概要
アナウクセチック骨異形成症2型は、生まれる前から骨の伸びが強く妨げられ、著しい低身長と短い手足をきたす、非常にまれな骨系統疾患です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、POP1 遺伝子の変化が原因となります。
「アナウクセチック」は、ギリシャ語で「成長しない」という意味の言葉に由来する名前です。その名のとおり、骨の成長が胎児期から遅れ、成長とともに身長の差が大きくなっていくことが特徴です。世界でも報告はごくわずかで、症状の幅や長い目で見た経過は、まだ十分にわかっていません。
アナウクセチック骨異形成症には、原因遺伝子の違う3つの型があります。1型は RMRP、2型は POP1、3型は NEPRO という遺伝子が原因で、いずれも細胞のなかで RNA を切りそろえる「RNase MRP」という装置に関わっています。2型は、この装置を形づくるたんぱく質の部品である POP1 の変化によって起こる型です。1型と同じ RMRP 遺伝子が原因となる軟骨毛髪低形成症では、細く少ない髪の毛や免疫のはたらきの弱さがみられますが、2型でこれまで報告されている症状は、骨の症状が中心です。
原因
POP1 は、細胞のなかで RNA を切って整える2つの装置(RNase MRP と RNase P)に共通する、もっとも大きなたんぱく質の部品です。
これらの装置は、たんぱく質をつくる工場(リボソーム)の材料や、たんぱく質づくりに必要な RNA を正しい形に切りそろえるはたらきをしています。また、細胞が分裂して増えるタイミングの調節にも関わると考えられています。POP1 がうまくはたらかないと、骨の端にある「成長板」で軟骨の細胞が十分に増えることができず、骨が長く伸びにくくなります。骨は成長板の軟骨が増えることで伸びるため、とくに手足の骨や背骨の成長が強く妨げられます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
報告例が少ないため、症状の現れ方には個人差があり、すべての方に同じ症状が出るわけではありません。これまでに報告されている主な特徴は次のとおりです。
- 胎児期から始まる成長の遅れ:生まれたときから身長が低めで、手足が短いことが多いです
- 著しい低身長:成長とともに平均との差が広がっていきます
- 手足の短縮と短い指:腕や脚が短く、手の指や足の指も短くなります
- 関節のゆるさ、または動きの制限
- 背骨の形の変化:椎体(背骨の一つひとつの骨)の形の異常がみられます。同じ仲間の病気では首の骨(第1・第2頸椎)が不安定になることがあり、注意が必要とされます
- 股関節やひざの変形、脚の弯曲
- 重さの幅:同じ POP1 遺伝子の変化でも、比較的軽い経過の方から、胎児期から重い骨の変化がみられる方まで報告されています
検査・診断
妊娠中の超音波検査で、手足の骨が週数に比べて短いことから気づかれる場合があります。ただし、この所見は多くの骨系統疾患に共通するため、超音波検査だけでこの病気と見分けることは困難です。出生後は、全身の骨のX線検査で、骨の端(骨幹端)の不整、椎体の形の異常、手の骨の短さなどを確認します。
確定診断は遺伝学的検査で行い、アナウクセチック骨異形成症2型では POP1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。見た目やX線の所見が似ている1型・3型や軟骨毛髪低形成症とは、原因遺伝子を調べることで区別できます。型によって注意すべき合併症が異なるため、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。治療は、骨や関節の症状に合わせた対症療法と、成長に応じた生活の支援が中心です。身長を伸ばす治療の効果についても、十分な根拠はまだありません。
- 整形外科による定期的な経過観察:背骨、股関節、ひざ、脚の弯曲の変化を確認し、必要に応じて装具や手術を検討します
- 首の骨の評価:首の骨の不安定性がないかを確認します。とくに全身麻酔の前には、首の状態を担当医にお伝えください
- リハビリテーション:関節の動きや筋力を保ち、日常生活の動作を助けます
- 生活環境の工夫:低身長に合わせた家具や道具の調整、学校や職場での配慮
- 心理的な支援:ご本人の成長に応じた支えと、ご家族への支援
- 遺伝カウンセリング:診断の意味や、次のお子さまへの影響についてご説明します
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる POP1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、POP1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
POP1 は、リボ核タンパク質複合体である RNase MRP と RNase P に共通する最大のタンパク質サブユニットである。RNase MRP はリボソーム RNA 前駆体のプロセシングや細胞周期関連 mRNA の分解に、RNase P は tRNA 前駆体の 5′ 末端プロセシングに関与する。POP1 の機能低下は複合体の安定性・活性を損ない、成長板増殖層における軟骨細胞の増殖障害を介して、胎児期発症の重度の成長障害をもたらすと考えられている。
本疾患は、RNase MRP 関連骨系統疾患(いわゆる RNase MRP 病)のスペクトラムに位置づけられる——①RMRP(RNase MRP の RNA 成分):軟骨毛髪低形成症〜アナウクセチック骨異形成症1型、②POP1(タンパク質成分):アナウクセチック骨異形成症2型、③NEPRO:アナウクセチック骨異形成症3型である。2型は、2011年に全エクソーム解析により、重度の低身長と骨幹端・椎体の異形成を示す同胞例で POP1 の複合ヘテロ接合性変異が同定されたことで確立された。その後の報告は少数にとどまり、比較的軽症例から胎児期に重度の骨変化を示す例まで表現型に幅があることが示唆されているが、遺伝型と表現型の相関は確立していない。
鑑別としては、軟骨毛髪低形成症およびアナウクセチック骨異形成症1型(RMRP)、同3型(NEPRO)、脊椎骨幹端異形成症の各型、偽性軟骨無形成症(COMP、顕性)、軟骨無形成症(FGFR3、顕性・多くは新生突然変異)が挙がる。軟骨毛髪低形成症では免疫不全、ヒルシュスプルング病、悪性腫瘍への注意が必要となるため、原因遺伝子の同定は合併症管理の方針にも直結する。また、潜性形式(次子再発率25%)と新生突然変異による顕性形式(再発率はごく低い)では遺伝カウンセリングの内容が大きく異なる。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。低身長を起こす骨系統疾患には、偶発的に起こる(新生突然変異による)ものも多く、その場合の再発率はごくわずかです。再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 妊娠中の超音波検査で、手足の骨が短いことから気づかれる場合がありますが、それだけで病名を決めることはできません。前のお子さまで診断がついている場合や、ご両親がキャリアとわかっている場合は、遺伝子を調べる出生前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 1型や3型とはどう違うのですか。
A. どの型も著しい低身長と骨の変化がみられ、症状だけで見分けることは困難ですが、原因となる遺伝子が異なります。1型は RMRP、2型は POP1、3型は NEPRO という遺伝子が原因です。1型と同じ遺伝子による軟骨毛髪低形成症では免疫などへの注意が必要になるため、どの型かを遺伝子で確かめることが、その後の健康管理に役立ちます。
Q. 大人になったときの身長や生活はどうなりますか。
A. 著しい低身長となることが多いと考えられますが、報告が非常に少ないため、大人になってからの身長や経過を正確にお伝えすることはまだできません。症状の重さにも個人差があります。整形外科をはじめとする医療チームが成長に合わせて見守り、生活の工夫や支援を続けていくことが大切です。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Glazov EA, Zankl A, Donskoi M, et al. Whole-exome re-sequencing in a family quartet identifies POP1 mutations as the cause of a novel skeletal dysplasia. PLoS Genet. 2011;7(3):e1002027.
- Thiel CT, Horn D, Zabel B, et al. Severely incapacitating mutations in patients with extreme short stature identify RNA-processing endoribonuclease RMRP as an essential cell growth regulator. Am J Hum Genet. 2005;77(5):795-806.
- Mäkitie O, Vakkilainen S. Cartilage-Hair Hypoplasia – Anauxetic Dysplasia Spectrum Disorders. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #617396 Anauxetic dysplasia 2; ANXD2. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Unger S, Ferreira CR, Mortier GR, et al. Nosology of genetic skeletal disorders: 2023 revision. Am J Med Genet A. 2023;191(5):1164-1209.
