ボルイェソン・フォルスマン・レーマン症候群

Borjeson-Forssman-Lehmann syndrome, PHF6

概要

ボルイェソン・フォルスマン・レーマン症候群は、主に男の子に、知的障害、てんかん、肥満、性腺のはたらきの低下(性腺機能低下症)などが組み合わさって現れる、生まれつきの病気です。X連鎖潜性(劣性)遺伝の形式をとり、X染色体上にある PHF6 遺伝子の変化が原因となります。

1962年にスウェーデンの医師ボルイェソン、フォルスマン、レーマンが、ひとつの家系の男性たちに共通する症状として報告したことから、この名前がつきました。非常にまれな病気で、報告されている患者さんの数は限られています。生まれたときには目立たず、成長とともに発達の遅れや体つきの特徴がはっきりしてくることが多い病気です。

PHF6 遺伝子の変化は、この病気のほかにも別の形で現れることがあります。女の子に新たに生じた変化による場合は、皮膚の線状の色素沈着や歯・足の指の特徴をともなう、男の子とは異なる症状となることが知られています。また、白血病の細胞だけに生じる PHF6 の変化もありますが、これは生まれつきの病気とは別のもので、お子さまに受け継がれるものではありません。このページでは、主に男の子に起こるボルイェソン・フォルスマン・レーマン症候群について説明します。

原因

PHF6 は、細胞の核のなかでほかの遺伝子のスイッチのオン・オフ(遺伝子のはたらき方)を調節するたんぱく質の設計図です。

このたんぱく質は、胎児期の脳の発達や、ホルモンの分泌を指令する脳の部分(視床下部・下垂体)のはたらきに関わると考えられています。PHF6 が正しくはたらかないと、脳の発達に影響が出て知的障害やてんかんが起こり、ホルモンの調節がうまくいかないことで性腺機能低下症や肥満が起こると考えられています。

PHF6 遺伝子は X染色体にあります。男性は X染色体を1本しかもたないため、その1本に変化があると発症します。女性は X染色体を2本もつため、1本に変化があってももう1本が補い、多くは症状がないか、ごく軽い「キャリア(保因者)」となります(X連鎖潜性遺伝)。お母さまがキャリアの場合、男の子は2分の1の確率で発症します。また、お母さまがキャリアではなく、お子さまに新たに変化が生じて発症する場合もあります。

症状

  • 知的障害:程度は軽度から重度までさまざまですが、中等度から重度のことが多いとされます
  • 発達の遅れ:首すわり・歩き始め・言葉の遅れ。乳児期に体のやわらかさ(筋緊張低下)がみられることがあります
  • てんかん:一部の患者さんにみられます
  • 肥満:胴まわりを中心とした肥満が、学童期から思春期にかけて目立ってきます
  • 性腺機能低下症:精巣が小さい、停留精巣、陰茎が小さい、思春期が遅れるなど。乳房がふくらむ(女性化乳房)ことがあります
  • 特徴的な顔立ち:顔の皮下組織が厚くはれぼったい、深くくぼんだ目、目の幅が狭い、大きな耳など。年齢とともに目立ってきます
  • 手足の特徴:先が細くなる指、短い足の指(特に4番目・5番目)
  • 低身長、視力の問題(眼振、視力の低下など)がみられることがあります
  • キャリアの女性:多くは症状がありませんが、一部で先細りの指や短い足の指、軽い学習の困難がみられることがあります

検査・診断

発達の遅れ、肥満、性腺機能低下症、特徴的な顔立ちや手足の所見の組み合わせから疑われます。お母さま側の男性のご親族(おじ・いとこなど)に似た症状の方がいることは、診断の大切な手がかりになります。通常の染色体検査では異常が見つからないことがほとんどです。ホルモンの検査で、男性ホルモンの低下などが確認されることがあります。

確定診断は遺伝学的検査で行い、PHF6 遺伝子の変化を確認します。この病気は、プラダー・ウィリ症候群など肥満と発達の遅れをともなう別の病気と症状が似ているため、遺伝子による区別が重要です。診断がついた場合は、お母さまがキャリアかどうかを調べることで、次のお子さまやご親族への影響を正しくお伝えすることができます。

治療

現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。それぞれの症状に合わせた治療と、成長に合わせた継続的な支援が中心となります。小児科、小児神経科、内分泌科、泌尿器科、眼科など、複数の診療科が連携して診ていきます。

  • 発達支援・療育:理学療法、作業療法、言語療法、特別支援教育など、お子さまの発達に合わせた支援
  • てんかんの治療:発作がある場合は抗てんかん薬で発作を抑えることを目指します
  • ホルモン補充療法:思春期の時期に、内分泌の専門医が男性ホルモンの補充を検討します
  • 停留精巣の手術:必要に応じて行います
  • 体重の管理:食事や運動の工夫で、肥満とそれにともなう合併症を予防します
  • 定期的な診察:成長、視力、ホルモンの状態などを定期的に確認します
  • ご家族への支援:福祉制度の利用や、ご家族の心理的な支えも大切です

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる PHF6 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、PHF6 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

X連鎖潜性遺伝の疾患は、お母さまが症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、男の子ごとに2分の1の確率で発症します(女の子は2分の1の確率でキャリアとなります)。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

PHF6(plant homeodomain finger protein 6)は、2つの PHD 型ジンクフィンガードメインをもつ核・核小体たんぱく質で、クロマチン制御を介して転写を調節すると考えられている。NuRD 複合体の構成因子との相互作用が報告されており、マウス胎仔脳でのノックダウン実験では大脳皮質ニューロンの移動障害が示されている。男性患者は X連鎖のヘミ接合で発症し、ミスセンス変異と切断型変異の両方が報告されている。

本遺伝子の生殖細胞系列変異は、性別と変異の由来によって異なる表現型を示す——①男性のボルイェソン・フォルスマン・レーマン症候群(知的障害、てんかん、体幹性肥満、性腺機能低下症、顔面皮下組織の肥厚、先細りの指、短趾)、②保因女性は X染色体不活化の偏り(変異アレル側の不活化)を示すことが多く、無症状か軽症にとどまる、③女性の新生変異(多くは切断型変異や欠失)では不活化の偏りが乏しく、知的障害に加え、ブラシュコ線に沿う線状の皮膚色素沈着、歯の異常、短趾などを呈し、コフィン・シリス症候群と重なる表現型をとる(Zweier ら、2013年)。このため女性患者の表現型は男性の典型例とは大きく異なる。

一方、体細胞変異としての PHF6 不活化はT細胞性急性リンパ性白血病の一部や急性骨髄性白血病の一部にみられ、PHF6 は造血系の腫瘍抑制因子と位置づけられている。これは生殖細胞系列の疾患とは別の病態であり、次世代に伝わるものではない。鑑別としては、プラダー・ウィリ症候群(15q11-q13 のインプリンティング異常)、コーエン症候群(VPS13B、常染色体潜性)、バルデー・ビードル症候群(複数遺伝子、常染色体潜性)、脆弱X症候群(FMR1)が挙がる。これらは遺伝形式と再発率が異なるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は X連鎖潜性遺伝のため、お母さまがキャリアの場合、男の子ごとに2分の1の確率で発症し、女の子は2分の1の確率でキャリアとなります。お母さまがキャリアでなく、お子さまに新たに変化が生じた場合は、次のお子さまで再び起こる可能性は低いと考えられますが、ゼロとはいえません。お母さまがキャリアかどうかを調べることが、見通しを考えるうえで重要です。

Q. 女の子も発症しますか。

A. お母さまから変化を受け継いだ女の子の多くは、症状がないか、ごく軽いキャリアとなります。ただし、女の子に新たに変化が生じた場合には、男の子とは異なる症状(発達の遅れ、皮膚の線状の色素沈着など)が現れることがあります。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. この病気は妊娠中の超音波検査ではっきりした特徴が出にくく、超音波だけで見つけることは難しいとされます。ご家族で原因となる変化がわかっている場合は、遺伝学的な出生前検査や着床前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 同じ遺伝子で白血病が起こると聞きました。

A. 白血病で見つかる PHF6 の変化は、白血病の細胞だけに後から生じたもので、生まれつきの変化ではありません。そのため、ご家族やお子さまに受け継がれるものではありません。この病気の患者さんと白血病との関係については、まだはっきりしたことはわかっていません。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Börjeson M, Forssman H, Lehmann O. An X-linked, recessively inherited syndrome characterized by grave mental deficiency, epilepsy, and endocrine disorder. Acta Med Scand. 1962;171:13-21.
  • Lower KM, Turner G, Kerr BA, et al. Mutations in PHF6 are associated with Börjeson-Forssman-Lehmann syndrome. Nat Genet. 2002;32(4):661-665.
  • Turner G, Lower KM, White SM, et al. The clinical picture of the Börjeson-Forssman-Lehmann syndrome in males and heterozygous females with PHF6 mutations. Clin Genet. 2004;65(3):226-232.
  • Zweier C, Kraus C, Brueton L, et al. A new face of Borjeson-Forssman-Lehmann syndrome? De novo mutations in PHF6 in seven females with a distinct phenotype. J Med Genet. 2013;50(12):838-847.
  • Van Vlierberghe P, Palomero T, Khiabanian H, et al. PHF6 mutations in T-cell acute lymphoblastic leukemia. Nat Genet. 2010;42(4):338-342.
  • OMIM #301900 Borjeson-Forssman-Lehmann syndrome; BFLS. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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