のように見える特徴的な所見が手がかりになります。聴力検査で感音難聴を確認します。
確定診断は遺伝学的検査で行い、この病気では SERAC1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。3-メチルグルタコン酸が増える病気はほかにもあるため、原因遺伝子を確定することが、正確な診断と次のお子さまの見通しにつながります。なお、妊娠中の超音波検査でこの病気に気づくことはほとんどありません。
治療
現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。症状に合わせた治療と、お子さまとご家族の生活を支える支援が中心となります。小児神経科・耳鼻科・消化器科・リハビリテーションなど、複数の専門家が連携して診ていくことが大切です。
- 新生児期の管理:低血糖を防ぐための栄養管理と、肝臓のはたらきの見守り
- 聞こえへの対応:補聴器や人工内耳を検討します。効果には個人差があるため、医師とよく相談します
- ジストニア・つっぱりへの対応:飲み薬やボツリヌス毒素の注射などで、つらさや姿勢の崩れをやわらげます
- 栄養と飲み込みの支援:必要に応じて胃ろうなどで栄養を確保し、誤嚥を防ぎます
- リハビリテーションと療育:理学療法・作業療法、手話や絵カードなどを使ったコミュニケーションの支援
- けいれんがある場合の治療、およびご家族への心理的・社会的な支援
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる SERAC1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SERAC1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
SERAC1(serine active site containing 1)は、ミトコンドリア関連小胞体膜(MAM)に局在するリン脂質リモデリング酵素と考えられている。欠損によりホスファチジルグリセロールのアシル鎖リモデリングが障害され、その下流のカルジオリピン組成の変化を通じて呼吸鎖機能が低下する。また細胞内コレステロール輸送の障害(フィリピン染色での遊離コレステロール蓄積)も示されている。
3-メチルグルタコン酸尿症の分類では、ロイシン分解経路の酵素欠損による一次性(AUH 欠損症、1型)と区別される二次性の3-メチルグルタコン酸尿症に属し、TAZ(バース症候群)、OPA3(コステフ症候群)、DNAJC19、TMEM70、CLPB などとともにミトコンドリア膜の異常を共通基盤とする。MEGDEL症候群に特徴的なのは、進行性感音難聴・ジストニアと、MRIでの被殻背側の一部が保たれる「putaminal eye」所見の組み合わせであり、新生児期の一過性肝障害・低血糖も診断の手がかりとなる。67例の解析では、ほぼ全例で難聴とジストニアがみられ、多くが乳児期に発症していた。
表現型には幅がある。乳児期発症の典型的な MEGDEL症候群が大半を占めるが、新生児期の重い肝障害が前面に出る例や、若年発症の複合型遺伝性痙性対麻痺として現れる軽症例も報告されている。鑑別としては、他のミトコンドリア病によるリー症候群(SURF1、MT-ATP6 など)、他の二次性3-メチルグルタコン酸尿症、先天性難聴を伴う神経変性疾患が挙がる。いずれも臨床像が重なるため、遺伝子診断が確定と遺伝カウンセリングに不可欠である。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。2分の1の確率でご両親と同じキャリアに、4分の1の確率で変化を受け継がないお子さまになります。前のお子さまで原因遺伝子の変化が確定していれば、次の妊娠で出生前検査を検討できます。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. この病気は妊娠中の超音波検査で異常が見つかることがほとんどなく、通常は生まれてから症状で気づかれます。妊娠中に知るには遺伝子の検査が必要です。前のお子さまで診断がついている場合や、ご夫婦がキャリアと分かっている場合は、遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 難聴は補聴器や人工内耳で改善しますか。
A. 補聴器や人工内耳で聞こえを補うことは検討されます。ただし、この病気では脳のはたらきにも影響があるため、効果には個人差があります。耳鼻科と小児神経科の医師とよく相談し、手話や絵カードなど、お子さまに合った伝え合いの方法をあわせて考えていくことが大切です。
Q. 同じ遺伝子で軽い病気もあると聞きました。
A. はい。SERAC1 遺伝子の変化では、乳児期から難聴とジストニアが進む MEGDEL症候群が多くを占めますが、学童期以降に足のつっぱりを主な症状として始まる、比較的ゆっくり進む型も報告されています。どのような経過になるかは変化の種類だけでは予測しきれないことがあり、専門医による評価が大切です。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Wortmann SB, de Brouwer APM, Wevers RA, Morava E. SERAC1 Deficiency. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #614739 3-Methylglutaconic aciduria with deafness, encephalopathy, and Leigh-like syndrome; MEGDELS. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Wortmann SB, Vaz FM, Gardeitchik T, et al. Mutations in the phospholipid remodeling gene SERAC1 impair mitochondrial function and intracellular cholesterol trafficking and cause dystonia and deafness. Nat Genet. 2012;44(7):797-802.
- Maas RR, Iwanicka-Pronicka K, Kalkan Ucar S, et al. Progressive deafness-dystonia due to SERAC1 mutations: A study of 67 cases. Ann Neurol. 2017;82(6):1004-1015.
- Wortmann SB, Kluijtmans LA, Engelke UF, Wevers RA, Morava E. The 3-methylglutaconic acidurias: what’s new? J Inherit Metab Dis. 2012;35(1):13-22.
