概要
コケイン症候群B型は、傷ついた遺伝子(DNA)を修復するしくみの一部がはたらかないために、生まれたあとの成長の遅れ、脳や神経のはたらきの低下、日光への過敏さなどが少しずつ現れる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、ERCC6(10q11.23)遺伝子の変化が原因となります。
コケイン症候群には、原因遺伝子の違いによってA型(ERCC8 遺伝子)とB型(ERCC6 遺伝子)があり、B型はコケイン症候群全体のおよそ3分の2を占める、もっとも多いタイプです。症状はA型とよく似ていますが、B型は症状の重さの幅が特に広く、生まれる前から症状がある最重症のものから、日光過敏だけの軽いものまでが同じ遺伝子で起こります。
多くのお子さまは生まれたときには目立った異常がなく、生後1〜2年ほどのあいだに体重や身長の伸びが止まりはじめることで気づかれます。そのため、妊娠中の超音波検査で見つかることはまれです。
原因
ERCC6 遺伝子は、「CSBたんぱく質」とよばれる、遺伝子の傷を見つけて修復を呼び込む役目のたんぱく質の設計図です。
私たちの遺伝子は、紫外線や体のなかで生じる活性酸素などによって、毎日のように傷ついています。細胞は、いま使っている(読み取り中の)遺伝子の傷を優先して直すしくみを持っており、CSBたんぱく質はその入り口ではたらきます。このしくみがはたらかないと、傷のところで遺伝子の読み取りが止まったままになり、細胞が正しくはたらけなくなったり、死んでしまったりします。特に、エネルギーを多く使う神経の細胞や、成長に関わる細胞が影響を受けやすいと考えられています。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 生まれたあとの成長障害:体重・身長の伸びが止まり、やせが進みます。この病気のもっとも中心的な症状です
- 小頭症と発達の遅れ:頭の大きさの伸びが遅れ、ことばや運動の発達がゆっくりになります
- 神経症状が少しずつ進む:歩きにくさ、ふらつき、手足のつっぱり、関節が固くなる(拘縮)などが年齢とともに目立ってきます
- 日光への過敏さ:日に当たると赤くなりやすく、水ぶくれができることもあります(皮膚がんが増えることは知られていません)
- 目の症状:白内障、網膜の色素の変化、目が奥にくぼんで見える顔つき
- 難聴:内耳の神経による難聴が、少しずつ進むことがあります
- むし歯ができやすい、歯の形の異常
- 高血圧、腎臓や肝臓のはたらきの低下が加わることがあります
症状の重さによって、典型的な型(I型:乳幼児期に発症)、重い型(II型:生まれたときから成長障害や白内障がある)、軽い型(III型:発症が遅く進行がゆるやか)に分けられます。見通しは型によって大きく異なり、重い型では幼児期、典型的な型では10代前後に亡くなることが多いと報告されています。軽い型では成人まで過ごされる方もいます。
検査・診断
乳幼児期の体重・身長の伸びの停滞、小頭症、発達の遅れ、日光過敏、白内障や網膜の変化、難聴などの組み合わせから疑われます。頭部のMRIやCTでは、脳の白質の変化や、脳のなかの石灰化(カルシウムの沈着)が見られることが多く、診断の手がかりになります。
確定診断は遺伝学的検査で行い、コケイン症候群B型では ERCC6 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。A型(ERCC8)と症状だけで見分けることは難しいため、どちらの遺伝子が原因かを確定することが、ご家族の今後の検査や相談に直結します。
治療
現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。治療は、それぞれの症状に合わせた対症療法と、生活の質を保つための支援が中心です。小児科・神経科・眼科・耳鼻科・歯科・リハビリなど、多くの専門家がチームでかかわることが大切です。
- 栄養の支援:食事の工夫や、必要に応じて胃ろうなどによる栄養の補給
- 日光対策:日焼け止め、帽子や衣服による紫外線の防御
- 目と耳のケア:白内障の手術、補聴器の使用、定期的な検査
- リハビリテーション:関節の拘縮の予防、運動機能の維持
- 定期的な健康チェック:血圧、腎臓・肝臓のはたらき、歯の検診
- お薬への注意:一部の抗菌薬(メトロニダゾール)で重い肝障害が報告されているため、服薬の際は主治医に病名を必ずお伝えください
- ご家族への支援:療育・福祉サービスの利用、心理的な支え
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる ERCC6 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、ERCC6 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
ERCC6 がコードするCSBは、SWI/SNF型のATP依存性クロマチンリモデリング因子に属するたんぱく質で、転写共役ヌクレオチド除去修復(TC-NER)の開始段階を担う。転写中のRNAポリメラーゼIIがDNA損傷で停止すると、CSBがこれを認識してCSA(ERCC8)を含むユビキチンリガーゼ複合体や下流の修復因子を呼び込む。全ゲノム型ヌクレオチド除去修復(GG-NER)は保たれるため、色素性乾皮症と異なり皮膚がんの増加は認めない。神経変性や早老様症状は、修復欠損に加えて、酸化的DNA損傷への対応、転写回復、ミトコンドリア機能の障害が関与すると考えられている。
本遺伝子の変化は、重症度の連続した病型をつくる——重症端から順に、①脳・眼・顔・骨格症候群1型(COFS1:出生時から先天性白内障・小眼球・関節拘縮があり、乳児期に死亡することが多い)、②コケイン症候群II型(先天性・重症型)、③I型(古典型)、④III型(遅発・軽症型)、⑤紫外線高感受性症候群1型(UVSS1:日光過敏とそばかす様色素斑のみで、成長障害や神経症状を欠く)となる。UVSS1ではCSBたんぱく質がほぼ完全に欠失するにもかかわらず軽症である例が報告されており、変異の種類と重症度の関係は単純ではない。
鑑別としては、コケイン症候群A型(ERCC8、5番染色体)、色素性乾皮症とコケイン症候群の合併型(ERCC2・ERCC3・ERCC5 など、皮膚がんの危険が高い)、硫黄欠乏性毛髪発育異常症、そのほかの白質変性症や先天感染症による脳内石灰化が挙がる。A型とB型は臨床像から区別できないため、遺伝子診断によって原因遺伝子を確定し、ご家族の保因者検査・出生前検査・着床前検査の対象を明らかにすることが重要である。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。2分の1の確率で症状のないキャリアに、4分の1の確率で変化を受け継がないお子さまになります。ご家族の遺伝子の変化が分かっていれば、次の妊娠で出生前検査や着床前検査を検討することができます。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 多くの場合、生まれたときには目立った症状がないため、妊娠中の超音波検査で気づかれることはまれです。重い型では、胎児の発育の遅れなどが見られることもあります。前のお子さまで原因となる変化が分かっている場合は、遺伝学的検査で妊娠中に調べることができます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. A型とB型では何が違いますか。
A. 原因となる遺伝子が違います(A型は ERCC8、B型は ERCC6)。症状はよく似ていて見た目では区別できませんが、B型のほうが患者さんの数が多く、同じ遺伝子で、より重い型から日光過敏だけの軽い病気まで、幅広い症状が起こることが知られています。ご家族の検査では、どちらの遺伝子かを確定することが大切です。
Q. 日光に当たると皮膚がんになりやすいのですか。
A. 日に当たると赤くなりやすい日光過敏はありますが、似た病気の色素性乾皮症と違い、皮膚がんが増えることは知られていません。それでも、皮膚の負担を減らすために、日焼け止めや帽子などの日光対策をおすすめします。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- Laugel V. Cockayne Syndrome. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-.
- OMIM #133540 Cockayne syndrome B; CSB. Online Mendelian Inheritance in Man.
- Troelstra C, van Gool A, de Wit J, Vermeulen W, Bootsma D, Hoeijmakers JH. ERCC6, a member of a subfamily of putative helicases, is involved in Cockayne’s syndrome and preferential repair of active genes. Cell. 1992;71(6):939-953.
- Nance MA, Berry SA. Cockayne syndrome: review of 140 cases. Am J Med Genet. 1992;42(1):68-84.
- Laugel V, Dalloz C, Durand M, et al. Mutation update for the CSB/ERCC6 and CSA/ERCC8 genes involved in Cockayne syndrome. Hum Mutat. 2010;31(2):113-126.
