チャドリー・マカロー症候群

Chudley-McCullough Syndrome, GPSM2

概要

チャドリー・マカロー症候群は、生まれつきの重い難聴と、脳の形のちがい(脳室の拡大・水頭症、脳梁の部分的な欠損、くも膜嚢胞など)をあわせもつ病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、GPSM2(1p13.3)遺伝子の変化が原因となります。

MRIなどの画像では脳の変化が目立ちますが、知的発達は保たれるか、軽い遅れにとどまる方が多いことが、この病気の大きな特徴です。一方で、難聴は両耳とも生まれつき重度であることがほとんどで、早くから聞こえとことばの支援が必要になります。世界でも報告の少ない、非常にまれな病気です。

GPSM2 遺伝子の変化は、以前は脳の所見がはっきりしない「難聴だけ」の病気(DFNB82)として報告されたこともあります。しかしその後の研究で、同じ遺伝子の変化をもつ方では脳の画像にもチャドリー・マカロー症候群と共通する変化が見られることが多く、同じ病気の幅の一部と考えられるようになっています。難聴だけで見つかった場合でも、脳の画像検査で確認することが大切です。

原因

GPSM2(LGN とも呼ばれます)は、細胞が分裂するときに「どちらの向きに分かれるか」を決める目印のようなはたらきをするたんぱく質です。

脳がつくられるとき、神経のもとになる細胞は決まった向きで分裂をくり返すことで、正しい数と配置の神経細胞を生み出します。また内耳では、音を感じる「有毛細胞」の毛(不動毛)が正しい形と長さに育つためにも、このたんぱく質が必要です。GPSM2 がはたらかないと、脳の形づくりと内耳の聞こえの細胞の両方に影響が出ると考えられています。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

  • 生まれつきの両側の重い難聴:内耳の神経の難聴(感音難聴)で、この病気のもっとも一貫した症状です
  • 脳室の拡大・水頭症:左右差があることが多く、手術が必要になる場合があります
  • 脳梁の部分的な欠損(左右の脳をつなぐ部分が一部できていない状態)
  • くも膜嚢胞、大きな大槽(小脳の後ろの髄液のたまり)
  • 脳のしわの形の異常(多小脳回)や、神経細胞の配置の異常(異所性灰白質)、小脳の形のちがい
  • 運動発達(首すわり・歩き始めなど)の遅れが見られることがあります
  • 知的発達は正常か軽い遅れにとどまることが多いとされていますが、個人差があります

検査・診断

妊娠中の超音波検査で脳室の拡大を指摘され、胎児MRIで脳梁の欠損やくも膜嚢胞などが見つかって疑われることがあります。生まれたあとは、新生児聴覚スクリーニングで難聴が見つかり、頭のMRIで特徴的な脳の所見がそろうことで診断に近づきます。

確定診断は遺伝学的検査で行い、チャドリー・マカロー症候群では GPSM2 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。難聴と脳の変化をあわせもつ病気には、先天性サイトメガロウイルス感染症など遺伝ではない原因もあるため、原因を確定することは、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするうえで大きな意味があります。

治療

現時点で、遺伝子の変化そのものを治す治療はありません。治療は、聞こえとことばの支援、水頭症への対応、発達の支援が中心です。早く気づいて支援を始めることで、お子さまの力を十分に伸ばすことが期待できます。

  • 聞こえの支援:補聴器や人工内耳の検討。手話などの視覚的なコミュニケーションも選択肢になります
  • ことばの療育:言語聴覚士による早期からの支援
  • 水頭症の治療:脳神経外科で、シャント手術や内視鏡による手術を行うことがあります
  • 発達の定期的な確認:運動・ことば・学習の発達を見守り、必要に応じてリハビリテーションを行います
  • 就学や生活の支援:聴覚支援学校や通常学級での配慮など、ご家族と相談しながら選びます

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる GPSM2 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、GPSM2 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

GPSM2(G-protein signaling modulator 2、別名 LGN)は、Gαi および NuMA と複合体を形成し、細胞皮質で紡錘体の向きを規定する。神経前駆細胞では分裂軸の制御を通じて神経新生と皮質形成に関わり、内耳有毛細胞では Gαi とともに頂端面の極性と不動毛の伸長・配列に必要とされる。報告されている病的変化の多くはナンセンス・フレームシフトなどの機能喪失型である。

画像所見は特徴的で、①しばしば非対称な脳室拡大(モンロー孔の閉塞による水頭症)、②脳梁部分欠損、③前頭葉優位の多小脳回・異所性灰白質、④小脳異形成、⑤くも膜嚢胞・大槽拡大の組み合わせが知られる。先天性の高度感音難聴はほぼ全例に見られる一方、画像所見の程度に比して認知機能が保たれやすい点が臨床的に重要である。当初 DFNB82 として非症候群性難聴とされた家系についても、脳画像を評価すれば本症候群と同一スペクトラムに含まれると考えられる。

鑑別としては、先天性サイトメガロウイルス感染症(難聴・脳室拡大・皮質形成異常をきたす非遺伝性の原因)、L1CAM 関連水頭症(X連鎖)、その他の脳梁欠損や皮質形成異常を伴う症候群が挙がる。原因により次子再発率が25%(常染色体潜性)、男児の50%(X連鎖)、ほぼ0%(感染症)と大きく異なるため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。難聴と脳の変化をあわせもつ状態には、妊娠中の感染症など遺伝ではない原因もあり、その場合の再発率は大きく異なります。原因を確定することが重要です。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. 妊娠中の超音波検査で脳室の拡大として気づかれることがありますが、難聴は妊娠中の画像ではわかりません。前のお子さまで診断がついている場合は、妊娠早期からの検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 脳に変化があると、知的な発達にも影響しますか。

A. この病気では、脳の画像の変化が目立つわりに、知的発達は正常か軽い遅れにとどまる方が多いと報告されています。ただし個人差があり、運動発達の遅れや水頭症の経過によって影響が出ることもあります。定期的に発達を確認し、必要な支援を早めに受けることが大切です。

Q. 難聴は治療できますか。

A. 難聴そのものを治す薬はありませんが、補聴器や人工内耳によって聞こえを補うことができます。効果には個人差があり、手話などの方法もあわせて、お子さまに合ったコミュニケーションを耳鼻咽喉科や療育の専門家と一緒に考えていきます。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Chudley AE, McCullough C, McCullough DW. Bilateral sensorineural deafness and hydrocephalus due to foramen of Monro obstruction in sibs: a newly described autosomal recessive disorder. Am J Med Genet. 1997;68(3):350-356.
  • Doherty D, Chudley AE, Coghlan G, et al. GPSM2 mutations cause the brain malformations and hearing loss in Chudley-McCullough syndrome. Am J Hum Genet. 2012;90(6):1088-1093.
  • Walsh T, Shahin H, Elkan-Miller T, et al. Whole exome sequencing and homozygosity mapping identify mutation in the cell polarity protein GPSM2 as the cause of nonsyndromic hearing loss DFNB82. Am J Hum Genet. 2010;87(1):90-94.
  • OMIM #604213 Chudley-McCullough syndrome; CHMCS. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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