概要
バゼル・バナギト・スミリン・ヨセフ症候群は、生まれつきの目の異常と、知的障害・発達の遅れを主な特徴とする先天性の症候群です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、MED25(19q13.33)遺伝子の変化が原因となります。
この病気は、2015年に血縁婚の家系で報告され、報告した研究者の名前から名づけられました。目のほかに、口蓋裂(上あごの裂け目)などの顔・口の特徴、脳の形の異常、心臓の病気を伴うことがあります。世界でも報告は限られた家系にとどまる、非常にまれな病気です。
MED25 遺伝子は、別の病気の原因にもなります。同じ MED25 遺伝子の別の変化では、主に成人してから手足のしびれや筋力低下が出る末梢神経の病気(シャルコー・マリー・トゥース病2B2型)が報告されています。バゼル・バナギト・スミリン・ヨセフ症候群は、生まれたときから目・脳・発達に影響が出る点で、この神経の病気とは大きく異なります。
原因
MED25 は、「メディエーター複合体」というたんぱく質の集まりの一部です。
体の細胞では、必要な遺伝子を必要なときに読み出す「スイッチ」がはたらいています。メディエーター複合体は、このスイッチを入れる合図を、遺伝子を読み取る装置へ伝える「橋渡し役」です。MED25 がうまくはたらかないと、目や脳、顔、心臓などが胎児期につくられる過程で、遺伝子の読み出しの調節が乱れると考えられています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
報告されている患者さんの数が少なく、症状の組み合わせや重さには個人差があります。これまでに次のような症状が報告されています。
- 知的障害・発達の遅れ:多くの患者さんで中等度から重度とされ、この病気のもっとも中心的な症状です
- ことばの遅れ:話しことばがほとんど出ない場合もあります
- 目の異常:小さい眼球(小眼球)、白内障、視神経の異常などが報告されています
- 口蓋裂などの口・顔の特徴:小さな下あご、特徴的な顔つきを伴うことがあります
- 脳の形の異常:MRI で脳の萎縮や、左右の脳をつなぐ部分(脳梁)が薄いなどの所見が見られることがあります
- 生まれつきの心臓の病気:心臓の壁の穴などが報告されています
- 筋肉の張りが弱い(筋緊張低下)、低身長、手足の形の違いなど
検査・診断
生まれたあと、目の異常、口蓋裂、心臓の病気などがいくつか重なっていることや、乳児期からの発達の遅れから疑われます。眼科の診察、頭部 MRI、心臓の超音波検査などで全身の状態を確認します。妊娠中の超音波検査で口蓋裂や心臓・脳の異常を指摘されることもありますが、それだけでこの病気と見分けることは困難です。
症状だけで診断を確定することは難しく、確定診断は遺伝学的検査で行います。バゼル・バナギト・スミリン・ヨセフ症候群では MED25 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。似た症状を示す病気は数多くあるため、原因遺伝子を確定することは、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするうえで大きな意味があります。
治療
現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。それぞれの症状に合わせた治療(対症療法)と、お子さまの発達とご家族の暮らしを支える支援を、複数の診療科が協力して続けていくことが中心となります。
- 目の治療と視覚の支援:白内障の手術、眼鏡、見えにくさに合わせた療育や環境づくり
- 口蓋裂の治療:形成外科での手術、哺乳・食事の工夫、ことばの訓練
- 心臓の病気の治療:程度に応じて経過観察や手術を行います
- 発達への支援:早期からの療育、理学療法・作業療法・言語療法、特別支援教育
- ご家族への支援:福祉制度の利用、心理的な支え、ごきょうだいへの説明
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる MED25 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、MED25 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
MED25 はメディエーター複合体のサブユニットで、N末端側の領域で複合体本体に結合し、中央付近の活性化因子結合領域で各種の転写活性化因子と相互作用する。これにより、組織特異的な転写活性化因子の情報を RNA ポリメラーゼIIへ伝える橋渡しを担う。
Basel-Vanagait らは2015年、血縁婚のアラブ系家系において、知的障害と眼異常を中心に口蓋裂、脳形成異常、先天性心疾患を伴う症候群を報告し、MED25 のホモ接合性ミスセンス変異を同定した。この変異は複合体への結合に関わる領域にあり、機能解析でメディエーター複合体との結合が低下することが示された。同年、ブラジルの大家系でも症候性知的障害と MED25 のホモ接合性変異の関連が報告されている。症例数は依然として少なく、表現型の全体像や長期予後は十分に明らかではない。
MED25 では、別のアレルとして常染色体潜性の軸索型シャルコー・マリー・トゥース病2B2型(コスタリカの家系で報告)が知られる。こちらは成人期発症の末梢神経障害が主体で、知的障害や眼の先天異常は伴わない。変異の位置と機能への影響の違いが、発達期の多臓器形成異常と成人期の神経障害という表現型の差に関わると考えられている。鑑別としては、眼異常と知的障害・口蓋裂を併せもつ他の症候群(他のメディエーター複合体サブユニット異常症を含む)や染色体微細欠失・重複症候群が挙がり、網羅的な遺伝学的検査による原因の確定が遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。知的障害や目の異常を伴う病気には、偶発的に起こる(新生突然変異による)ものや遺伝形式の異なるものも多くあります。再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 超音波検査で口蓋裂や心臓・脳の異常が見つかることはありますが、それだけでこの病気と診断することはできません。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化がわかっている場合は、妊娠中に遺伝学的検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 同じ遺伝子で別の病気もあると聞きました。
A. はい。MED25 遺伝子の別の変化では、主に大人になってから手足のしびれや筋力低下が出る末梢神経の病気(シャルコー・マリー・トゥース病2B2型)が報告されています。この病気とは症状も発症の時期も異なるため、どの変化が見つかったかを専門家と確認することが大切です。
Q. 成長していくと、どのような経過をたどりますか。
A. 報告された患者さんが少ないため、長い目で見た経過はまだ十分にわかっていません。発達の遅れや見えにくさは成長とともに支援の内容が変わっていきます。早い時期からの療育や、目・口・心臓の治療を組み合わせることで、お子さまの力を伸ばし生活を支えることを目指します。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Basel-Vanagait L, Smirin-Yosef P, Essakow JL, et al. Homozygous MED25 mutation implicated in eye-intellectual disability syndrome. Hum Genet. 2015;134(6):577-587.
- Figueiredo T, Melo US, Pessoa AL, et al. Homozygous missense mutation in MED25 segregates with syndromic intellectual disability in a large consanguineous family. J Med Genet. 2015;52(2):123-127.
- Leal A, Huehne K, Bauer F, et al. Identification of the variant Ala335Val of MED25 as responsible for CMT2B2: molecular data, functional studies of the SH3 recognition motif and correlation between wild-type MED25 and PMP22 RNA levels in CMT1A animal models. Neurogenetics. 2009;10(4):275-287.
- Allen BL, Taatjes DJ. The Mediator complex: a central integrator of transcription. Nat Rev Mol Cell Biol. 2015;16(3):155-166.
- OMIM #616449 Basel-Vanagait-Smirin-Yosef syndrome; BVSYS. Online Mendelian Inheritance in Man.
