フランク・テル・ハール症候群

Frank-ter Haar Syndrome, SH3PXD2B

概要

フランク・テル・ハール症候群は、頭や顔の形、目、骨、心臓などに特徴的な変化があらわれる生まれつきの病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、SH3PXD2B(5q35.1)遺伝子の変化が原因となります。

この病気の特徴は、大泉門(頭のてっぺんのやわらかい部分)が大きく開いたままになること、「角膜が大きい」「緑内障」などの目の症状、手足の長い骨の曲がり、そして心臓の病気が組み合わさってあらわれることです。症状の重さには幅があり、心臓や呼吸の合併症によって乳幼児期に亡くなるお子さまがいる一方、成長して学校生活を送るお子さまもいます。

同じ SH3PXD2B 遺伝子の変化は、ボローネ皮膚・心臓・骨格症候群という病気も起こすことが報告されています。こちらは皮膚が厚くなる、にきびのような皮膚の変化、歯ぐきの腫れなどの皮膚の症状が目立ち、成人まで生きる方が多い点が異なります。フランク・テル・ハール症候群は、生まれたときから頭・目・骨の特徴がはっきりしている型と考えると分かりやすいでしょう。

原因

SH3PXD2B(TKS4 とも呼ばれます)は、細胞がまわりの組織を削ったり作り替えたりするときに使う「足場」をつくるたんぱく質の設計図です。

骨や頭蓋骨、目、心臓の弁などが正しい形に育つには、細胞が周囲の組織を少しずつ壊しながら新しく組み立て直すはたらきが欠かせません。SH3PXD2B のはたらきが失われると、この組み立て直しがうまく進まず、頭蓋骨の閉じ方、目の前側の形、長い骨の形、心臓の構造などに変化が生じると考えられています。

お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。

症状

  • 頭の形の特徴:前後に短い頭の形、大きく開いた大泉門、閉じるのが遅い頭の骨のすき間、広く張り出したおでこ
  • 目の症状:角膜が大きい(巨大角膜)、先天性の緑内障、目が前に出て見えるなど。視力を守るために早めの眼科受診が大切です
  • 顔つきの特徴:目と目の間が広い、ふっくらした頬、小さめのあご、鼻の根元が平ら
  • 骨の変化:腕や脚の長い骨の曲がり、背骨の曲がり(側弯・後弯)、指の関節が伸びにくい、成長してから目立つ尾骨の出っ張り
  • 心臓の病気:心房中隔欠損・心室中隔欠損などの生まれつきの心臓の病気や、弁の異常。見通しに大きく関わる症状です
  • 成長の遅れ、低い身長
  • 発達の遅れ(ないお子さまから軽いお子さままで幅があります)、一部で難聴
  • 一部のお子さまで、頭の骨のつなぎ目が早く閉じる(頭蓋骨縫合早期癒合症)ことによる頭の中の圧の上昇が報告されています

検査・診断

多くは生まれたあとに、大きく開いた大泉門、大きな角膜や緑内障、特徴的な顔つき、手足の骨の曲がりから疑われます。X線検査で長い骨の曲がりや背骨の変化を、心臓超音波検査で心臓の病気を、眼科で角膜の大きさや眼圧を確認します。妊娠中の超音波検査で、骨の曲がりや心臓の病気を指摘されることもありますが、妊娠中の画像だけで診断を確定することは難しい病気です。

確定診断は遺伝学的検査で行い、SH3PXD2B 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。似た症状を示す病気には遺伝形式の異なるものがあるため、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするうえで、原因遺伝子を確定することには大きな意味があります。

治療

現時点で、この病気そのものを治す治療はありません。治療は、それぞれの症状に合わせた対症療法と、成長・発達の支援が中心です。複数の診療科が連携して、お子さまの状態を継続的に見守ります。

  • 心臓:小児循環器科で定期的に評価し、必要に応じて薬による治療や手術を検討します
  • 目:緑内障は早く見つけて治療することで視力を守れる可能性があります。点眼薬や手術を行い、定期的に眼圧を確認します
  • 骨・背骨:整形外科で骨の曲がりや側弯の進み具合を確認し、装具や手術を検討します
  • 頭:頭の骨のつなぎ目が早く閉じて頭の中の圧が高くなる場合は、脳神経外科での手術を検討します
  • 聞こえと発達:聴力検査、療育、リハビリテーションなど、成長段階に応じた支援を行います
  • ご家族への遺伝カウンセリングと心理的支援

この疾患は検査でわかります

この疾患は、原因となる SH3PXD2B 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。

エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)

エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、SH3PXD2B 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。

この疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝のため、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。

専門的な解説

SH3PXD2B(TKS4)は、N末端の PX ドメインと4つの SH3 ドメインをもつポドソーム(podosome)形成のアダプター蛋白で、Src キナーゼの基質としてはたらく。ポドソームは細胞外基質の局所的な分解・再構築を担う構造であり、TKS4 の欠損ではポドソーム形成と基質分解能が障害される。Iqbal らは2010年、フランク・テル・ハール症候群の複数家系で SH3PXD2B の両アレル性機能喪失変異を同定した。

Sh3pxd2b 欠損マウスは頭蓋顔面の形態異常、緑内障を含む眼異常、骨格異常、難聴、脂肪組織の減少を示し、ヒトの表現型をよく再現する。臨床的には短頭、大泉門開大、眼間開離、巨大角膜/先天緑内障、長管骨の弯曲、先天性心疾患が中核で、乳幼児期の死亡例の多くは心血管系の合併症による。矢状縫合早期癒合と頭蓋内圧亢進の報告もあり、頭囲・眼底の経過観察が勧められる。

同一遺伝子の変異はボローネ皮膚・心臓・骨格症候群でも同定されており、こちらは皮膚の肥厚・集簇性痤瘡様病変・歯肉増殖・骨溶解・僧帽弁逸脱などを示し、成人期まで生存する例が多い。両者は同一スペクトラム上の疾患とみなす考え方もある。鑑別としては、メルニック・ニードルス症候群(FLNA、X連鎖顕性)、Torg-Winchester症候群(MMP2)、Winchester症候群(MMP14)が挙がる。臨床的にフランク・テル・ハール症候群と診断されながら SH3PXD2B に変異を認めない例も報告されており、遺伝学的確定は再発率の説明に直結する。

よくある質問

Q. 次のお子さまへの影響はありますか。

A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。症状のないごきょうだいがキャリアである確率は3分の2です。ご両親の遺伝子の変化が分かっていれば、次の妊娠で出生前検査や着床前検査を検討することができます。

Q. 妊娠中に分かりますか。

A. 妊娠中の超音波検査で、骨の曲がりや心臓の病気を指摘されることはありますが、画像だけでこの病気と確定することは難しく、多くは生まれたあとに気づかれます。前のお子さまで原因となる遺伝子の変化が分かっている場合は、妊娠中に遺伝学的検査で調べることを検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。

Q. 同じ遺伝子で別の病気もあると聞きました。

A. はい。SH3PXD2B 遺伝子の変化は、ボローネ皮膚・心臓・骨格症候群という病気も起こします。こちらは皮膚が厚くなるなどの皮膚の症状が目立ち、成人まで生きる方が多いのが特徴です。フランク・テル・ハール症候群では、生まれたときから大泉門の開大、目の症状、骨の曲がりがはっきりしている点が異なります。

Q. 目が見えなくなることはありますか。

A. 先天性の緑内障を伴う場合、治療をしないまま放っておくと視力が下がるおそれがあります。生まれてまもなくから眼科で眼圧や角膜の状態を確認し、必要に応じて早めに治療を始めることで、視力をできるだけ守ることを目指します。

Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。

A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。

参考文献

  • Iqbal Z, Cejudo-Martin P, de Brouwer A, et al. Disruption of the podosome adaptor protein TKS4 (SH3PXD2B) causes the skeletal dysplasia, eye, and cardiac abnormalities of Frank-Ter Haar Syndrome. Am J Hum Genet. 2010;86(2):254-261.
  • Mao M, Thedens DR, Chang B, et al. The podosomal-adaptor protein SH3PXD2B is essential for normal postnatal development. Mamm Genome. 2009;20(8):462-475.
  • Bendon CL, Fenwick AL, Hurst JA, et al. Frank-ter Haar syndrome associated with sagittal craniosynostosis and raised intracranial pressure. BMC Med Genet. 2012;13:104.
  • Wilson GR, Sunley J, Smith KR, et al. Mutations in SH3PXD2B cause Borrone dermato-cardio-skeletal syndrome. Eur J Hum Genet. 2014;22(6):741-747.
  • OMIM #249420 Frank-ter Haar syndrome; FTHS. Online Mendelian Inheritance in Man.
医師監修 監修日:2026年11月3日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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