概要
バーン・マキューン症候群は、鼻の奥の空気の通り道がふさがる「後鼻孔閉鎖」と、下まぶたが一部欠けている「眼瞼コロボーマ」などの特徴的な顔立ちを示す、まれな生まれつきの病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、TXNL4A(18q23)遺伝子の変化が原因となります。
この病気は、生まれた直後に鼻で息ができず、呼吸が苦しくなることで気づかれることが多く、口唇裂・難聴・心臓の病気をともなうこともあります。一方で、知的な発達はおおむね正常であることが多いとされています。報告されている患者さんは、世界でもまだ多くありません。
TXNL4A 遺伝子の変化で起こる病気として確立しているのは、現時点ではこのバーン・マキューン症候群です。この病気ならではの点は、多くの患者さんで「遺伝子のはたらきを弱める変化」と「遺伝子のはたらきを失わせる変化」が組み合わさって発症することです(くわしくは「原因」「専門的な解説」をご覧ください)。
原因
TXNL4A は、遺伝子の情報からたんぱく質をつくる途中で、いらない部分を切り取り、必要な部分をつなぎ合わせる「スプライシング」という作業を担う装置(スプライソソーム)の部品をつくる遺伝子です。
スプライシングは体のどの細胞でも行われています。それでも、この装置のはたらきが少し弱まるだけで、おなかの赤ちゃんの顔や頭の骨・組織ができていく過程は特に影響を受けやすいことが知られています。そのため、鼻の奥・まぶた・唇・耳といった顔まわりに症状が集中すると考えられています。
多くの患者さんでは、片方の遺伝子に「はたらく量を調節する部分(プロモーター)の小さな欠け」があり、もう片方の遺伝子に「はたらきを失わせる変化」があるという組み合わせが見つかっています。プロモーターの欠けは、それだけでは病気を起こさず、症状のない一般の方にも比較的よく見られる変化です。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 後鼻孔閉鎖・狭窄:鼻の奥がふさがっていたり、狭くなっていたりします。左右両方の場合は、生まれた直後から呼吸が苦しくなり、ミルクを飲むことも難しくなります
- 下まぶたの欠け(眼瞼コロボーマ)、目の横幅が短い、目と目の間が離れている
- 特徴的な顔立ち:鼻すじが高く目立つ、鼻の形の特徴、薄い上唇など
- 口唇裂(口蓋裂をともなうこともあります)
- 難聴(伝音性・感音性のどちらもあります)、立ち耳など耳の形の特徴
- 生まれつきの心臓の病気(心房中隔欠損症・心室中隔欠損症など)をともなうことがあります
- 低身長をともなうことがあります
- 知的な発達はおおむね正常であることが多いとされています
どの症状がどの程度出るかは患者さんごとに異なり、同じご家族のなかでも差があることが報告されています。
検査・診断
生まれたあとに、鼻から息ができない、鼻にチューブが通らないことから後鼻孔閉鎖が疑われ、CT検査で確かめます。あわせて、下まぶたの欠けなどの顔立ちや、聴力検査、心臓の超音波検査の結果から、この病気が疑われます。
妊娠中の超音波検査で口唇裂や心臓の病気が見つかることはあります。しかし、後鼻孔閉鎖やまぶたの特徴を妊娠中に見つけるのは難しく、超音波検査だけでこの病気と診断することは通常できません。
確定診断は遺伝学的検査で行います。バーン・マキューン症候群では、TXNL4A 遺伝子に、父方由来と母方由来それぞれの変化が見つかります。症状が似ている CHARGE 症候群などとは遺伝形式が異なります。次のお子さまの見通しを正しくお伝えするために、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、遺伝子の変化そのものを治す治療はありません。ただし、一つひとつの症状には手術やリハビリなどの治療があり、適切な治療と支援を受けながら成長していくことが期待できます。耳鼻科・形成外科・眼科・小児科・心臓の専門医などが協力して診ていきます。
- 後鼻孔閉鎖の治療:生まれた直後は空気の通り道を確保し、その後、鼻の奥を開く手術を行います。手術後にまた狭くなることがあるため、経過をみていきます
- 口唇裂・口蓋裂の治療:成長に合わせた手術、ことばの訓練、歯の矯正などを行います
- 難聴への対応:早めに聴力を調べ、補聴器などを使って、ことばの発達を支えます
- 目の保護:まぶたの欠けのために目が乾きやすい場合は、目薬や手術で目の表面(角膜)を守ります
- 心臓の病気の治療:種類と程度に応じて、経過をみるか手術を行います
- ご家族への支援:治療が長く続くことも多いため、継続的な相談と支えが大切です
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる TXNL4A 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の2つの検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、TXNL4A 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
TXNL4A(DIB1)はU5 snRNP および U4/U6.U5 トリ snRNP の構成因子で、スプライソソームの活性化過程に関与する。コアスプライソソーム因子の部分的機能低下により頭蓋顔面の形成異常を呈する点で、EFTUD2(下顎顔面異骨症 Guion-Almeida 型)、SF3B4(Nager 症候群)、SNRPB(脳・肋骨・下顎症候群)などと並ぶ「スプライソソーム病」の一つに位置づけられる。
Wieczorek らの解析(2014)では、多くの患者が、TXNL4A プロモーター領域の低頻度欠失と、反対アレルの機能喪失型変異(ナンセンス・フレームシフト・スプライス部位の変異など)との複合ヘテロ接合であった。プロモーター欠失は転写活性を低下させるが、単独では発症に至らないと考えられている。一方、両アレルの完全な機能喪失は生存と両立しない可能性がある。すなわち、「低発現アレル+機能喪失アレル」による残存機能の量的な閾値が表現型を決めるというモデルが提唱されている。
実務上の注意点として、主要な原因アレルがコーディング領域外のプロモーター欠失であるため、エクソンを主な対象とする解析で検出できるかどうかは、検査系の設計(解析対象領域・小欠失の検出能)に左右される。保因者判定や家系内解析では、発端者で同定されたバリアントの種類を確認したうえで解釈する必要がある。
鑑別としては、CHARGE 症候群(CHD7、多くは新生突然変異による顕性。後鼻孔閉鎖・コロボーマ・難聴・心疾患が重なる)、トリーチャー・コリンズ症候群(TCOF1 など。下眼瞼の欠損と頬骨低形成)、上記のスプライソソーム病が挙がる。本症では、虹彩・網膜ではなく下眼瞼のコロボーマであること、頬骨低形成や小顎が目立たないことが手がかりとなる。ただし表現型の重なりは大きく、遺伝学的検査で確定することが再発率の説明に直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。よく似た症状を示す CHARGE 症候群は、多くが偶然起こる(新生突然変異による)もので、再発率はごくわずかです。このように再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 超音波検査で口唇裂や心臓の病気が見つかることはありますが、それだけでこの病気と分かることはまれです。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化が分かっている場合は、妊娠中の遺伝学的検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 生まれてすぐに必要な対応はありますか。
A. 赤ちゃんは主に鼻で呼吸するため、左右両方の後鼻孔閉鎖がある場合は、生まれた直後から空気の通り道を確保する処置が必要になります。この病気の可能性が分かっている場合は、新生児の治療ができる施設で出産できるよう、あらかじめ主治医と相談しておくと安心です。
Q. 知的な発達や将来の生活はどうなりますか。
A. 報告されている患者さんの多くは、知的な発達がおおむね正常です。ただし、難聴があるとことばの発達に影響することがあるため、早めに聴力を調べ、補聴器などで支えることが大切です。報告例が少ないため、長い目で見た見通しは主治医とよく相談してください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Wieczorek D, Newman WG, Wieland T, et al. Compound heterozygosity of low-frequency promoter deletions and rare loss-of-function mutations in TXNL4A causes Burn-McKeown syndrome. Am J Hum Genet. 2014;95(6):698-707.
- Burn J, McKeown C, Wagget J, Bray R, Goodship J. New dysmorphic syndrome with choanal atresia in siblings. Clin Dysmorphol. 1992;1(3):137-144.
- Lehalle D, Wieczorek D, Zechi-Ceide RM, et al. A review of craniofacial disorders caused by spliceosomal defects. Clin Genet. 2015;88(5):405-415.
- OMIM #608572 Burn-McKeown syndrome; BMKS. Online Mendelian Inheritance in Man.
