概要
フレイザー症候群1型は、まぶたがつくられず皮膚が目をおおう「潜在眼球(せんざいがんきゅう)」、手足の指がくっつく「合指(ごうし)」、腎臓・外性器・のど(喉頭)の形の異常などが組み合わさって起こる先天性の病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとり、FRAS1(4q21.21)遺伝子の変化が原因となります。
症状の重さには大きな幅があります。両方の腎臓がない場合や、喉頭がふさがっている場合には、死産や生まれてまもなく亡くなることがあります。一方、腎臓や呼吸の問題が軽い場合には、成人まで生活される方もいます。重い場合は、妊娠中の超音波検査で羊水の少なさや肺の異常から気づかれることが多い病気です。
フレイザー症候群は、原因遺伝子によって1型(FRAS1)、2型(FREM2)、3型(GRIP1)に分けられます。この1型は FRAS1 遺伝子が原因の型で、原因遺伝子がわかった患者さんのなかで多くを占めるとされています。3つの型は症状がよく似ており、見た目だけで型を区別することは難しいため、どの遺伝子が原因かは遺伝学的検査で確かめます。
原因
FRAS1 は、皮膚の表面の層(表皮)とその下の組織とのあいだにある「基底膜」という薄い膜に含まれるたんぱく質をつくる遺伝子です。
おなかの赤ちゃんの体がつくられる時期に、FRAS1 は FREM1・FREM2 という仲間のたんぱく質と組み合わさり、表皮を下の組織にしっかりと貼りつける役目を果たしています。FRAS1 がはたらかないと、胎児期に表皮が下の組織からはがれて水ぶくれができ、まぶたが分かれて開く、指が一本ずつに分かれる、腎臓が育つといった、組織どうしのやりとりで進む体づくりがうまく進まなくなります。その結果、目・指・腎臓・喉頭などに形の異常が生じます。
お父さま・お母さまがそれぞれ症状のないキャリア(保因者)で、その両方から変化した遺伝子を受け継いだときに発症します(常染色体潜性遺伝)。
症状
- 潜在眼球:まぶたがつくられず、皮膚が目の表面をおおっています。片目のことも両目のこともあり、目そのものにも形の異常を伴うことが多く、視力が大きく損なわれることがあります
- 合指(合趾):手足の指の皮膚がくっついています。この病気で最もよく見られる症状のひとつです
- 腎臓の異常:片側または両側の腎臓がない、または小さいことがあります。両側の腎臓がない場合は羊水がほとんどなくなり、肺が育たないため、生まれたあとに生きることが難しくなります
- 喉頭の狭窄・閉鎖:声帯のあたりが狭い、またはふさがっています。完全にふさがっている場合は、生まれた直後から自分で呼吸ができません
- 外性器の異常:外見から性別がはっきりしないことがあります
- 耳の形の異常、鼻の形の異常、おへそや肛門の異常
- 成長されたお子さまでは、知的発達の遅れが見られることがありますが、発達に問題のない方もいます
検査・診断
妊娠中の超音波検査で、羊水過少と腎臓が見えないこと、または喉頭がふさがっているために肺が大きく白っぽく見え、横隔膜が押し下げられ、腹水がたまることから疑われることがあります。目や指の異常は超音波ではとらえにくいこともあります。出生後は、目・指・腎臓・喉頭などの特徴的な所見を組み合わせて診断します。
確定診断は遺伝学的検査で行い、フレイザー症候群1型では FRAS1 遺伝子に父方・母方それぞれ由来の変化が見つかります。2型・3型とは症状だけでは区別が難しいため、原因遺伝子を確定することが、次のお子さまの見通しを正しくお伝えするうえで大きな意味をもちます。
治療
現時点で、この病気を根本から治す治療はありません。症状ごとに、小児科・眼科・形成外科・泌尿器科・耳鼻咽喉科などが協力して治療と支援を行います。重い症状が出生前にわかった場合は、ご家族と医療チームが十分に話し合い、出生後の方針をあらかじめ決めておくことが大切です。
- 呼吸の確保:喉頭が狭い・ふさがっている場合は気管切開を行います。出生前にわかっていれば、分娩時に気道を確保する特別な方法を検討することがあります
- 腎臓の管理:片側の腎臓がない場合は、残った腎臓のはたらきを定期的に確認します
- 目の治療:まぶたをつくる手術などを行うことがありますが、視力の改善は限られることが多いのが現状です
- 合指の手術:手の動きを良くするために指を分ける手術を行います
- 外性器・肛門の治療:必要に応じて手術を行います。性別の判断は専門のチームとご家族で慎重に話し合います
- 発達と視覚の支援:療育や、見えにくさに合わせた支援を早くから始めます
- 緩和ケアとご家族への心理的支援:生きることが難しい重い場合には、お子さまの苦痛を和らげ、ご家族が過ごす時間を大切にする支援を行います
この疾患は検査でわかります
この疾患は、原因となる FRAS1 遺伝子を調べることで、発症前や出生前に見つけることができます。ヒロクリニックNIPTでは次の検査をご用意しています。
エクソーム解析を用いた検査(1,200種類以上)
エクソーム解析は、遺伝子のうちたんぱく質の設計図にあたる部分(エクソン)をまとめて読み取る検査です。この解析を行ったうえで、FRAS1 遺伝子を含む1,200種類以上の遺伝子を対象に調べ、この疾患の原因となる変化を検出することが可能です。国内の検査所で行い、結果までの期間は5週間〜7週間です。
常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患は、ご両親がどちらも症状のない「キャリア(保因者)」であるときに、4分の1の確率でお子さまが発症します。検査の内容・費用・結果までの期間は キャリアスクリーニングテスト1,200+のページ をご覧ください。
専門的な解説
FRAS1 は約4,000アミノ酸からなる大型の細胞外マトリックスたんぱく質で、表皮基底膜の緻密板直下に FREM1・FREM2 と三者複合体を形成し、胎生期の上皮–間葉間の接着を担う。複合体の各成分は互いの安定化に必要であり、足場たんぱく質 GRIP1 はこれらを基底側へ輸送・配置する役割をもつ。いずれかが欠損すると胎生期に表皮下の水疱(blebs)が生じ、眼瞼形成、指間の分離、尿管芽–後腎間葉の相互作用などが障害される。マウスでは Fras1 欠損が blebbed 表現型を示し、潜在眼球・合指・腎無形成というヒトと同様の所見を再現する。
臨床診断には van Haelst らの基準(2007年)が用いられ、大症状(合指、潜在眼球スペクトラム、尿路異常、外性器異常、喉頭・気管の異常、同胞発症)と小症状(肛門直腸異常、耳介の形成異常、頭蓋骨化異常、臍の異常、鼻の異常)の組み合わせで判定する。潜在眼球は必須ではなく、潜在眼球を欠く症例も存在する。予後を規定するのは主に両側腎無形成と喉頭閉鎖であり、報告例ではかなりの割合が死産または乳児期に死亡している。喉頭閉鎖は胎児期に先天性上気道閉塞症候群(CHAOS)として、肺の腫大・高輝度化、横隔膜の平坦化・反転、腹水を呈する。
鑑別としては、フレイザー症候群2型(FREM2)・3型(GRIP1)が挙がるが、臨床像はほぼ重なり、型の区別は遺伝子診断による。同じ複合体の FREM1 の異常はマニトバ眼毛髪肛門症候群など、より軽い表現型を示す。ほかに、CHAOS を呈する他原因、両側腎無形成を伴う他症候群、羊膜索による変形などが鑑別となる。FRAS1 の変化は非症候性の腎尿路異常の症例でも報告されている。いずれの型も常染色体潜性で同胞再発率は25%であり、近親婚家系での報告が多い。原因遺伝子と両親の変化を確定しておくことが、次子の出生前診断・着床前検査の前提となる。
よくある質問
Q. 次のお子さまへの影響はありますか。
A. この病気は常染色体潜性遺伝のため、ご両親がどちらもキャリアの場合、お子さまごとに4分の1の確率で発症します。お子さまの性別による違いはありません。原因遺伝子とご両親それぞれの変化を確定しておくと、次の妊娠で出生前検査や着床前検査を検討できるようになります。
Q. 妊娠中に分かりますか。
A. 両側の腎臓がない場合や喉頭がふさがっている場合は、妊娠中期以降の超音波検査で、羊水の少なさや肺の異常から気づかれることが多いです。一方、目や指の異常だけの場合は、妊娠中に見つけにくいことがあります。前のお子さまで診断がついている場合は、妊娠早期からの検査を検討できます。遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 目は見えるようになりますか。
A. まぶたをつくる手術などを行うことはありますが、目の内部にも形の異常を伴うことが多く、視力の回復は限られることが多いのが現状です。見えにくさに合わせた療育や生活の支援を、早い時期から受けられるよう準備することが大切です。
Q. 1型と2型・3型は何が違うのですか。
A. 違いは原因となる遺伝子です。1型は FRAS1、2型は FREM2、3型は GRIP1 の変化で起こります。症状はよく似ていて見た目では区別できないため、遺伝学的検査で型を確かめます。ご家族のキャリア検査や次の妊娠での検査では、確定した遺伝子を調べることになります。
Q. 遺伝カウンセリングでは何を相談できますか。
A. 診断の意味、次のお子さまへの影響、出生前検査や着床前検査の選択肢、ごきょうだいやご親族への影響などをご相談いただけます。判断を急がせることはありません。
参考文献
- McGregor L, Makela V, Darling SM, et al. Fraser syndrome and mouse blebbed phenotype caused by mutations in FRAS1/Fras1 encoding a putative extracellular matrix protein. Nat Genet. 2003;34(2):203-208.
- Vrontou S, Petrou P, Meyer BI, et al. Fras1 deficiency results in cryptophthalmos, renal agenesis and blebbed phenotype in mice. Nat Genet. 2003;34(2):209-214.
- Slavotinek AM, Tifft CJ. Fraser syndrome and cryptophthalmos: review of the diagnostic criteria and evidence for phenotypic modules in complex malformation syndromes. J Med Genet. 2002;39(9):623-633.
- van Haelst MM, Scambler PJ, Fraser Syndrome Collaboration Group, Hennekam RC. Fraser syndrome: a clarification of the diagnostic criteria. Am J Med Genet A. 2007;143A(24):3194-3203.
- OMIM #219000 Fraser syndrome 1. Online Mendelian Inheritance in Man.
