エルサヒ・ウォーターズ症候群

Elsahy-Waters syndrome, CDH11

概要

エルサヒ・ウォーターズ症候群は、顔つき(とくに目と目の間隔が広いこと)、歯、首の骨、男の子の性器などに特徴があらわれる、まれな生まれつきの病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、CDH11(16q21)遺伝子の変化が原因となります。

1971年に、顔や顎(あご)のもとになる「鰓弓(さいきゅう)」、骨格、性器の3つに特徴がみられる病気として初めて報告され、当初は「鰓弓・骨格・性器症候群(branchio-skeleto-genital syndrome)」と呼ばれていました。報告例は世界でもごくわずかで、症状の幅や長い目で見た経過については、まだ分かっていないことが多い病気です。

多くの骨系統疾患と違い、この病気そのものが命にかかわることは通常は少ないと考えられています。一方で、歯の根の異常や顎の嚢胞(のうほう)、顔の左右差など、成長とともに目立ってくる症状があり、歯科・口腔外科を含めた長期的な見守りが大切です。

CDH11 遺伝子は、変化の仕方によって別の病気も起こします。この病気は、両親から受け継いだ2本の CDH11 遺伝子がどちらもはたらかなくなることで起こるのに対し、片方の遺伝子だけに特定の変化があるとき(顕性遺伝)には、目と目の間隔が広いことを主な特徴とする別の病気(ティービー型眼間開離症候群)が報告されています。歯の根の異常、首の骨の癒合、知的発達の遅れを伴いやすいことが、エルサヒ・ウォーターズ症候群の特徴です。

原因

CDH11 は、「カドヘリン11」という、細胞どうしをくっつける“のり”の役割をするたんぱく質の設計図です。骨をつくる細胞(骨芽細胞)に多く見られることから「骨芽細胞カドヘリン」とも呼ばれます。

おなかの赤ちゃんの顔や顎、歯、骨は、もとになる細胞が決まった場所に集まり、互いにくっつき合いながら形をつくっていきます。カドヘリン11がはたらかないと、この細胞どうしのつながりや移動がうまくいかず、顔の骨・歯・首の骨などの形づくりに影響が出ると考えられています。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。男の子にも女の子にも起こりえます。

症状

報告例が少ないため、すべての方に同じ症状が出るわけではありません。これまでに報告されている主な特徴は次のとおりです。

  • 特徴的な顔つき:目と目の間隔が広い(眼間開離)、目が前に出て見える、鼻の付け根が広い、顔の中央部が平たい、頭の前後が短い、などがみられます
  • 顔の左右差:成長とともに顔の左右の非対称が目立ってくることがあります
  • 歯の異常:歯の根が短く形成が不十分になる、歯が生えてこない・生えるのが遅れるなどがみられ、この病気のもっとも特徴的な所見のひとつです
  • 顎の骨の嚢胞:生えてこない歯のまわりなどに袋状の病変ができ、手術が必要になることがあります
  • 首の骨(頸椎)の癒合:首の骨の一部がくっついていることがあります
  • 男の子の性器の異常:尿の出口が先端ではなく裏側にある「尿道下裂」などが報告されています
  • 知的発達の遅れ(多くは軽度〜中等度とされます)
  • そのほか、まぶたや胸の形の異常、聞こえにくさなどが報告された例もあります

検査・診断

多くは、出生後の特徴的な顔つきや、乳幼児期以降の歯の生え方の異常から疑われます。歯科のX線検査で歯の根の形成不全や顎の嚢胞が、首のX線検査で頸椎の癒合が見つかることが診断の手がかりになります。妊娠中の超音波検査では、目と目の間隔の広さなどに気づかれることはあっても、この病気と特定することは通常は難しいと考えられます。

確定診断は遺伝学的検査で行い、エルサヒ・ウォーターズ症候群では CDH11 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。似た顔つきを示す病気は多く、遺伝形式もさまざまなため、原因遺伝子を確定することは、今後の見通しや次のお子さまへの影響を正しくお伝えするうえで大きな意味があります。

治療

現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。それぞれの症状に合わせた治療(対症療法)と、成長・発達の支援を、小児科・歯科・口腔外科・形成外科・泌尿器科など複数の診療科が連携して行います。

  • 歯科・口腔外科での定期的な管理:歯の根の状態や顎の嚢胞を定期的に確認し、必要に応じて嚢胞の治療や歯の治療・補綴(入れ歯など)を行います
  • 顔の形の治療:顔の左右差や骨格の問題に対して、成長を見ながら形成外科・口腔外科の手術が検討されることがあります
  • 尿道下裂の手術:泌尿器科で時期を相談して行います
  • 首の骨の評価:頸椎の癒合がある場合は、整形外科で経過を確認します
  • 発達の支援:療育やことばの訓練、就学に向けた支援を行います
  • 聞こえや目の定期的なチェック

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる CDH11 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、CDH11 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

CDH11(cadherin-11、OB-cadherin)は間葉系細胞に発現する古典的Ⅱ型カドヘリンで、カルシウム依存性の同種親和性細胞接着を担う。骨芽細胞、神経堤由来の頭蓋顔面間葉、歯の発生に関わる間葉に発現し、細胞の凝集・移動・分化の制御に関与する。

エルサヒ・ウォーターズ症候群は、2018年に複数家系のエクソーム解析から CDH11 の両アレル性機能喪失型変異(ナンセンス・フレームシフトなど)が原因と同定された。中核症状は眼間開離・眼球突出・中顔面低形成・短頭を伴う顔貌、根部象牙質異形成と歯の萌出障害、歯原性嚢胞、進行性の顔面非対称、頸椎癒合、尿道下裂、知的障害である。一方、CDH11 のヘテロ接合性変異(細胞外ドメインのミスセンスなど)は、顕性遺伝のティービー型眼間開離症候群として報告されており、同一遺伝子で機能喪失(潜性)と機能変化(顕性)による異なる表現型をとる点が注目される。報告例が少なく、遺伝型と表現型の関連はまだ十分に確立していない。

鑑別としては、ティービー型眼間開離症候群(SPECC1L、CDH11 ヘテロ接合)、前頭鼻異形成症、オピッツG/BBB症候群(尿道下裂と眼間開離を伴う)、頭蓋前頭鼻症候群(EFNB1、X連鎖)などが挙がる。これらは遺伝形式が異なり、次子再発率が25%(潜性)、50%(顕性)、ほぼ0%(新生突然変異)と大きく違うため、遺伝子診断は遺伝カウンセリングに直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。似た顔つきを示す病気には、顕性遺伝のものや偶発的に起こるものもあり、それぞれ再発率が異なります。正確な見通しのために、原因遺伝子を確定することが重要です。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. この病気は、妊娠中の超音波検査だけで見つけることは難しく、多くは生まれたあとに顔つきや歯の様子から気づかれます。前のお子さまやご家族で原因の遺伝子変化が分かっている場合は、出生前の遺伝学的検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 同じ遺伝子で別の病気もあると聞きました。

A. はい。CDH11 遺伝子の片方だけに特定の変化がある場合には、目と目の間隔が広いことを主な特徴とする別の病気(ティービー型眼間開離症候群)が報告されています。エルサヒ・ウォーターズ症候群は、2本とも変化している場合に起こり、歯の根の異常や首の骨の癒合を伴いやすい点が異なります。

Q. 大人になるまで、どのような見守りが必要ですか。

A. 歯の根の異常や顎の嚢胞、顔の左右差は成長とともに変化するため、歯科・口腔外科での定期的な確認がとくに大切です。あわせて、発達の支援、聞こえや目のチェックなどを、成長に合わせて続けていきます。報告例が少ない病気のため、担当の医師とよく相談しながら進めてください。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Elsahy NI, Waters WR. The branchio-skeleto-genital syndrome: a new hereditary syndrome. Plast Reconstr Surg. 1971;48(6):542-550.
  • Harms FL, Nampoothiri S, Anazi S, et al. Elsahy-Waters syndrome is caused by biallelic mutations in CDH11. Am J Med Genet A. 2018;176(2):477-482.
  • OMIM #211380 Elsahy-Waters syndrome. Online Mendelian Inheritance in Man.
  • OMIM *600023 Cadherin 11; CDH11. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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