シャナリン・ドルフマン症候群

Chanarin-Dorfman syndrome, ABHD5

概要

シャナリン・ドルフマン症候群は、体のさまざまな細胞に中性脂肪(トリグリセリド)がたまり、生まれつき皮膚が乾いてうろこのようになる「魚鱗癬(ぎょりんせん)」と、肝臓の腫れなどを起こす病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ABHD5(3p21)遺伝子の変化が原因となります。「魚鱗癬を伴う中性脂肪蓄積症」とも呼ばれます。

多くは、生まれたときから全身の皮膚が赤く、細かいうろこに覆われていることで気づかれます。あわせて、肝臓に脂肪がたまる脂肪肝や肝臓の腫れがみられ、一部の方では年齢とともに肝硬変へ進むことがあります。そのほか、筋力の低下、白内障などの目の症状、聞こえの低下、発達の遅れがみられることもあり、症状の種類や重さには個人差が大きい病気です。報告は世界でも百数十例ほどと非常にまれで、地中海沿岸や中東の地域からの報告が多いとされています。

中性脂肪蓄積症には、原因遺伝子の異なる2つの型があります。ABHD5 遺伝子の変化による「魚鱗癬を伴う型」がこのシャナリン・ドルフマン症候群で、PNPLA2 遺伝子の変化による「ミオパチー(筋肉の病気)を伴う型」とは別の病気です。後者では皮膚の症状がなく、筋力低下や心臓の筋肉の病気が中心となります。生まれつきの魚鱗癬があることが、この型の大きな特徴です。

原因

ABHD5(CGI-58)は、細胞のなかにたくわえられた中性脂肪を分解する酵素(ATGL)に「分解を始めなさい」と合図を送るスイッチ役のたんぱく質です。

このスイッチがはたらかないと、中性脂肪をうまく分解できず、肝臓・筋肉・皮膚・血液の細胞などに小さな油の粒(脂肪滴)としてたまっていきます。また皮膚では、ABHD5 は肌のバリアに欠かせない特殊な脂質(セラミドの一種)づくりにもかかわっています。この脂質が不足すると皮膚の表面から水分が逃げやすくなり、それを補おうとして角質が厚くたまることで、魚鱗癬が起こると考えられています。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

  • 生まれつきの魚鱗癬:全身の皮膚が赤みを帯び、細かい白っぽいうろこに覆われます。この病気でもっともよくみられる症状です
  • 生まれたときに、皮膚が薄い膜に包まれた状態(コロジオン児)でみられることがあります
  • 肝臓の腫れと脂肪肝:血液検査で肝臓の値が高くなります。一部では肝臓が硬くなる肝線維化・肝硬変へ進むことがあり、長い目で見た経過を左右する重要な所見です
  • 筋力の低下や筋肉の痛み(多くは軽度)。血液検査で筋肉の値(CK)が高くなることがあります
  • 目の症状:白内障、眼振(目が細かく揺れる)など
  • 聞こえの低下(難聴)
  • 発達の遅れ、低身長がみられる方もいます

検査・診断

妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどなく、多くは生まれたあとの皮膚の症状から疑われます。診断の手がかりとして特に重要なのが、血液を顕微鏡で見たときに、白血球のなかに小さな脂肪の粒(空胞)がみられる「ジョーダンズ異常」です。採血だけで確認できるため、魚鱗癬のお子さまでこの病気を見分ける大切な検査です。あわせて、肝臓の値・筋肉の値(CK)の血液検査や、腹部の超音波検査で肝臓の状態を調べます。

確定診断は遺伝学的検査で行い、シャナリン・ドルフマン症候群では ABHD5 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。魚鱗癬を起こす病気はほかにも多いため、原因遺伝子を確定することで、肝臓などの見守りの方針や次のお子さまの見通しを正しくお伝えできます。

治療

現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。皮膚の症状をやわらげる治療と、肝臓をはじめとする全身の状態を定期的に確認し、早めに対応していくことが中心になります。

  • スキンケア:保湿剤や、厚くなった角質をやわらかくする塗り薬を毎日続けます
  • レチノイドの内服:皮膚の症状が重い場合に検討されることがあります。副作用があるため、医師と相談しながら慎重に使います
  • 食事の工夫:脂肪を控え、体内で使われやすい中鎖脂肪酸を取り入れる食事で、肝臓の値が改善したとの報告があります。管理栄養士と相談して行います
  • 肝臓の定期的な検査:脂肪肝や肝線維化の進み具合を、血液検査や画像検査で確認します
  • 目・耳・筋肉・発達の定期的な確認:白内障や難聴は、早く見つけて対応することが大切です
  • ご家族への遺伝カウンセリングと心理的支援

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる ABHD5 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ABHD5 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

シャナリン・ドルフマン症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患で、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

ABHD5(CGI-58)はα/βヒドロラーゼフォールドを持つが、それ自体の加水分解活性はほとんどなく、脂肪滴上でペリリピンと結合して待機し、刺激に応じて遊離してATGL(PNPLA2)を活性化する補助因子としてはたらく。欠損するとトリグリセリド分解の最初の段階が障害され、肝細胞・骨格筋・表皮・白血球など多臓器に中性脂肪が蓄積する。表皮では、ABHD5 はPNPLA1 と協調して角層バリア脂質であるω-O-アシルセラミドの生成に関与することが示されており、この経路の障害が魚鱗癬の主因と考えられる。

中性脂肪蓄積症は、魚鱗癬を伴う型(NLSDI、ABHD5)とミオパチーを伴う型(NLSDM、PNPLA2)に分かれる。末梢血好中球の脂肪空胞(ジョーダンズ異常)は両型に共通するが、NLSDI は先天性魚鱗癬と肝障害が前景に立ち筋症状は軽度にとどまることが多いのに対し、NLSDM は魚鱗癬を欠き、進行性の骨格筋ミオパチーと心筋症が予後を規定する。この違いは、ABHD5 が表皮脂質代謝においてATGL非依存的な役割を担うことで説明される。NLSDI では肝線維化から肝硬変へ進行する例が報告されており、長期の肝評価が重要である。

鑑別としては、他の常染色体潜性先天性魚鱗癬(TGM1、ALOX12B、ALOXE3、NIPAL4、CYP4F22、PNPLA1 など)、シェーグレン・ラルソン症候群(ALDH3A2、魚鱗癬・痙性対麻痺・知的障害)、ネザートン症候群(SPINK5)が挙がる。魚鱗癬の患児で末梢血塗抹標本を確認することが簡便かつ有用なスクリーニングとなり、肝腫大・肝酵素上昇を伴う場合は本症を強く疑う。次子再発率は25%であり、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。男の子・女の子で確率に差はありません。お子さまが発症しない場合でも、2分の1の確率で症状のないキャリアとなります。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. 妊娠中の超音波検査で見つかることはほとんどありません。前のお子さまやご家族で原因となる遺伝子の変化が分かっている場合は、出生前検査や着床前検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 筋肉の病気になる似た名前の病気があると聞きました。

A. はい。「ミオパチーを伴う中性脂肪蓄積症」は PNPLA2 という別の遺伝子が原因で、皮膚の症状はなく、筋力低下や心臓の病気が中心です。シャナリン・ドルフマン症候群は ABHD5 遺伝子が原因で、生まれつきの魚鱗癬と肝臓の症状が中心です。原因遺伝子を調べることで区別できます。

Q. 皮膚の症状はよくなりますか。

A. 魚鱗癬は生涯にわたって続くことが多いですが、毎日の保湿などのスキンケアで、つっぱり感やかゆみをやわらげることができます。症状が重い場合は飲み薬を検討することもあります。また、皮膚だけでなく肝臓の状態を定期的に確認していくことが大切です。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Lefèvre C, Jobard F, Caux F, et al. Mutations in CGI-58, the gene encoding a new protein of the esterase/lipase/thioesterase subfamily, in Chanarin-Dorfman syndrome. Am J Hum Genet. 2001;69(5):1002-1012.
  • Lass A, Zimmermann R, Haemmerle G, et al. Adipose triglyceride lipase-mediated lipolysis of cellular fat stores is activated by CGI-58 and defective in Chanarin-Dorfman Syndrome. Cell Metab. 2006;3(5):309-319.
  • Fischer J, Lefèvre C, Morava E, et al. The gene encoding adipose triglyceride lipase (PNPLA2) is mutated in neutral lipid storage disease with myopathy. Nat Genet. 2007;39(1):28-30.
  • Chanarin I, Patel A, Slavin G, et al. Neutral-lipid storage disease: a new disorder of lipid metabolism. Br Med J. 1975;1(5957):553-555.
  • OMIM #275630 Chanarin-Dorfman syndrome; CDS. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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