概要
セナニ・レンツ合指症症候群は、手の指どうしが骨ごと癒合し、前腕の2本の骨(橈骨と尺骨)がくっついたり短くなったりする、生まれつきの手足の形の病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、LRP4(11p11.2)遺伝子の変化が原因となります。
この病気の特徴は、手の指がばらばらに分かれず、ミトン(手袋)のようにひとかたまりになる「合指」が両手に強く現れることです。足にも合指がみられますが、多くは手より軽い傾向があります。さらに、腎臓が片方または両方つくられない(腎無形成)、あるいは小さいといった腎臓の異常を伴うことが多いのも大切な点です。知的な発達は多くの場合保たれます。
LRP4 遺伝子は、変化の種類や受け継ぎ方によって性質の異なる病気を起こします。この遺伝子の変化を両親から1つずつ受け継ぐと、手足と腎臓の形成に異常が出るセナニ・レンツ合指症症候群になります。一方、別の種類の変化では、骨が厚く硬くなりすぎる「硬結性骨化症2型」や、筋肉の力が疲れやすくなる「先天性筋無力症候群17型」となります。セナニ・レンツ合指症症候群は、胎児期の手足や腎臓のつくられ方そのものに影響する点がこれらと異なります。
世界での報告は数十家系程度と非常にまれな病気です。
原因
LRP4 は、細胞の表面にあるたんぱく質で、「Wnt(ウィント)」と呼ばれる、体の形づくりを指示する信号の強さを調節するブレーキ役をはたしています。
胎児の手足ができるとき、はじめは指が1枚の板のようにつながった形をしており、Wnt などの信号が適切な場所・適切な強さではたらくことで、5本の指に分かれていきます。LRP4 がはたらかないとこの信号のブレーキがききにくくなり、指を分ける・骨の数や並びを整えるといった過程がうまく進みません。その結果、指の骨が癒合したり、前腕の骨がくっついたりします。腎臓も同じような信号の調節を受けてつくられるため、腎臓の異常も起こりやすくなります。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 手の高度な合指:指が骨ごと癒合し、ミトンやスプーンのような形になります。この病気のもっとも特徴的な所見です
- 指の骨の数や並びの乱れ:中手骨の癒合、指の骨の欠損や不規則な配列がみられます
- 前腕の異常:橈骨と尺骨のくっつき(橈尺骨癒合)や、前腕が短く曲がる変形
- 足の合指:手よりも軽いことが多いです
- 腎臓の異常:片側または両側の腎無形成、腎臓の低形成など。見通しを左右する重要な所見です
- 顔つきの特徴:目と目の間が広い、鼻すじが平らなど(目立たない方もいます)
- 歯の異常や爪の形の異常がみられることがあります
- 症状の重さは、同じご家族のなかでも差があることが知られています
検査・診断
多くは出生時の手足の見た目から疑われます。妊娠中の超音波検査では、指の癒合そのものを見分けることは難しいことがありますが、前腕の短縮や、腎臓が見えない・羊水が少ないといった所見から気づかれることがあります。出生後は手足のX線検査で骨の癒合のようすを詳しく調べ、腎臓の超音波検査で腎臓の有無や大きさを確認します。
確定診断は遺伝学的検査で行い、セナニ・レンツ合指症症候群では LRP4 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。よく似た手の形を示す病気には、遺伝のしかたが異なるものもあるため、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするうえで、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。
治療
現時点で、遺伝子の変化そのものを治す治療はありません。治療は、手の機能をできるだけ引き出すことと、腎臓の状態を見守ることが中心になります。整形外科(手の外科)、腎臓内科・泌尿器科、リハビリテーション科などが協力して支えます。
- 手の外科手術:癒合した指を分ける手術を検討します。ただし骨ごと癒合していることが多いため、見た目や機能の改善には限界があり、手術の時期や方法は個別に判断します
- 作業療法・リハビリテーション:つかむ・持つなど、日常生活の動作を工夫して身につける支援
- 腎臓の評価と定期的な経過観察:腎機能や血圧を確認し、必要に応じて治療を行います
- 歯科での定期的な診察
- 園・学校生活や心理面の支援:道具の工夫や周囲の理解を含めた継続的な支え
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる LRP4 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、LRP4 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
LRP4(low-density lipoprotein receptor-related protein 4)は LDL 受容体ファミリーに属する1回膜貫通型受容体で、細胞外に4つのβプロペラドメインをもつ。スクレロスチン(SOST)や DKK1 と結合して LRP5/6 を介する Wnt/βカテニン経路を抑制する補助受容体としてはたらくほか、神経筋接合部ではアグリンの受容体として MuSK を活性化し、アセチルコリン受容体の集積を担う。
Li らはセナニ・レンツ合指症症候群の家系で LRP4 の両アレル変異を同定し、変異型 LRP4 が LRP6 を介した Wnt シグナルを十分に抑制できないことを示した。肢芽の外胚葉性頂堤(AER)における Wnt シグナルの過剰が、指放線の分離不全と骨の癒合・配列異常をもたらすと考えられる。腎無形成・低形成の合併も同じ機序で説明され、腎病変の有無と程度が生命予後を規定する。
本遺伝子は機能の異なる複数の表現型を示す——①セナニ・レンツ合指症症候群(常染色体潜性、肢・腎の形態形成異常)、②硬結性骨化症2型(主に第3βプロペラのミスセンス変異でスクレロスチンの促進因子機能が損なわれ、骨量が増加)、③先天性筋無力症候群17型(常染色体潜性、アグリン–MuSK シグナルの障害)。同じ遺伝子でも、変異の部位と影響を受ける機能によって臨床像がまったく異なるため、変異の解釈には表現型との照合が欠かせない。
鑑別としては、15q13.3 の GREM1・FMN1 領域の微細重複によるセナニ・レンツ様合指症(常染色体顕性)、他の型の合指症、橈尺骨癒合症などが挙がる。遺伝形式が異なると次子再発率が大きく変わるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。よく似た手の形を示す病気には、遺伝のしかたが異なるものもあります。再発率が大きく異なるため、原因遺伝子を確定することが重要です。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 指の癒合は超音波検査で見分けにくいことがありますが、前腕の短縮や腎臓の異常、羊水の少なさから気づかれることがあります。前のお子さまで原因遺伝子がわかっている場合は、妊娠早期からの検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 同じ遺伝子で別の病気もあると聞きました。
A. はい。LRP4 遺伝子の変化は、骨が厚く硬くなる病気や、筋肉が疲れやすくなる病気の原因にもなります。どの病気になるかは、変化の場所や種類によって異なります。セナニ・レンツ合指症症候群は、手足と腎臓のつくられ方に影響する点が特徴です。
Q. 生まれたあとの暮らしはどうなりますか。
A. 知的な発達は多くの場合保たれ、手の使い方を工夫しながら学校生活や日常生活を送っている方もいます。一方で、両方の腎臓がつくられない場合は、生まれたあとに命を保つことが難しくなります。見通しは腎臓の状態によって大きく変わるため、医療チームとよく話し合ってください。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Li Y, Pawlik B, Elcioglu N, et al. LRP4 mutations alter Wnt/beta-catenin signaling and cause limb and kidney malformations in Cenani-Lenz syndrome. Am J Hum Genet. 2010;86(5):696-706.
- Leupin O, Piters E, Halleux C, et al. Bone overgrowth-associated mutations in the LRP4 gene impair sclerostin facilitator function. J Biol Chem. 2011;286(22):19489-19500.
- Ohkawara B, Cabrera-Serrano M, Nakata T, et al. LRP4 third β-propeller domain mutations cause novel congenital myasthenia by compromising agrin-mediated MuSK signaling in a position-specific manner. Hum Mol Genet. 2014;23(7):1856-1868.
- OMIM #212780 Cenani-Lenz Syndactyly Syndrome; CLSS. Online Mendelian Inheritance in Man.
- OMIM #614305 Sclerosteosis 2; SOST2. Online Mendelian Inheritance in Man.
- OMIM #616304 Myasthenic Syndrome, Congenital, 17; CMS17. Online Mendelian Inheritance in Man.
